2023年10月15日23時04分掲載  無料記事
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新自由主義の源流 『民主主義の統治能力』(サミュエル・P・ハンチントン&ミッシェル・クロジエ&綿貫譲治 =日米欧委員会編) 

  まだ筆者が読んでいない段階で、紹介するのもなんですが、パリで私は知人の哲学者のパトリス・マニグリエ氏から新自由主義の源流になったレポートがあると2017年にインタビューの際に耳にしていました。それは日米欧委員会なる組織が新しい時代への提言としてまとめた『民主主義の統治能力』と題するもので、英語では『The Crisis of Democracy: Report on the Governability of Democracies to the Trilateral Commission』です。いつか必ず読もうと思っていたのですが、意外に身近なところにあったのです。翻訳までされていたんですね。私はどこかの資料館とかライブラリーで探さなくてはならないと思い込んでいました。 
 
  このレポートが作られたのが1975年で、その後、新自由主義が台頭してきます。サッチャーが首相になるのが1979年、レーガンが大統領になるのが1981年です。ですから、このレポートで提言されたことが世界のエスタブリッシュメントに影響を与え、それが現実化して行くまでに4〜5年ほどかかったとしたら、決してあり得ないタイムラグではありません。 
 
  アマゾンの紹介欄にはこう書かれていました。 
 
<The Crisis of Democracy: On the Governability of Democracies was initially a 1975 report written by Michel Crozier, Samuel P. Huntington, and Joji Watanuki for the Trilateral Commission and later published as a book. 
The report observed the political state of the United States, Europe and Japan and says that in the United States the problems of governance "stem from an excess of democracy" and thus advocates "to restore the prestige and authority of central government institutions."> 
 
 「本書はミシェル・クロジエ、サミュエル・P・ハンチントン、綿貫譲治により日米欧委員会のためにまとめられ、後に本として出版された。このレポートは米国、欧州、日本の民主主義の状態について観察し、米国における統治の問題とは、『民主主義の過剰に由来する』と述べている。そのうえで『政府の威信と権威を回復すること』を提言している」 
 
  ミシェル・クロジエはフランス組織社会学センター長、ハンチントンは『文明の衝突』で有名ですが、ハーバード大学教授です。綿貫譲治は上智大学教授でした。ですから、大学というアカデミーの場の学者たちによる提言です。それにしても、民主主義の過剰が統治上の問題であるとは! 
 
  ちなみに、このトリラテラル・コミッションは三極委員会と訳され、「1973年にデイビッド・ロックフェラー、ズビグネフ・ブレジンスキーらの働きにより、『日米欧委員会』として発足した。日本・北米・ヨーロッパに設けられた三つの委員会によって総会が運営される。参加国は委員会の規定では『先進工業民主主義国』とされている。三極委員会の目的は、先進国共通の国内・国際問題等について共同研究及び討議を行い、政府及び民間の指導者に政策提言を行うことである」(ウィキペディア)。 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E6%A5%B5%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A 
 
  現在の三極委員会の日本の議長は、ウェブサイトを見ると、サントリーCEOの新浪剛史氏でした。欧州がカール・ビルト氏、米国がケリー・グリア氏です。 
  https://www.trilateral.org/task-force-on-global-capitalism-in-transition/ 
 
  本書をこれから読むのですが、このレポートで世界は統治不能になったという認識が述べられたらしいのです。以前私がパリで知人にインタビューした時の記憶をたどると、労働組合が強くなり、様々な手当や福祉が労働者に与えられ、公民権運動で大衆が平等で権利を与えられた世界を求めるようになると、エリートの側から見ると、統治不能になる、ということらしいのですね。要は民衆がパワーを持ち過ぎた、ということのようです。ですから、労組を弱めていく、労働者を孤立させる、工場は海外に移転するなどといったことが提言されたか、あるいはそのもとになった可能性があるらしいのです。ただ、実際にどうだったのか、どんな提言だったのか、これから本書を読んで検証してみたいと思っています。いわば大きな時代の転機となったかもしれない書籍です。 
 
 
 
■12年前に「マンスフィールド研修と対日政策」という記事を書いて 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202209250546250 
 
■本山美彦著 「金融権力 〜グローバル経済とリスク・ビジネス〜」 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401170608015 
 
■マクロン大統領と金融界   マクロン大統領の政権の本質を理解するには本山美彦著「金融権力」が不可欠 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201812151001036 
 
■ギリシャ問題1 〜ギリシャ債務危機を引き起こした金融権力〜 本山美彦(「変革のアソシエ」共同代表・京大名誉教授) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507111630296 
 
■ギリシャ問題2 〜SYRIZAの勝利とギリシャの政治的風土〜 本山美彦(「変革のアソシエ」共同代表・京大名誉教授) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507120139250 
 
■ギリシャ問題3 〜SYRIZAへの希望と不安〜 本山美彦(「変革のアソシエ」共同代表・京大名誉教授) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507120549390 
 
■本山美彦著 「売られ続ける日本、買い漁るアメリカ」 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201702191516070 
 
■大企業の経営者目線の朝日新聞の経済記事 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201912191449554 
 
■映画トマ・ピケティ原作『21世紀の資本』 資本主義の意味を4世紀にわたって100分で俯瞰する 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202308050134586 
 
■イマニュエル・ウォーラーステイン著 「史的システムとしての資本主義」(川北稔訳)  〜半労働者と大富豪〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701221706330 
 
■国家戦略特区と安倍首相のブレーンたち 新浪剛史氏と竹中平蔵氏、そしてオリックス 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201703181709096 


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