2023年12月13日20時51分掲載  無料記事
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核・原子力

【たんぽぽ舎発】COP28が原発3倍増宣言(上)  山崎久隆

1.COP28で、「原発3倍増」宣言の奇怪さ 
 
 国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)がアラブ首長国連邦のドバイで11月30日から12月12日の日程で開催されているが、2日に突如として、「2050年までに、原発3倍増宣言」と謳った文章が発表された。提案したのは米国。全世界の原発設備容量を2020年比で今の3倍にするという。 
 
 宣言では温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標達成のためには、原発技術は必要不可欠だとし、石炭火力に代わる理想的な解決策に次世代型原発「小型モジュール炉(SMR)」技術の利点を強調している。 
 
 しかしこれには「グリーンウオッシュ」であると批判が高まっている。 
 すなわち、原発は事故の可能性が高く危険なうえに経済合理性に欠け、さらにウラン採掘から運転、廃炉、核燃料の処分に至るまで環境を汚染する。 
 さらに核兵器技術の拡散、事故や戦争での核物質の放出により世界の安全を一段と危険にさらし、核戦争や放射性物質を使う兵器の使用で甚大な被害が発生する可能性が高まる。 
 
 また、核の全工程で人権をも侵害し、特に原発建設に反対する住民に対しては、多くの政府は暴力で対処する。 
 COP28で22カ国が賛成した宣言文を読めば、原子力推進側が何を問題としていて、どのような方法で原子力を進めようとしているのかが垣間見えてくる。その視点で文章を解読する。 
 
2.署名参加22カ国はどういう国か 
 
 署名した「参加国」の顔ぶれを見てみよう。 
 米国、ブルガリア、カナダ、チェコ、フィンランド、フランス、 
ガーナ、ハンガリー、日本、韓国、モルドバ、モンゴル、モロッコ、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、ウクライナ、アラブ首長国連邦、および英国だ。 
 
 この22カ国のうち核兵器保有国は3カ国、既に原発を保有する国は17カ国、保有していない国が5カ国である。その5カ国とは、ガーナ、モルドバ、モンゴル、モロッコ、ポーランドである。 
 また、スロベニアとスロバキアは古い旧ソ連製原発があるが、安全性に懸念があり、廃炉も近いと見られるが、建て替えるためには巨額の資金が必要で、その調達先が問題となる。 
 
 ポーランドは日本も建設計画に参入しようとしていたが失敗し、現在は米国ウエスチングハウスのAP1000を6基建てる計画である。 
 しかし資金調達と環境影響評価を巡り計画が大きく遅れている。 
 そうした各国の事情を含んでの宣言文であることを読み取る必要がある。 
 
3.二酸化炭素排出対策としても原発に優位性はない 
 
 宣言文では「今世紀半ばまでに温室効果ガスの排出量実質ゼロ・ 
カーボンニュートラルを達成し、気温上昇の1.5度C制限を手の届く範囲に維持し、持続可能な開発目標を達成する上で」原発の増設が必要だとする。 
 根拠らしきところは、「OECD原子力機関及び世界原子力協会の分析」「気候変動に関する政府間パネルの分析」「国際エネルギー機関の分析」等を挙げる。 
 
 しかし原発のライフサイクル全体では高効率天然ガス発電の二酸化炭素排出力と遜色がないほど多いことは既に明確になってきている。 
 
 特に事故により長期運転停止した場合、その間の代替発電や補修、改修にかかる排出量を組み込むと逆転することは容易に想像がつく。 
 
 福島第一原発の二酸化炭素抑制量と、事故後の膨大な汚染物の除染や廃炉にかかる長期間のエネルギーロスを考えれば、一体何倍の二酸化炭素排出量に相当するのか、計算してから主張するべきだ。(凍土壁だけで1.25万世帯、3万人都市の電力消費量に匹敵) 
 
 長期運転停止中の原発は、電力などのエネルギーを膨大に浪費する。 
 
 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表) 


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