2025年05月30日19時47分掲載  無料記事
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市民活動

「長生炭鉱水没事故」確実に進む遺骨調査

 第二次世界大戦中に起きた「長生炭鉱水没事故」(※)で犠牲となった者の遺骨調査が、戦後80年を迎える今年、市民団体の活動によって着実に進められている。同調査に取り組む「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(以下、「刻む会」)は、今月27日、山口県宇部市内で会見を開き、ピーヤと呼ばれる炭鉱の排気筒内、水深約35メートル地点で、遺骨が眠る本抗道に繋がると考えられる横穴を発見したと報告した。 
 
 「刻む会」は、クラウドファンディングで活動資金を集め、犠牲者の遺骨を収容するために、事故で水没した長生炭鉱跡内部の潜水調査を昨年から実施している。これまでに行われた潜水調査では、主に陸地に位置する炭鉱の出入り口(坑口)からダイバーが本坑道に進入していたが、坑口から約265メートルに障害物があり、その先の遺骨があるとされる位置までは辿り着けないでいた。そのため、別ルートからの調査も検討されており、「刻む会」は、4月に行われた3回目の潜水調査以降、ピーヤから本坑道に進入する潜水調査を実施する方針を固め、同調査の安全性を確保するためにクレーン台船でピーヤ内部の障害物を取り除く作業を実施していた。 
 
 こうしたピーヤ内部の障害物撤去作業が行われる中で、今回、遺骨が眠る本坑道に繋がる可能性が高い横穴が見つかった。次回4回目の潜水調査は、6月18日及び19日に行われる予定であり、昨年から同調査に携わっているダイバーの伊佐治佳孝さんが、ピーヤ内部から本坑道への進入を試みる。同調査において、今回見つかった横穴から本坑道に進入できれば、抗口から265メートル以上先に進める可能性があり、遺骨の発見も期待できる。 
 
 長生炭鉱の遺骨調査をめぐっては、立憲民主党、共産党及び社民党から「国は遺骨調査に乗り出すべき」とする声が出ていたが、それに対して政府は後ろ向きな姿勢でいた。しかし、石破首相は、4月7日、参議院決算委員会で社民党の大椿裕子参議院議員から遺骨調査に関する追及を受け、「国としてどのような支援を行なうべきか政府の中で検討したい」などと答弁し、全く対応しようとしなかったこれまでとは異なる反応を示した。 
 
 こうした政府側の反応を踏まえて「刻む会」は、4月22日、政府交渉を行い、厚生労働省及び外務省に対して遺骨調査に伴う協力を要請した。同会は、犠牲者の遺骨を遺族に返還することを目的としているが、経済的にも技術的にも政府の協力は得られていない現状である。遺骨調査が進むにつれて国会でも取り上げられるようになり、また、メディアが報道する機会が増えて日韓世論の注目も高まっている。今後、政府は実効性のある調査の協力に乗り出すだろうか、それとも「刻む会」が遺骨を発見するまで静観するつもりか。「刻む会」の取り組みは確実に犠牲者の遺骨に近づいている。 
 
(※)1942年2月3日、山口県宇部市の長生炭鉱で起きた水没事故では、183人が生き埋めとなり、そのうちの136人は朝鮮半島出身者であったとされている。戦時下におけるエネルギー資源を確保するため、国策として取り組まれた石炭の採掘作業であるが、水没事故が起きて以降、犠牲者の遺体はそのままで現在も遺骨は水没した坑道内に眠っている。犠牲者の遺族からは、遺骨の回収と返還を求める声も上がっているが、政府は、遺骨の埋没位置が不明であることなどを理由に、現在に至るまで遺骨調査の実施に応じていない。 
 
【「刻む会」ホームページ】https://www.chouseitankou.com/ 
 
【「刻む会」クラウドファンディング】https://for-good.net/project/1001960?s=06 


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