2023年08月05日01時34分掲載  無料記事
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映画トマ・ピケティ原作『21世紀の資本』 資本主義の意味を4世紀にわたって100分で俯瞰する

  世界的にヒットしたフランスの経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本』は2020年に映画版が作られた。ピケティ以外にも様々な経済学者や経済史家、歴史学者、心理学者、ジャーナリスト、政治アナリスト、世界経済アナリストらが登場している。1970年代あたりから始まった新自由主義革命によって格差が広がり、ソ連崩壊とともに今は資本主義が野放しになり、第一次世界大戦前夜の状況に来ているという。実際に2年後にウクライナで戦争が起きたが、イデオロギーではなく、国粋主義・ナショナリズムを基盤に領土の獲得・確保を目指したある意味で第一次大戦に似た戦争だ。しかし、ピケティはこれはまだ序の口で、世界の格差は18世紀に向かって逆戻りしている恐れがあると言う。 
 
▼フランス革命「以前」に向かう日本 
 
  18世紀とはまさにフランス革命前夜のアンシャンレジームの時代であり、1%の特権階級が99%を支配した時代である。その時代に実際に経済学的な視点では戻りつつある、というのだ。その理由はr>gという有名な不等式から得られるが、それ自体はこの映画では触れられていない。それよりもこの4〜5世紀の資本の動きを一貫して歴史を追いながら俯瞰していくのである。それぞれの詳細な事情までは語りきれないが、むしろ歴史を縦に俯瞰することで何が人類に起き、私たちがどこにいるのかがわかるように作られている。そして、インタビューが飽きないように各所にインサート動画や映画のクリップが挿入されている。退屈な講義などとは異なる100分超である。今日、パリに研修旅行をした自民党議員がマリー・アントワネットとか、ルイ16世などと揶揄されているが、冗談ではなく、私たちはすでに過去の時代まで戻っているのである。さらにロボットが導入されたら・・・この映画は今の文明の行き着く末路を描いている。 
 
▼ 変質した「第四の権力」国民監視・誘導・統制機関に 
 
  さて、ここからは、この映画で描かれていない私なりの感想である。この悪夢的な状況がいわゆる「民主主義」で生まれてきたことは驚きだ。近代に入り、旧体制が払しょくされ、民主化が進んできた時、それを牽引したのは第四の権力だった報道=ジャーナリズムだった。その意味は権力の監視であった。ところが、民主主義から旧体制が始まっている理由は、第四の権力の変質にある。すなわち、マスメディアが報道の責務を放棄し、権力を翼賛する「第四の権力」に転じたことだ。この新たに模様替えした第四の権力は、民衆を監視し、民衆に誤った解釈を与え、民衆の思考を不可能にし、一貫して揺るぎなく権力を支える。これは米国のアイゼンハワーが警告した軍産複合体の一角にマスメディアが堂々と臆面もなく参画したことにある。マスメディアは今日、日本においても軍産複合体の中核を占めた。そして、大企業や大放送局だけでなく、その末端に連なる小さなメディア企業までその利益の分け前にあずかろうと必死に営業している有様だ。だが、それらの原資は究極のところ、税金なのである。 
 
▼軍産複合体の一部となったマスメディア 
 
  そう、第四の権力は今日では「マスメディア=政治権力」の複合体を作り、それが軍需産業とさらに複合して大きな戦争機械を形成している。そして庶民は生きているのがやっとの暮らしを強いられる中、軍需産業が大きく利益を上げている。マスメディアの社員と局員は軍産複合体の一員として繁栄を享受し、同じ複合体の一塊となった。もちろん、マスメディアが戦争の怖さを報じることは時々あっても、それはガス抜きに過ぎまい。かつて報道が真の第四の権力だった時代の記者たちは命がけでも、盗みまでしても戦争を止めようとした。そういうエートスは今のマスメディアにはほとんどない。あったとしてもごく例外である。しかも、その場合もガス抜きに利用されている。そしてメディアは討論番組を作って、政治家を創り出しさえし、売り出したい政治家と政党を勝たせている。維新の会の歴史を見れば象徴的にわかるだろう。さらに、「辛口」を売りにした「ジャーナリスト」が、いかにイケメン二世議員(三世か?)には、甘いおじいちゃん然としていたか。 
 
▼歴史性を欠いた番組と記事 
 
  民主主義でありながらなぜ差別と不公平が拡大する政治を国民が選ぶのか。この矛盾に向き合うことが大切だ。しかし、その前にこの『21世紀の資本』を見た方がよいだろう。今日、マスメディアは真の意味で歴史性を排除し、そのコンテンツは物事の意味がわからないように構成されているからだ。しかし、資本主義の歴史という意味では、フェルナン・ブローデルの『資本主義のダイナミズム』という書と併用したらより歴史を縦に一貫して見ることができるだろう。ブローデルのこの書は『歴史入門』というタイトルで邦訳も出ているのだが、資本主義が「史的システムとしての資本主義」に切り替わる時期が重要だということを教えてくれる。『資本主義のダイナミズム』はもっと古い時代から記述が始まっているが、資本主義自体は古来に始まっていたからだ。しかし、資本が資本の増殖だけを目的として投資される時代が「史的システムとしての資本主義」を生んだ。そこでは金儲けだけが投資の理由となるため、究極的にピケティが述べる世界を生んでしまうのである。しかし、ブローデルの本を読むことで、そのような資本主義ではなかった資本主義の時代もあったことを知ることは、オルタナティブの可能性をつかむ上でよいだろう。 
 
 
 
村上良太 
 
 
■イマニュエル・ウォーラーステイン著 「史的システムとしての資本主義」(川北稔訳)  〜半労働者と大富豪〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701221706330 
 
■国家戦略特区と安倍首相のブレーンたち 新浪剛史氏と竹中平蔵氏、そしてオリックス 
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■堀江湛・岡沢憲芙編 「現代政治学」(法学書院) 早稲田・慶応出身の学者が集結 二党制の神話にメスを入れる 
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■日本の幻想の二大政党制  政策論争のない選挙と見せかけの国会論戦と 
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■都民ファースト と マスメディアの報道  改憲運動に協力してきたメディア 
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■朝日新聞がなぜ危険な新聞か 
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■本山美彦著 「金融権力 〜グローバル経済とリスク・ビジネス〜」 
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■マクロン大統領と金融界   マクロン大統領の政権の本質を理解するには本山美彦著「金融権力」が不可欠 
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■Samejima Timesが大手新聞各社と政府との癒着を指摘 〜安倍官邸と大手紙幹部らの夕食会の謎に迫る〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202301070947196 
 
■現在の国会は正当性があるか? 昨年の参院選で行われたNHKによる誘導(安倍元首相狙撃事件報道) 
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■7月9日の新聞朝刊の金太郎飴的見出しはなぜ? 
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■安倍首相 「税は議会制民主主義の基礎である」 
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