2023年10月22日19時59分掲載  無料記事
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コラム

【山里から 杪蔀罎国家の目・耳・鼻・口になった  西沢江美子

 「新しい戦争前夜」の秋。1940年に生まれ敗戦が5歳。群馬の山村での戦争のことをどうしても伝えたい。(西沢江美子) 
 
消された色 
 
 人生は「終わり」の積み重ねだ。地域で職場で、公害反対、原発反対、労働条件改善、選挙と多くの人と”生きる条件”をつくってきた。その時々の」終わり」を積み重ねて私は83歳になった。 
 
 強烈な「終わり」は五つの夏の敗戦だった。祖父のひざの上で「戦争は終わった」。私は暗い納戸に走った。箪笥の引き出しから禁止されていた布をひっぱり出し、からだにまとい、大人が泣いている座敷にスキップ。 
 
 母との約束のピンクのネルの腰まき。「戦争が終わっていたら入学時の洋服にしてやる」「誰にも見せてもしゃべってもいけない」。引き出しの底にボロを重ねて隠していた。心が乱れたとき、誰も来ない納戸で腰まきで顔を包んで匂いをかぎ、終戦を祈った。 太平洋戦争前夜生まれ、敗戦までの五年間、小さな頭は数々の村の風景を記録した。 
 
 まわりから色が失われていった。村中から明るい色が消えた。黒、紺、焦げ茶、国防色(緑がかった茶褐色、陸軍の軍服野色)で塗りつぶされた。美しい着物に白いシャツは胡桃の皮やヨモギで国防色に染めた。庭の百日草、サルビヤやサルスベりも抜かれた。 
 
 「どうして」とうるさい孫に祖父は「戦争だ。国が決めたのだ」と怒る。色の禁止は匂いや音に広がった。優しい祖父は子どもに戦前にあった天ぷら餅を食べさせようと(油も米も手にはいたなかった)代用品で決行した。天ぷらは蚕のサナギから絞った油で、餅は雑穀とジャガイモを臼と杵でついた。 
 
 天ぷらの匂いと臼と杵の音が警察へ。祖父は「贅沢は敵」と隣町にあった警察で一泊。村中が目・耳・鼻・口となって、「国家」が動き回っていた。戦争は「生きもの」から生きる条件を奪っていく。 
 
 この夏は猛暑ばかりではない息苦しさを覚える。福祉、医療予算は切り下げられ軍事に。デジタル化にマニュアル化。細切れの働き方、極めつけは紐付き保険証。 
 
 「戦争は多様な顔でやってくる」 
 
 ピンクの腰巻は母手作りのワンピースになって、私は国民学校から名を変えた小学校に入学した。 
 
(ジャーナリスト 農業・農村・農村女性問題) 


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