2023年08月05日16時00分掲載  無料記事
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映画トマ・ピケティ原作『21世紀の資本』 その2 特権意識の起源を示すシーン

  トマ・ピケティ原作の映画『21世紀の資本』が、元の本と異なるのはピケティ以外に様々な専門家たちのインタビューが挿入されていることで、資本のシステムを多角的に追っているのです。特に興味深いのは、心理学者が登場して、特権意識の何たるかを実験から検証しているくだりでしょう。カリフォルニア大学の心理学者ポール・ピフは人類はたとえ富裕層になってもその富を分かち合いたくない、ということを実験で確かめたと言います。 
 
  この実験は興味深いもので、日本で言えば人生ゲーム的なボードゲームで、金持ち役には所持金を貧乏人の2倍にし、サイコロも2つ与えてもらって貧乏人より2倍の速度で動き回れる、というルール※を作ったのです。ある場所を通過したら、金持ち役は200ドル、貧乏役は100ドル受け取れます。これとて、金持ち役の方が2倍受け取れるわけです。2人の行為を観察したところ、数分で二人の行為に違いが表れ、金持ち役は活発になり、モノをたくさん食べ、傲慢な態度になる。そして、なぜ勝てたのか?と金持ち役に尋ねても、最初にコインで金持ち役に決まったからだ、と答えたものはいなくて、皆自分の頭脳や才能で勝利したという答えだったようだ。ピフ教授は、この実験から、たまたま生まれながらに有利な環境にいたとしても、自分の努力と才能で成功したと思えば、自分の利益を優先し、他人を犠牲にして自分が優位に立とうとすることが理解できると語ります。富を持つことで意識が変わり、他者への共感とか思いやりが減るというのです。そしてまた、富を奪われることでも意識が変わるのです。 
 
  これを見ると現在の自公政権の議員や閣僚たち、あるいはその背後の財界のブレーンたちの言動がわかりやすくなります。彼らは自分の力でしかるべき地位を手に入れたのであり、おそらくはそうした社会こそがまともであり、強者が勝ち残ることで社会が良くなる、と解釈しているふしがあるのです。格差社会に対して、みじんの反省もないばかりか、むしろそれが社会を正しくする、という福音書的な使命感すら持っているのかもしれません。弱い人間は死ねばいい、という思想までさして距離がないことがわかるでしょう。ナチスのコアな人間たちは障害者やユダヤ人の抹殺を自分たちの使命だと確信していたのですが、それと同質の精神です。映画『21世紀の資本』はその意味で、いろんな角度から資本の運動を理解できる興味深い映画だと思います。 
 
 
※How Wealth Changes People | Paul Piff 
https://www.youtube.com/watch?v=Pg5QFOuMoN8 
ポール・ピフ: お金が人を嫌なヤツにする? 
https://www.youtube.com/watch?v=bJ8Kq1wucsk 
 (これは『21世紀の資本』でポール・ピフ教授が語った実験の話だが、富を増して社会階層を1つ上っていくごとに、他者に対する慈悲や同情の感情が減少していくことを多数の心理実験で確かめたというのだ。そして、貪欲であることは倫理的であるとすら感じるようになる。ここから、日本で言えば新自由主義を牽引してきた政財界のエリートたちも同様な思考回路が出来ているのかもしれない、と推察もできよう。そして、彼らが一様に庶民の感情を逆なでする激しい差別意識と特権意識丸出しの言説をして平気なのは、思考回路がそのように出来上がって固まっているからかもしれないのだ。だから、おそらくどれほど批判されても理解することができないばかりか、批判する人間たちを倫理的におかしいと思っている可能性もある。首相の息子が官邸で内閣ごっこ遊びをしたり、パリ出張で大使館の車を買い物に使ったり、「研修」で写した観光旅行的な写真をSNSで披露したり、岸田首相が被災地を後回しにして外遊を満喫したり、といったことを庶民が批判した時、それは「嫉妬だ」という批判がタレント「知識人」やタレント実業家たちから一斉に出たのを皆さんは覚えているだろうか。それも、この研究の仮説から説明できるのではなかろうか。しかし、ピフはこうした思考回路に小さな変化を加えることで事態が変わり得る可能性を示唆する) 
 
 
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http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201804150954550 
 
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