2026年02月20日22時06分掲載
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政治
高市発言を歴史の秤にかける 周恩来と田中角栄 李憲彦
高市総理の人気が盛り上がっているようですが、中国はもっと歴史的な視点で物事を評価しているのだと思います。そのような視点から、高市発言を再検討してみました。
「台湾有事は日本の存立危機事態になり得る」――高市首相によるこの発言は、現代の安全保障論としては「リアリズムに基づく覚悟」と喝采を浴びる一方、中国側からは激しい反発を招いている。しかし、この対立を単なる「タカ派の強弁」か「内政干渉」かという二極論で見るだけでは、事の本質を見誤る。 これは、1972年の日中国交正常化以来、日本が守り続けてきた(あるいは縛られてきた)「ある呪縛」からの逸脱である。周恩来が田中角栄に贈った「言必信、行必果」という六文字。この額に込められた、美辞麗句の裏側に潜む「毒」と、現代の日本政治が陥った「論外の深淵」を、歴史的スパンから再評価する。
「三等の士」という評価
1972年、歴史的転換点において、周恩来総理は田中角栄首相に一幅の書を贈りました。「言必信、行必果(言ったことは必ず信を守り、やることは必ずやり遂げる)」。
この言葉は、現代では「実行力のあるリーダーへの賛辞」と受け取られがちですが、その出典である『論語』子路篇を紐解くと、そこには周恩来という稀代のインテリジェンスが仕掛けた、冷徹な**「格付け」**が浮かび上がります。
孔子は「真の政治家(士)」を三つのランクに分けました。
第一等: 己を律し、恥を知り、国家の使命を全うする者。
第二等: 親孝行で情に厚く、徳のある者。
第三等: 「言必信、行必果」。ただし、孔子はこれに続けて**「●●硜硜硜)然たる小人(しょうじん)なり」**と付け加えています。石頭が固く、融通の利かない、器の小さい人間という意味です。
周恩来は、田中角栄をあえてこの「第三等」に格付けしました。「日本は過去の戦争において『恥を知る』振る舞いができなかった。ゆえに第一等の士とは呼べない。せめて、一度交わした約束(国交正常化と一つの中国)だけは泥臭く守り抜く、頑固な小人であれ」という、痛烈な皮肉と条件付きの信頼を突きつけたのです。
「恥」を介さない盟約
田中角栄はこの「小人」としての役割を飲み込みました。彼はエリートの教養を誇示するのではなく、あえて「泥を被ってでも実行する」という現場叩き上げの迫力で、周恩来の提示した枠組みに応えました。この時、日中関係は「過去の恥」を一旦棚上げにし、「言葉ーを守る(信)」という最低限のラインで繋がれたのです。
現代の転落:高市発言と「数え上げる価値」の喪失
しかし、この「三等の小人」という危うい均衡は、近年の政治、とりわけ高市首相による台湾発言によって決定的な破局を迎えました。これを周恩来の文脈で評価するなら、それは単なる戦略的転
換ではなく、**「政治家としての格の喪失」**と呼ぶべき事態です。
「算うるに足らん」存在へ 『論語』の当該箇所には、さらに続きがあります。弟子の「では、今の政治家はどうですか?」という問いに対し、孔子は吐き捨てるように答えます。
「噫(ああ)、●●(としょう)の人、何ぞ算(かぞ)うるに足らんや」 (ああ、あんな竹かごのように小さな器の連中など、数に入れる価値すらない)
周恩来が引いた「三等の小人」というラインは、日本を国際社会の「交渉相手」として繋ぎ止めておくための最低ラインでした。しかし、過去の約束(信)を軽んじ、かといって「恥を知る(第一等)」の品格に戻るわけでもなく、ただ目先の支持や一時の情勢で強弁を繰り返す姿は、周恩来の目には、もはや「小人(三等)」ですらなく、**「数える価値もない器(斗●ーの人)」**と映るでしょう。
結び:失われた「格」の行方
高市政権の台湾発言は、戦後日本を縛り続けた「周恩来の呪縛」を破るものかもしれません。しかし、その行為が「歴史的スパンでの信義」を伴わないのであれば、それは自立ではなく、単なる「格下げ」を意味します。
かつての田中角栄は、周恩来の「毒」を承知で飲み込み、一国のリーダーとして「数に入れるべき重み」を維持しました。対して、現代の日本政治は、自らその重みを捨て、孔子が嘆いた「算うるに足らない」領域へと足を踏み入れているのではないか。
「言必信、行必果」。 この額が割れた今、日本に突きつけられているのは、安全保障の危機以上に、**「対話に値する相手として、もはや数えられていない」**という、外交的な存在理由そのものの危機なのかもしれません。
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