2023年08月19日21時24分掲載  無料記事
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環境

フランスでアグリビジネス主導の巨大貯水池建設計画に抵抗する農民・環境保護活動家たちのパリまでのコンボイが始まる 

  日刊ベリタで前にも紹介したことですが、フランスでは今、気候変動による農地の乾燥化が各地で進行しており、農民たちはその対策と生き残りに苦労しています。そして、今年話題になっているのが、アグリビジネスが主導している巨大貯水池建設計画です。メガバッシーヌと現地で呼ばれているものは、サッカー場くらいの人工の貯水池を各地に作り、雨の降る冬場に地下水から水をくみ上げて、夏場に貯水池から供給しようとする半官半民のプロジェクトです。ところが、このプロジェクトに農民たちや環境保護活動家たちが反対運動を続けているのです。 
 
  なぜ?と言えば、この巨大貯水池の地下水のくみ上げで地下水系が枯渇するだけでなく、そのために生物多様性が損なわれるとされているのです。しかも、くみ上げた水の多くが蒸発してしまうことも指摘されています。国費が6割くらい投入されると聞きますが、残りは給水を受ける農民たちが分担させられるため、零細農民たちにとっては大きな負担となるのです。その一方で、この計画を支持する農民たちはトウモロコシを栽培しており、これは家畜の飼料として換金できるのでアグリビジネスがバックについているとされます。このトウモロコシは作物の中でも育成に水を大量に必要とするのです。しかも、それと肉食の問題が関係しています。これは農業のあり方も問うているのです。ですから、零細農民がこの建設負担金が払えなければ、水の供給は受けられず、さらに地下水系も枯渇するとあれば、農民としての死活問題になるのです。これは本質的には、アフリカなど世界で進行している零細農民からの農地の取り上げと同じ構造なのです。大資本が農地を集めていく資本の運動と見ることができるでしょう。地域の食料を作っている農民たちにとっても農地の乾燥化は〜30年くらい続いているようです〜由々しき問題ですが、いろいろな手を使って乾燥化への防止策を行ったり、水をなるだけ使わないで済む作物を作ったりと工夫を凝らしてきたそうです。 
 
  ことは地元農民の存続だけでなく、彼らが農業を手放すということは地場の野菜や穀物を育てる農民がいなくなり、単品の換金作物を育てる農民に取って替わられていく・・・これはすでに世界各地で収奪の歴史になっている問題です。近代に入って新しい形の飢餓が世界に出てきたことをカール・ポランニーの『大転換』は伝えています。今年焦点になっているのはサント=ソリーヌという大西洋岸に近い地域(ドゥー=セーヴル県)で、3月25日に農民・環境保護活動家と警察隊・憲兵隊の激突がありました。その後、警察を投入した内務大臣がこれらを束ねる「大地の蜂起」という名の運動組織の集合体に対して「エコテロリスト」というレッテルを張って、解散命令を出しました。ところが今月11日、フランスの国務省がこの命令を審議して、一審で解散命令に憲法上の疑問があるとして、解散命令をひっくり返したのです。今後も審議は続くのですが、とりあえず「大地の蜂起」は活動再開が可能となり、さっそく、8月18日からパリに向けて、トラクター隊と自転車部隊を投入して5県を通って抵抗のコンボイ※を始めるとされます。この情報は調査報道を主に手がけてきたインターネット新聞のMediapart※※で今日、読んだばかりです。 
 
  このようなパリへの抗議の隊列(コンボイ)には歴史があり、1973年から78までラルザックの基地建設反対闘争や、近年では2015年のノートル=ダム=デ=ランドの闘争があります。解散命令の取り下げから、わずか1週間。この反撃の速さには驚かされますね。 
 
 
※コンボイの動画 自転車軍団とトラクターでパリまで目指す 
https://www.youtube.com/watch?v=or5KoCzkd6s 
 
※※Mediapartの記事 
https://www.mediapart.fr/journal/ecologie/180823/bataille-de-l-eau-le-grand-retour-des-soulevements-de-la-terre 
 
 
 
■フランスの民衆の闘争がサント=ソリーヌの巨大貯水場計画への反対へ 〜背後には気象変動・夏の渇水による農民の危機と大手穀物企業〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202304020739300 
 
■空港建設計画を撤回した後、フランス政府は抵抗した人々のコミュニティの解体に乗り出した  フランス西部、ノートル=ダム=デ=ランドの闘争 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201804212346396 
 
■パリの芸術家 〜ラルザックの夏の思い出〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201310100728074 
 
■世界不況を起こした企業群が今度はアフリカで・・・投資のリターンは25%〜米シンクタンクが告発〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201106100438525 
 
■TVの討論番組に正統性はあるか? 財界が金を出す政治ショーではないか 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202211202034570 
 
■PARC新作DVD上映会&トーク 『甘いバナナの苦い現実』   鶴見良行氏の「バナナと日本人」から約40年、フィリピン・ミンダナオ島のバナナ農民たちは今? 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201810010323571 


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