2024年05月03日09時55分掲載
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労働問題
労働運動にストライキ権 働く者の尊厳を取り戻す時、そごう・西武労組のストが教えること 東海林智
今年の春闘は1990年代以降で33年ぶりに最高の賃上げになったと報道されているが、果たして労働者が闘って勝ち取ったものなのだろうか?「政=岸田政権の支持率浮揚の道具」、「労=先進国最低の賃金レベルを引き上げたい」、「使=人手不足対策と法人税引き上げへの牽制」といった、政労使の同床異夢の結果であり「賃上げが約束された春闘」だったのだ。33年ぶりの賃上げということは、33年間、賃金が上がらなかったということ。闘って勝ちとった賃上げでない以上、簡単に奪いとられてしまう危険がある。
さらに労働組合の要求額以上の回答も目立つ。労働組合の要求を上回る回答をするということは、労働側がいかに会社を忖度していたか、または企業の経営分析がなっていなかったかの証拠だ。
▽ストライキでまともな労働運動を取り戻せ
UAW(全米自動車労組)は、米国で歴史と伝統のある自動車を中心とした製造業の労働者で構成する労働組合として名をはせたが、近年は労使協調へ方針を変え、政治力を使って要求を実現する産別組合になっていた。しかし、こうした路線変更に対して、従来のストで闘う労働運動や社会的労働運動を志向するグループ(改革派)が育ち始めた。そんな時、UAW幹部に相次いで汚職や不祥事が発覚した。改革派は従来の役員投票ではなく、組合員の一票投票で執行部を決めることを提案。激しい選挙戦の末、改革派のショーン会長が当選し、闘う労働組合へと改革が始まった。
UAWの日本でのパートナーは、自動車労連や連合だが、UAWの改革派は国際的な集会などでと全労連の活動家と交流を続けていた。こうした経緯もあり、今年の春闘では、ショーン会長が全労連にメッセージを送ったのだ。そのメッセージにはこう書かれていた(概要)。
「人権を求める私たちの闘いは国境を越えてつながっている。メキシコの労働者が搾取にあえぐ時、米国の労働者も搾取に苦しみます。米国の労働者が搾取されれば、日本の労働者が搾取に苦しむのも時間の問題です。だからこそ、企業の強欲に対して共に立ち上がる必要があるのです。資本に国境はありません。労働者にも国境はないはずです。だからこそ、職場と家庭でより良い人生を実現するために立ち上かっている全労連と労働者のみなさんとUAWが連帯していることを誇りに思う。みなさんの闘いは私たちの闘いです。みなさんか歩む道は私たちの歩む道です。企業経営者に、目にもの見せてやりましょう。UAWがみなさんと共にあることを忘れないてください」
UAWは、全労連の正式な要請に応えて、基幹会議を開き、内容も含めて検討してこの「会長メッセージ」にしたのだという。
日本でストライキでの闘争を方針化しているのは、全労連と全労協。連合は全体として方針化しておらず、スト権を立てて交渉に臨んでいない産別、個別組合も多数だ。鉄鋼などを組織する基幹労連も自動車総連も産別としてストの方針をたてていない。UAゼンセンなどでスト権を含む統一闘争を実施しているが、連合本体としてはストへの言及はない。また「スト」の言葉さえ使わない。「法的権利の行使」というような特殊な言い方だ。UAWのパートナーでもある自動車総連の幹部は「(全労連への)メッセージはショックだ」と驚きを隠さない。UAWはそんな連合よりストを方針化している全労連によりシンパシーを感じたのは当然の流れだ。
UAWに限らず、世界では物価高で労働者の生活が苦しくなる中、ストライキで経営者に賃上げを迫った。それは当然の流れだ。ドイツの有名な地裁判決には「スト権を背景にしない賃金交渉は集団的な物乞いである」との文言がある。ストライキを打ち抜ける労働組合が真に労働者を守ることができる。全労連の「労働組合のバージョンアップ」はまさしくこうした狙いの方針だ。
▽そごう・西武百貨店ストライキの意義
2013年8月31日、連合傘下の「そごう・西武百貨店」労組(UAゼンセン加盟)の約900人が、池袋本店で1日のストライキに突入した。
阪神百貨店以来61年ぶりとなった大規模百貨店のストだが、このストのポイントは、そごう・西武の親会社であるセブン&アイHDに株譲渡、つまり身売りに関する情報開示を求めたものだった。親会社は「そごう・西武従業員の使用者ではない」として団交に応じず、1年半も情報なしだった。もし外資と提携したヨドバシカメラが来れば、雇用が守れなくなる。そこで組合員に情報提供を求めるとしてスト権確立を提起したのだ。
一方、そごう・西武が加盟する上部団体の「UAゼンセン」は、その組織化の際「左派が組合を作るとストを乱発して会社は潰れる。私たちに任せてくれ」と経営者を説得し、ユニオンショップ協定を結んで組織を拡大してきた。そのため、そごう・西武労組が会社にストを通告した後の会見には、上部団体なのに姿を見せることはなかった。だがこのスト通告には、同じ「UAゼンセン」加盟の高島屋、三越・伊勢丹など他の百貨店労組の委員長が同席してふがいない本部に代わり、労働者の連帯を示した。
このストの結果、売却は阻止できなかったが、スト権を立てる前の団交では一切出てこなかった売却に関する情報が出てくるようになり、団交出席を拒否していた親会社、セブン&アイの社長はじめ幹部が団交に出席した。売却はされたが、新しい株主との交渉では、ストを打ち抜いた組合として、相手の労組を見る目も違うし、労組の心構えも違ってくる。今後の雇用維持闘争の相手がはっきりしたのだ。
スト当日の反応はどうだったか。約20人に街頭でインタビューした。「店が閉まって迷惑だけど、それは1日のこと。これから永久に閉まる迷惑を考えればなんてことはない」(50代主婦)「何も知らされず会社が売られるなんてあってはいけない。ストはやむを得ない」(40代男)。「迷惑」と言ったのは60代の女性だけ。多くはストに好意的で、労組のデモには拍手も湧いた。
72年前の1951年12月、「三越」労働者が百貨店史上初の全面ストライキに立ち上がった。組合は「三越にはストもございます」と宣伝した。会社側は暴力団などを雇ってスト妨害に出た。毎日新聞は12月18日夕刊で、「銀座支店では数十名の女店員が各入口にピケットラインを張り『今日はお客さんもご遠慮ください』と一歩も入れない」と書いた。翌週の「サンデー毎日」などを見ると、ストで最も勇敢に戦ったのは、中卒の女子社員であった。スクラムを組んで、暴力団や警官のスト破りに一歩も引かなかったとある。最も厳しい状況にいる者が最も激しく闘う……本来ストとはそういうものだと教えてくれる。
ここで、ストライキの現状を振り返ってみたい。1974年の半日以上のストライキ件数(厚労省調べ)は、5197件、参加人数は約362万人でピークとなり、以降は減り続け、近年は30件台だ。連合はストを戦術として考えなかった。全労連は23春闘で「ストライキ戦術」を改めて提起し、ストを打てる組合にバージョンアップを呼びかけ、1500以上の組合がスト権を確立して交渉に臨んだ。全医労の40年ぶりの全国ストを始め多くの組合が春闘でストを打ち、スト件数は昨年の3倍近い約340件に達した。24春闘ではさらに強化した。
▽「非正規労働者」の歴史・背景・現状
今や、全労働者の4割にもなっている「非正規労働者」の歴史・背景・現状について考えてみたい。
1995年、当時の日経連(現経団連)は、「新時代の日本的経営」を提唱した。その中身は、�…拘�蓄積能力活用グループ(いわゆる正社員)��高度専門能力活用グループ(専門型派遣、今はやりの言葉ではジョブ型雇用)�8柩兔斉�(流動)グループ(パート、契約などいわゆる非正規労働者)とした。「正社員で採用し、定年まで働くという日本型雇用との決別を意味した」。結果として、日本の労働者賃金は低下し“安いニツポン”になった。最低賃金、実質賃金……どの項目を見ても、G7など主要国の中では最低レベルの賃金水準。大差があったはずの韓国にも実質、最賃ともに追い抜かれている。
こうした“安いニッポン”の背景で何があったか。大企業だけが内部留保(貯金)を大幅に増やし、20年間で内部留保は88兆円→242.1兆円(大企業のデータ)へ約3倍近く跳ね上がり、非正規労働者は、何かあれば生活できないような困窮に陥ったのだ。1995年の時点で少子・高齢化の流れは明らかだったのに、労働者から安定した賃金を奪うようなことをやったため、少子・高齢化が加速し、人手不足で仕事があっても人がいない状況が現出し始めている。外国人労働者頼みだったはずが、いつまでも外国人労働者の移民を拒み、人権をないがしろにするような外国人政策を続けた結果、円安もあり“安いニッポン”は「選ばれない日本」となってしまった。
こんな状況の中で、私たちが「最低賃金を1500円にしろ」と叫ぶのは、正義以外のなにものでもない。軍事費を3倍にしている金があるなら、最賃1500円など容易に達成できるのに、自公政府は未だに実現していない。1000円を達成するのに大変そうな顔をしている。
新時代の日本的経営が全ての失敗の源だ。経団連の政策起案者自身が「やり過ぎた」と震えるような結果になっている。労働力のジャストインタイムは労働の部品化、商品化を完成させつつある。究極がウーバーやアマゾンに代表される、非雇用化(雇用責任から全面的に逃亡する許しがたいシステム)だ。
こうした現状に対して、23春闘では、非正規労働者がストライキに立ち上がった。「合同ユニオン」加盟ABCマートのたった1人の組合員は、ストで賃上げを勝ち取り、全てのABCマートの非正規労働者の賃上げにつなげた。菓子販売の会社の一人の組合員は、クリスマスの時期の賃金加給中止を抗議のストで撤回させた。「声を上げることと実力行使の重要性」の認識が高まっている。非正規春闘は個人加盟の労働組合が中心となったが、産別でも昨年は出版ユニオンの個人加盟労組が参加、今年は生協労連も加わり大きな動きになってきている。
非正規春闘1年目の昨年、毎日新聞は1面トップで報道した。「寄合世帯のあんな小さな運動を報道するなんてバカじゃないか」と批判した他紙の労働記者がいた。ひとつの価値観かもしれないが、メディアがやらなければならないのは、小さな動きであれ、こうしたことができるのだということをしっかり伝えることなのだ。大きな事件は誰でも書く。メディアはこうした小さな動きを報道することが必要なのだ。私は今年、毎日新聞を定年になるが、再雇用で今の仕事を継続できるので、勉強会を作って取り組み、引き続き毎日新聞で書いていく。
私は大学で労働問題を専攻し、毎日新聞でアルバイトをした。その時、毎日新聞労組はよくストライキをした。それを身近で見て、ストライキは当然のことだと実感した。毎日新聞労組の運動には大変勇気づけられたし、労働問題に取り組む上で参考になった。毎日新聞労組は素晴らしい組合だと思っている。
▽労働者は、微力であっても無力ではない!
正規、非正規に限らず人間らしい暮らしへの要求を諦めないことだ。黙っていても誰も変えてはくれない。自ら声を上げることでしか変わらない。帯のように連なって社会を変えていく。それが連帯であり労働組合の使命だ。
ILO(国際労働機関)のフィラデルフィア宣言は「労働は商品ではない」と宣言した。私たちは、人間らしい暮らしもできない低賃金で扱われる商品ではない、人としての尊厳をかけて、この状況を打開しよう。そこに希望があり、そこにしか希望はないのだ。
*東海林智:毎日新聞社会部記者。近著に『ルポ 低賃金』(地平社)なぜ普通に働いても普通に暮らせないのかーー。非正規労働者、漂流を余儀なくされる若者、シングルマザーや農民、個人請負の宅配ドライバー……。働く人々の現場から低賃金の国・ニッポンのありように迫り、非正規労働を急増させた財界の戦略を検証する。
*本稿は「KOMOK会報」第98号(2024年5月1日発行)から転載
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