2023年08月22日00時50分掲載  無料記事
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環境

福島第一原発の核汚染水の海洋放出に物申す【その2】: 太平洋諸島フォーラム(PIF)に任命された科学者たちによる科学評価から グローガー理恵:ドイツ在住 

4月18日、ドイツIPPNW(核戦争防止国際医師会議)はホームページで、ドイツ政府は日本が計画している福島第一原発の核汚染水の海洋放出に対してはっきりと”No”と言明すべきであると要求し、トリチウムやその他の核種が人体や環境にもたらす影響について深い懸念を表明している: 
 
『福島第一原発敷地には130万トン近い核汚染水が保管されている。浄化処理にもかかわらず、水には多くの核種が含まれており、とくに放射性トリチウムはフィルターできない。トリチウムはベータ線を放出する物質で、吸入したり、皮膚から吸収されたり、食物や飲料水と一緒に体内に入ると健康を害し、DNAの損傷やガンの原因となる。トリチウムは胎盤関門を通過する可能性があるため、胎児にとっては危険である。 
 
福島の原発事故は、すでに現在、これまでに測定された中で最大の海洋放射能汚染を示している。Natur誌の2016年の研究によれば、福島沖の干潟の生物の多様性と数は著しく減少している。もし汚染水が太平洋に放出されれば、海洋生態系と食物連鎖全体に計り知れない可逆的なリスクをもたらすだろう。』 
 
さらに3月12日、IPPNW共同会長・ティルマン・ラフ博士が「福島第一原発の汚染水の海洋放出は最悪の計画である」と題された論評を公表されたが、その中でラフ博士は太平洋諸島フォーラムによって任命された国際科学委員団が、福島第一の汚染水放出に関する科学評価を行なったことを述べている。今回は、その特に重要と思われる専門家たちによる科学評価の部分を和訳してご紹介させていただく。 
 
* * * * * * * 
 
参考にした記事:IPPNW共同会長・ティルマン・ラフ博士 著 
 
Ocean discharge is the worst plan for the Fukushima waste water 
 
福島第一原発の汚水の海洋放出は最悪の計画である 
 
2023年3月12日 
 
1月18日、スバで開催された太平洋諸島フォーラム(PIF)主催の公開イヴェントで、ヘンリー・プナ事務総長は、岸田首相が、2022年7月の日本のフォーラムとの定例会合で、この問題を国際法と検証可能な科学に適った形で進める必要があると再確認したことについて言及した。事務総長は、フォーラム・メンバーを代表して、最善の行動指針を計画する上で、他の選択肢を充分に熟慮し、敬意を持って、十分な証拠に基づいた、太平洋諸国との協議に関わるために、予定された汚染水投棄を延期するようにと再び要請した。しかし、彼の呼びかけは無視されている。 
 
PIFによって任命された5人の独立した国際科学委員団が、計画された放出に関する、最も信頼すべき独立した科学評価を行った。専門家たちは、彼らの結論および勧告に全員合意した。科学評価の主な結論は下記のようになる: 
 
1 すべてのタンク中にある明確な放射性核種の含有量に関する東京電力のデータがきわめて不十分である。敷地にある1000基以上のタンクのうち、その約4分の1のタンクのみからサンプリングされただけである。PIFと共有されたデータでは、ほとんど全ての場合において、全64放射性核種のうち9核種以下しか測定されていない。異なったタンク中の様々な放射性核種の比率が一定であるとする東京電力の仮定は、何千倍もの変動を示すデータによって否定されている。 
 
2 サンプリングと測定が、代表的なものではなく、統計的に不十分で偏りがあり、日本が少なくともいくつかのタンク中に存在すると認めた瓦礫や汚泥を含んでいない。汚泥と瓦礫は、とくにプルトニウムやアメリシウムのような有害な同位体に関して、最も放射性がある可能性が高い。 
 
3 放射性汚染物質の大部分を除去するために設計された多核種除去設備ALPS (Advanced Liquid Processing System) による処理プロセスを経たタンクの70%以上が、再処理を必要としている。中には、処理後のレベルが排出規制値の19,900倍 高い同位体もある。ALPSによる処理プロセスを繰り返しても、いつも一貫して効果的な浄化ができるということを確認するような証拠はない。 
 
4 海流や生物によって [訳注:放射性元素が] 移動させられること、生物相と海底堆積物の蓄積、もしくは有機的に結合したトリチウムの海洋環境における行動など、海洋における放射性元素の動き/行動について十分な検討がなされていない。計画された放出が行われる前の段階において、日本の東海岸沖の海底には、いまだに、福島原発災害以前のセシウム濃度値の10,000倍までになる濃度のセシウムが、存在する。 
 
5 東京電力もIAEA(国際原子力機関)も、国際科学委員団によって提起された多くの重大な科学的問題を認めたり、それらの問題に取り組むことをしなかった。例えば、2019年に東京電力は、サンプリングしたタンクに、半減期がわずか9時間の同位体であるテルル-127が含まれていたと報告した。この事は、核分裂反応に伴って偶発的な臨界が、溶融した炉心内で継続的に起こっているのか(これは非常に重大な意味を持つ)、もしくは測定が間違っているかのどちらかを意味することになる。しかし、この事に関して、納得がいくような回答は得られなかった。事実、IAEAは委員団とのコンタクトを断ち切ったのである。 
 
6 東京電力、国際原子力機関(IAEA)、日本の原子力規制庁のいずれも、いくつかの実行可能な代替方法を適切に検討していない。代替方法として挙げられるのは、耐震安全性を目的として建てられたタンクに保管すること、さらに可能性として、最初の浄化処理の後に、人間や他の生物との接触の可能性がほとんどない構造用コンクリートに使用すること、ストロンチウム-90のような影響大の同位体のバイオレメディエーション(生物学的環境修復)【*訳注1】 などである。提案されたすべての代替案は、影響が桁違いに少なく、越境的な影響を回避できることになるであろう。 
 
以上 
 
 
グローガー理恵:ドイツ在住 
 
 
【*訳注1】 
 
バイオレメディエーション(英語:Bioremediation):微生物等の働きを利用して汚染物質を分解等することによって土壌地下水等の環境汚染の浄化を図る技術のことをいう。環境汚染浄化の技術的手法としては、物理的手法、化学的手法及び微生物機能の活用等生物学的手法が存在するが、微生物を利用するバイオレメディエーションは、多様な汚染物質への適用可能性を有し、投入エネルギーが理論的には少なく、一般的に浄化費用も低く済む可能性があり、将来の主要技術の一つと考えられている。 [Source: 環境省サイト] 
 
ー さらに、”ストロンチウムのバイオレメディエーション” をテーマにした論文『アオコとオオマリコケムシにみられるストロンチウムの収着作用−生物的環境浄化の密接な関係』が下記のリンクに掲載されてありますので、興味のある方はご参照なさってください: 
 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/radioisotopes/65/9/65_650903/_pdf 
 
ちきゅう座から転載 


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