2025年10月31日16時19分掲載  無料記事
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市民活動

「長生炭鉱遺骨返還事業」市民団体がDNA鑑定の実施を求める

 1942年2月3日、山口県宇部市の長生炭鉱で起きた水没事故で183人が生き埋めとなった。そのうちの136人は朝鮮半島出身者であったとされている。戦時下におけるエネルギー資源を確保するため、国策として取り組まれた石炭の採掘作業であるが、水没事故が起きて以降、犠牲者の遺骨は現在も水没した坑道内に眠っている。犠牲者の遺族からは、遺骨の回収と返還を求める声が上がっているが、現在に至るまで政府は遺骨調査の実施に応じていない。 
 
 こうした中、市民団体の「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(以下、「刻む会」)は、炭鉱に眠る遺骨を収容して遺族に返還する活動に取り組んでいる。同会は、クラウドファンディングで資金を集め、昨年10月から、炭鉱内に眠る遺骨を探し求めて潜水調査を開始した。今年8月には、ついに犠牲者のものと思われる遺骨が発見されたことで、遺骨の返還に向けた取り組みは大きく前進した。 
 
 発見された遺骨から犠牲者を特定するためには、DNA鑑定を行い遺族のDNAと照合する必要がある。そのため、遺骨発見後、「刻む会」は、政府に対して遺骨調査の支援を求めると同時に、発見された遺骨のDNA鑑定を求めていた。これに続き、10月21日に「刻む会」が厚労省、外務省及び警察庁に対して行った政府交渉では、警察庁の求めに応じ、同会が集めた31人分の遺族のDNAデータを提供した。 
 
 これらの求めにより、遺族の特定に向けたDNA鑑定が進められると思われていたが、政府交渉における警察庁の回答は、「少なくともDNA鑑定は実施することになると思うが、韓国政府との調整も含めて検討中であり、現在のところ実施する目処は立っていない」といった内容に留まった。遺骨の発見から約2ヶ月が経過したが、未だ遺族の特定に動き出そうとしない政府に対し、「刻む会」は、12月19日までにDNA鑑定の結果を出すように求め、同日までに何も進展がなければ「刻む会」が独自にDNA鑑定を実施することも辞さない方針を示した。 
 
 政府交渉後に行われた記者会見で、「刻む会」の井上洋子共同代表は「83年が経過してようやく海底から遺骨が発見されたのに、2ヶ月間も放置されていることに憤りを感じる」と政府の対応を非難。また、同会の上田慶司事務局長は「遺族の高齢化が進んでいることからも、一刻も早く遺骨の返還を実現する必要があり、DNA鑑定が何年間も塩漬けにされるのを避けなくてはならない」として、遺族を特定するために速やかなDNA鑑定の実施を訴えた。 
 
 炭鉱内にある遺骨の位置を特定できたことから、「刻む会」は来年2月に長期の日程を組んで潜水調査を実施する方針である。その際には多くの遺骨が収容されることが予想されるため、DNA鑑定を行い遺族を特定する作業の筋道をつけておく必要がある。 
 
 同調査の期間中にあたる2月7日には、水没事故の犠牲者を弔う追悼式典が行われる。韓国政府は、毎年のように同追悼式典に出席者を派遣しているが、日本政府からの出席はこれまでに一度もない。この状況に、27日に行われた政府交渉で、井上共同代表は「追悼式典に出席することで日本政府にも事故の悲しみを共有してほしい」と求め、記者会見では、「来年の追悼式典を日韓両政府が力を合わせてご遺骨と向き合う場にしたい」と心境を語った。 
 
【「刻む会」ホームページ】 
https://www.chouseitankou.com/ 
 
【「刻む会」クラウドファンディング】 
https://for-good.net/project/1002542 


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