2024年01月04日13時49分掲載  無料記事
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中東

危機感を募らせるイスラエルの平和活動家たち  パレスチナ人に危害を加えれば加えるほど、反ユダヤ主義が世界に広がる

イスラエル軍とイスラム組織ハマスとの激しい戦闘が続くなか、パレスチナ自治区ガザ地区では犠牲者が2万人を超え、被害は更に拡大している。パレスチナとの和平を長年訴えてきたイスラエル人平和活動家たちは、ガザ地区での人道的惨状に危機感を強めると共に、世界中で「反ユダヤ主義」が広がりつつあると焦燥感を強めている。「真の平和を達成するために、国際社会は停戦、和平に向けて圧力を」と訴えている。(オンライン取材:藤岡敦子) 
 
「ガザでの人道危機は断じて許されるものではない。イスラエル軍の攻撃がたとえハマスを壊滅させるものであったとしても、犠牲者や破壊を膨大なものとし、イスラエルに対するパレスチナ人の憎しみや復讐心を引き起こすだけだ」。イスラエル中部に住む平和活動家、アモス・グヴィルツさん(77)は危機感を募らせる。 
 
グヴィルツさんは1980年代からパレスチナ人との平和共存に向けて活動を続けてきた。1986年には非暴力的手段で紛争の解決を目指す団体「非暴力のためのパレスチナ人とイスラエル人」をパレスチナ側代表と共同設立。1997年には「家の取り壊しに反対するイスラエル委員会」を創設し、ヨルダン川西岸地区など占領地でのイスラエルによるパレスチナ人家屋破壊などに強く抗議してきた。 
 
▼イスラエル国内はパニック状態に 「政府やメディアは国民に正確な情報を伝えていない」 
 
ハマスがイスラエルを急襲した10月7日、事件を知ったグヴィルツさんはその惨状にひどいショックを受けた。約1200人のイスラエル人が犠牲となり、拉致被害者も200人を超えていた。その衝撃と同時に、「これからガザ地区で最悪の事態が起こる」と直感したという。 
 
グヴィルツさんの危惧はすぐに現実のものとなった。 
 
ガザ地区の保健当局によると、イスラエル軍の攻撃による死者はこれまでに2万2000人を超え、人道状況は極度に悪化。病院も軍が「ハマスの拠点」と主張し攻撃の対象となり、人道支援物資も欠乏状態が続く。国際社会からは「国際人道法違反だ」と非難する声が相次ぐが、軍は攻撃を南部地域にも拡大、被害は更に拡大している。 
 
イスラエルの人々は現状をどう見ているのか。 
 
「今、多くのイスラエル人はパニックや恐怖、拉致された人質への懸念、ハマスへの憎悪、復讐心などが入り混じった状況に陥っています」。グヴィルツさんはそう指摘した上で、次のように話す。 
 
「政府や国内のメディアの多くは、軍の攻撃によるガザでの被害について国民に正確な情報を伝えず、人道危機を矮小化しています。ほとんどのイスラエル人は現状を知らないか、知ろうともしていません。」 
 
「政府は攻撃を正当化し、国際社会からの批判には『反ユダヤ主義』とのレッテルを貼っています。そうしてプロパガンダを強化し、多くの人々はそれを信じてしまっているのです」とグヴィルツさんはいう。 
 
▼国際社会からの批判は『反ユダヤ主義』 
 
イスラエルの政府やメディアの多くは、入植地拡大などに対する国際社会からの批判さえも長年「反ユダヤ主義」と描いてきた。ユダヤ人の中のホロコーストの記憶や民族主義的な教育がその主張を補強。強大な軍事力を擁する一方、周囲を敵対国で囲まれるなか、「自分たちは常に脅かされている」との感覚が広く社会を覆ってきたという。今回のハマスの攻撃は、イスラエルのユダヤ人がもつトラウマをより強めてしまったとグヴィルツさんは指摘する。その結果、軍の攻撃でどれほどのパレスチナ人に犠牲が生じているのか、冷静に判断する思考を多くの人々は失ってしまっているという。 
 
それは、イスラエルのシンクタンク「イスラエル民主主義研究所」が12月に公表した世論調査で、国民の約7割が戦闘を巡り、ガザの民間人の苦境を考慮する必要がないと答えたとの結果にも如実に表れているといえるだろう。 
 
「イスラエルでは誰もがハマスの排除について語り、和平の道に立ち返ろうとの声は聞こえてきません」とグヴィルツさん。ハマスによるイスラエル攻撃は「戦争犯罪だ」と非難する一方、パレスチナ自治政府との和平交渉を進めようとせず、占領政策を拡大してきたことがハマスの体制強化につながった側面を忘れてはならないと強調する。 
 
「例えハマスを今回排除したとしても、平和的解決がなければ第2、第3のハマスのような組織が生まれるだけです」。 
 
▼ガザ地区への攻撃は世界中のユダヤ人をも危険にさらす 
 
更にグヴィルツさんは、ガザ地区への攻撃は、パレスチナ人だけでなくイスラエルを含む世界中のユダヤ人にとっても危険をもたらすものだと懸念する。 
 
事実、中東諸国を中心に反イスラエル感情が高まり、世界中でガザ地区攻撃を非難するデモが相次いでいる。ユダヤ人を標的にした傷害事件なども各地で散発。イスラエル北部にはレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラがロケット攻撃を行い、その背後にはイランの影も見え隠れする。 
 
「その占領、膨張政策により、イスラエルはユダヤ人の存在にとって最も危険な場所になってしまいました。パレスチナ人に危害を加えれば加えるほど、反ユダヤ主義という現象を世界中で大きくしてしまう。イスラエルの政策は、イスラエルに住む人々だけではなく、世界中のユダヤ人をも危険にさらしてしまっているのです」とグヴィルツさんは声を落とす。 
 
▼停戦、和平に向け、国際社会は圧力を 
 
グヴィルツさんは戦闘の早期停戦や人質の解放、イスラエルが刑務所に収容しているパレスチナ人の釈放についてSNS(ネット交流サービス)などで連日訴えてきた。しかし停戦を求める声は非常に小さく、大多数の人々が政府や軍の政策を支持する現状に焦燥感を募らせている。 
 
「ガザでのこれ以上の犠牲を食い止めるため、一刻も早い停戦を、そしてイスラエルが占領政策をやめ、パレスチナとの和平を探る道へと政策を転換するよう、日本をはじめ国際社会は圧力をかけ続けてほしい」とグヴィルツさん。 
 
「パレスチナ人が平和に、尊厳を持って暮らせる国を持つことができれば、ハマスのような運動は少数派になるでしょう。イスラエルが真に平和で安全な場所になるのは、そのような平和が実現した時だけです」。グヴィルツさんは言葉に力を込めた。 
 
(国際ジャーナリスト) 
 
 
 
*写真説明(すべてグヴィルツさん本人提供) 
〜甦停戦を訴える、イスラエル人平和活動家 アモス・グヴィルツさん 
 
▲ザ地区封鎖に反対するデモに参加するグヴィルツさん(2019年) 
 
イスラエル軍により家屋を破壊されたパレスチナ人の話を聞く(2015年) 


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