2023年08月28日10時12分掲載  無料記事
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アジア

「タクシン元首相帰国後のタイ」��世界有数の格差社会、一握りの富裕層が改革・進歩を阻む 宇崎真

 タイの貧富の格差は世界でトップクラスである。国民の1%が富の67 %を占めるという(クレディ・スイスの推計2018)。だとすれば、99 %の国民が残り33 %の富をかろうじて分け合っている。分かり易くいえば、66万人の富裕層だけで残り6,534万人の全資産の2倍を保有している社会である。あるいは富裕階層の一人がそれ以下の階層(小金持ち、成長著しい中間階層も含めての平均)の200人に匹敵する富を有しているともいえる。 
 つまり200対1の格差社会なのだ。その頂点にあるのが国王と王室であり、その王室、王族の特権階級と関係を深めてきた資本家、財界人、大土地所有者からなる66万人なのである。 
 
 富裕層はいつまでも富裕であり、更なる富を追求する。CPグループはセブンイレブン、ロータス(元英国資本系)、大型業務用スーパーマーケットのマクロ(元独資本系)を買収し傘下に収めタイの消費網の大半を握る勢いである。セントラルグループは英国の老舗デパートを買収するなど世界13 カ国に事業展開、王室系サイアムセメントグループ(現国王が株式の30%を個人名義で保有)はグループ企業百社を擁している。これらの売上げ何兆円規模のコングロマリットはじめ大企業は王室、軍警、政界幹部、行政幹部らとの関係を揺るがぬものとしている。 
 200 対 1の格差はコロナ禍を経て更に拡大していると思われる。これはタイ社会の最大の病根となっている。それを是正しようとすれば、どこに活路を見出すのか。新政権はバラマキ公約の財源は年5%の経済成長による税収入で賄うと謳っているがその実現性は非常に低い。先に見たように内需拡大は望めない。観光収入などの外需も政府が期待するほど伸びていない。となれば、1%の富裕層が身を切ることが出来るのか、という問題に突き当らざるを得ない筈だ。 
 プラユット政権時に「相続税法」が国会で議論された。そもそもタイには相続税が存在しなかったのだ。結局「1億バーツ(4億円強)を越える分につき10%の相続税を課す。ただし相続人が直系尊属、直系卑属の場合は5%」に落ちついた。億万長者らはそれでも財産を分割し名義を家族、兄弟らに与え1億バーツ以下の相続という納税抜けをおこなった。つまり壮大なザル法だったのである。贈与税もしかり。年2千万バーツ(8千万円余)までは無税、毎年その範囲で贈与を繰り返せば計何億バーツでも無税だ。 
 
 タクシンが国会議員の7割を自派で固めどのような法案も通せる絶対的権力を握った時期に側近を含む陣営内、野党側から再三「相続税」の提案がおこなわれた。だがただの一度も応じなかった。 
 またタクシンは選挙で大勝したとき「私は過去のどの首相とも違う。汚職とは縁がない。何故なら既に有り余る財をなしているからだ」と訴え、民衆は「清潔な英雄」が出現したと思った。だが首相権限を行使し自身のファミリー企業への利益誘導を露骨におこない(ミャンマーへの通信事業進出など)行政、軍部警察人事におけるネポティズム(縁故主義)を推し進めた。所有株をシンガポールに売り2,000億円相当の収入があったがわずかな納税 (0.05%以下)で切り抜けた。 
 首相が職権を利用して利益を得るのを目の当たりにした行政幹部、銀行幹部らが「このやり方は適法だしやらなきゃ損だ」ばかりに汚職を蔓延させたのは当然の帰結であった。公共事業予算を獲得した企業は、例えば1億バーツの国家予算で受註しても「3割賄賂」が要求された。この3割賄賂は全国津々浦々にまでひろまった。その悪習は現在でも継続しているのを今回のタイ選挙取材中においても確認することになった。 
 地方政治にはその「習慣」はより露骨に出る。県知事、郡長は内務省の任命(バンコク都及びパタヤ市は特別地方自治体として住民選挙でえらばれる)であり、経済財政規模の比較的大きな県の知事に就くには少なくとも数百万バーツの賄賂を用意しなければならない。これは半ば公然の秘密となっている。 
 
 改革進歩を進めようとする前進党に見切りをつけ親軍政党はじめ保守大連合に舵をきったいま貢献党へのかつての熱い民衆の支持は再現しないだろう。「30バーツ医療政策」と農民の政治参加は確かにタイの政治の舞台を変えた。200 対 1の非力でも投票行動によって1 対 1の対等な影響を行使できるという民主主義の根本に民衆が気づいたことは歴史的な意義をもつ。だが、その旗を振ったリーダーが結局は1%の側に立ったことを知って民衆はどう理解するだろうか。                      (つづく) 
 
 
 
 
 
 
 


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