2025年07月09日19時20分掲載  無料記事
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市民活動

「長生炭鉱」遺骨を探す第4次潜水調査を実施 遺骨の収容と返還を最優先に

 第二次世界大戦中に起きた「長生炭鉱水没事故」(※)で犠牲となった者の遺骨調査をめぐり、6月18日及び19日の2日間にわたって第4次潜水調査が行われた。今回の調査は、陸地にある坑口(炭坑の入口)からではなく、沖合約300メートルに位置するピーヤと呼ばれる排気筒から炭鉱内に進入して実施された。遺骨の発見には至らなかったものの、これまでの調査で最も奥に進むという成果が得られた。 
 
 潜水調査は、長生炭鉱の遺骨収容・返還事業に取り組む市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(以下、「刻む会」)が、クラウドファンディングなどで独自に集めた活動資金により進められている。今回、炭鉱内を調査したダイバーで水中探検家の伊左治佳孝さんは、同調査を終えて「奥に進むにつれて視界が良好になった。安全性の確保や装備が整えば更に先に進め、より広範囲な調査が行えると思う」などと今後の調査への展望を述べた。 
 
 「刻む会」は、今回の第4次潜水調査後、今後、8月6日から8日に第5次潜水調査、続けて25日から27日に日韓共同で第6次潜水調査を実施する方針を示した。また、第5次及び第6次潜水調査では、これまで以上に炭鉱内の調査範囲を広げる予定で、その調査を可能にするため、7月中にダイバーの緊急脱出用のガスを炭鉱内に設置するなど、安全対策を講じる計画を発表した。 
 
 「刻む会」は、政府に対して遺骨収容・返還事業の協力を求めており、7月1日、これまでの経緯を踏まえて政府説明会と記者会見を行った。会見には、「刻む会」共同代表の井上洋子さん、同会事務局長の上田慶司さん、社民党の大椿裕子参議院議員に加え、ダイバーの伊佐治さんがオンラインで出席し、厚労省人道調査室及び外務省に対して行った政府説明会の概要が報告された。 
 
 政府説明会を終えた「刻む会」の井上さんは「潜水調査を行っている伊佐治さんから政府側に対して直接、危険性を避けながら遺骨調査を行う方法を説明をしてもらった。しかし、政府側は『遺骨調査は危険だということが改めて分かった』と返答するだけで、リスク回避の話を進めて調査に乗り出そうとする姿勢は感じられなかった」と述べた。また、大椿参議院議員は「潜水調査が危険なのは既に分かっている。それを踏まえて『刻む会』はリスクを回避する対策を提示しているにも関わらず、政府側はそれに全く触れようとしなかった」と指摘し、両人とも政府側の対応を強く批判した。 
 
 長生炭鉱の遺骨収容・返還事業に関して石破首相は、今年4月7日、参議院決算委員会において、「国としてどのような支援を行なうべきか政府の中で検討したい」などと答弁したが、その後、厚労省及び外務省では果たして支援検討が行われたのだろうか。 
 
 長生炭鉱水没事故では、183人が生き埋めとなり、そのうちの大半は朝鮮半島出身者であったとされている。そのため、日本政府としては、韓国政府との外交が絡んでくる問題であるため、遺骨収容・返還事業に後ろ向きであるのかもしれない。しかし、事故の犠牲者や遺族にとっては、それは関係ないことである。日本と韓国では、戦後補償が両国間の政治的な軋轢を生じさせる要因の1つになっているが、その軋轢が今も海底に眠る遺骨の収容・返還の妨げになっていないか。「刻む会」の井上さんは「遺骨を収容して遺族に返還することを最優先に今後も活動に取り組む」と話しており、今後の潜水調査での続報が待たれる。 
 
 (※)1942年2月3日、山口県宇部市の長生炭鉱で起きた水没事故では、183人が生き埋めとなり、そのうちの136人は朝鮮半島出身者であったとされている。戦時下におけるエネルギー資源を確保するため、国策として取り組まれた石炭の採掘作業であるが、水没事故が起きて以降、犠牲者の遺体はそのままで現在も遺骨は水没した坑道内に眠っている。犠牲者の遺族からは、遺骨の回収と返還を求める声も上がっているが、政府は、遺骨の埋没位置が不明であることなどを理由に、現在に至るまで遺骨調査の実施に応じていない。 
 
【「刻む会」ホームページ】 
https://www.chouseitankou.com/ 
 
【「刻む会」クラウドファンディング】 
https://for-good.net/project/1001960 


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