2025年06月10日12時37分掲載  無料記事
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難民

差別やデマを助長する恐れのある「不法滞在者ゼロプラン」 市民有志がプランの再考を求める意見書を公表

 政府は先月、国内の不法滞在者ゼロを目指す「不法滞在者ゼロプラン」を発表。鈴木法相は記者会見で「ルールを守る外国人を積極的に受け入れる一方で、守らない外国人は速やかに国外退去させる。将来的には不法滞在者ゼロをしっかりと目指していく」と語った。 
 
 ところが、政府が示す「ルール」の線引きは曖昧なものであり、「政府の裁量次第で本来保護されるべき難民が国外退去の対象になるのでは」といった懸念の声も聞かれる。 
 
 こうした中、“入管法改悪反対アクション”に取り組む市民有志は7日、「国が『排除』の大号令をかけることは『共生社会の実現』に逆行する」として、同プランの再考を求める意見書をSNS上で公開。「#非正規滞在ゼロプラン」として、市民の間で拡散されている。また、6月15日には「#非正規滞在ゼロプラン」に「NO!」を突きつけるスタンディング〈入管法改悪反対アクション@新宿南口、午後8時から〉も予定されている。 
 
 政府は“共生社会の実現”を本気で目指しているのであれば、こうした反対意見にもしっかりと耳を傾けるべきだ。 
 
 以下、市民有志による意見書全文。 
 
【出入国在留管理庁「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」*への意見書】 
 
*本意見書では以下「ゼロプラン」と略します。また「不法」という表現は不適切だと考え、以下「非正規滞在者」と記します。 
 
5月23日に発表されたゼロプランについて、入管の問題に取り組む仲間の間で驚き、批判、疑問など多くの声が湧き起こりました。在留資格がなければ人権がないとでも言わんばかりだ、「ルールを守らない」とは具体的にどういうことを指すのか曖昧なまま一括りに「送還」に結び付けられていて恐ろしい、「好ましくない外国人」の表現はあまりにも不適切、これが中央官庁が発表した政策なのかと目を疑った、など書ききれないほどの意見が出されました。それらを集約し、入管法改悪反対アクションを行う市民有志の意見としてこのステートメントを公開いたします。 
 
①このプランが前提とする「ルールを守らない外国人により国民の安全・安心が脅かされている社会情勢」の根拠はどこにあるのでしょうか。入管庁の説明中で唯一根拠らしき記述は「昨今、ルールを守らない外国人に係る報道がなされるなど」という箇所ですが、ルールを守らない日本人に係る報道はその何十倍もあります。統計上も外国人による刑法犯の検挙件数は減少傾向にあります。風説のような曖昧な言説の上に政策を作ってよいものでしょうか。むしろ「外国人についての不安を煽るデマやヘイトスピーチの増加に歯止めが効いていない社会情勢にある」ということの方が正しい現状認識なのではないでしょうか。 
 
②経緯や個々の事情を考慮せず、排除一辺倒で非正規滞在者ゼロを目指すこと自体が不合理です。とりわけ難民申請者は、長年申請を繰り返しようやく認定されるケースが多々あります。にもかかわらず、一回不認定になると在留資格を奪われ非正規滞在にされてしまいます。在留特別許可の運用も、子どもの学ぶ権利や家族結合などの人道配慮が極めて不十分との意見が多くあります。こうした帰国できない事情がある人のことはこのプランでは一切触れられていません。非正規ゼロを目指すならば、こうした事情を抱える人の存在を無視するのではなく、正規の在留資格を出すことを検討すべきです。こうした人々は社会的脅威などではありません。 
 
③「護送官付き国費送還の倍増を目指す」ことは帰国できない事情を抱える人をより多く送還することを意味します。人命軽視の送還に強く反対します。また、非正規滞在の長期化を招いている難民審査の「迅速化」を謳いながら、審査人員の増強は全くプランに盛り込まれていません。省力化だけで迅速化しようとするならそれは人命軽視と言わざるを得ません。 
 
④国がこのような政策を発表すること自体が排外主義を煽り、分断、差別やデマを助長してしまうことを強く懸念しています。ゼロプランは非正規滞在の外国人が安全・安心を脅かすというイメージばかり強調しています。こうしたイメージを植え付けることはむしろ人々の不安を増大させ、分断を作り出し、日本で暮らす全ての人の安全・安心を脅かすのではないでしょうか。このイメージによって傷つけられるのは非正規滞在の外国人だけではないことにも目を向けるべきです。日本にはすでに約350万人の外国人が暮らしていて、各地域で共生社会をつくりあげる営みが積み重ねられています。実現すべき「外国人と安心して暮らせる共生社会」は外国人も安心して暮らせる社会でなくてはなりません。守られるべき安心・安全の外側に外国人を置く、それはもはや共生社会ではありません。国が今こうして「排除」の大号令をかけることは「共生社会の実現」に逆行してはいないでしょうか。102年前にヘイトデマによる大虐殺事件が起きた国で私たちは生きています。二度と繰り返さないためにも、プランの再考を求めます。 
 
最後までお読みくださりありがとうございます。ぜひこのステートメントをシェアしてください。多くの人がこのゼロプランについて話題にしていただくことを願って止みません。 
 
2025年6月7日 
 
朝のあいさつ運動@品川/がんばれないけどあきらめない連合/ともにいきるいちかわ/「難民は練馬にもいます」スタンディング@石神井公園/入管法改悪反対アクション@新宿南口(有志)/入管法改悪反対アクション@高田馬場/横浜駅西口改悪入管法廃止スタンディングアピール(50音順) 


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