2026年10月09日13時42分掲載
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環境
PFAS血液検査に市の補助を 国分寺市議会が陳情採択 多摩の住民運動、自治体による健康支援へ一歩
東京都国分寺市議会は9月30日、有機フッ素化合物(PFAS)の血液検査を希望する市民に対し、市が費用を補助するよう求める陳情を賛成多数で採択した。
これを受け、陳情を提出した「PFAS汚染を考え、安心で住みやすい国分寺を創る市民の会」は翌10月1日、市内で記者会見を開いた。
共同代表の卯城公啓氏、布川淑氏、杉井吉彦氏、梅原利夫氏らが出席した。
同会の代表らは採択を歓迎する一方、「これは決してゴールではない」と強調。実際の補助制度につなげるよう、市長や担当部局に求めていく考えを示した。
採択されたのは、陳情第8-1号「有機フッ素化合物(PFAS)から健康を守るために、血液検査に市の補助を求める陳情」(ページ下部のリンクから)。今年1月に受理され、9月9日の厚生文教委員会で採択された後、同30日の本会議でも採択された。
現在、PFASの血液検査を自費で受ける場合、1万円前後の費用がかかる。陳情は、東京都などによる公的な検査制度が整うまでの間、希望する市民が経済的な理由で検査を諦めないよう、市に費用の補助を求めたものだ。
卯城氏は会見で、PFASは公共の水道を通じて住民の体内に取り込まれてきた可能性がある問題だと指摘。今回の採択を、国分寺で健康対策を進めるための「第一歩」と位置づけた。
──PFASとは 1万種類以上あるとされる化学物質
PFASは一つの物質の名前ではない。PFOAやPFOSなど、1万種類以上あるとされる有機フッ素化合物の総称だ。
水や油をはじき、熱にも強いことから、泡消火剤や撥水加工、半導体製造など幅広い用途で使われてきた。一方、自然界で分解されにくいものが多いため、「永遠の化学物質」とも呼ばれている。
このうちPFOAやPFOSについては、健康への影響を調べる研究や規制が比較的進んでいる。国際がん研究機関(IARC)は2023年、PFOAを「ヒトに対して発がん性がある」、PFOSを「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」と分類した。
日本では今年4月から、PFOSとPFOAについて、水道水中の合計を1リットル当たり50ナノグラム以下とする水質基準が施行されている。
ただ、現在の水道水の濃度を下げることと、過去に汚染された水を飲んできた可能性のある住民の健康不安にどう対応するかは、別の問題として残っている。
──国分寺市民85人を検査 79人が20ng/mL超
多摩地域では、行政による健康調査が進まない中、市民自身によるPFASの血液検査が行われてきた。
2022年から23年にかけて多摩地域の住民791人を対象に行われた血液検査では、国分寺市民85人のうち79人で、PFOS、PFOA、PFHxS、PFNAの4種類を合わせた血中濃度が1ミリリットル当たり20ナノグラムを超えた。
この20ナノグラムという値は、病気の発症を直接示す基準ではない。米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM)は2022年、複数のPFASを合わせた血中濃度が1ミリリットル当たり20ナノグラム以上の場合、曝露を減らし、健康状態をより注意深く確認するよう勧告している。
一方、NASEMが指標としているPFASの種類と、多摩地域の市民検査で集計した4種類には違いがある。このため単純な比較はできないが、検査を担った市民団体は20ナノグラムを、体内へのPFAS曝露や今後の健康管理を考える一つの目安として参考にしてきた。
国分寺で確認されたこうした検査結果は、公的な血液検査や健康相談を求める根拠の一つとなっている。
──市独自の検査体制は一度不採択 要求を変えて再び議会へ
今回の採択まで、市民の会の要求が順調に通ってきたわけではない。
同会は2023年、国分寺市にPFASの血液検査体制を整備するよう求める陳情を提出した。長期間にわたって継続審査となったが、2025年9月の市議会で不採択となった。市が独自の検査体制を整えることについて、「本来は国や東京都が担うべきではないか」との慎重な意見があった。
一方、市議会はPFAS対策そのものについて、国や東京都に対応を求めてきた。2023年9月には、東京都に汚染原因の究明や希望者への血液検査などを求める意見書を全会一致で可決。2026年3月には国に対しても、原因究明や希望者が血液検査を受けられるようにすることなどを求める意見書を可決した。
こうした経緯を踏まえ、市民の会は今回、要求の形を変えた。市に独自の検査体制をつくるよう求めるのではなく、国や東京都による制度が整うまでの間、市民が自費で受ける血液検査の費用を補助してほしいとした。
会見で同会は、PFASへの曝露は本人の生活習慣ではなく、水道という公共インフラを通じて起きた可能性があると指摘。「自分のお金で健康は大丈夫なのかと調べている」状況を、最も身近な自治体がそのままにしてよいのかと問いかけた。
同会によると、前回の陳情に反対した議員の中にも、今回は賛成に回った議員がいたという。要求を「市独自の検査体制」から「検査費用への支援」に組み替えたことに加え、市民による継続的な働きかけで議員のPFASへの理解が深まったことも、今回の採択につながったとみている。
──多摩のPFAS運動 「調べる」から「行政を動かす」段階へ
今回の国分寺での動きは、市内だけで進んできたものではない。
多摩地域では2020年、水道水のPFAS汚染や水源井戸の取水停止が報じられたことをきっかけに、各地で市民による学習会などが始まった。活動を続ける中で、水や土壌の汚染だけでなく、「住民の体内にどれだけPFASが蓄積しているのか」を調べる必要性も意識されるようになった。
2022年8月には「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会」が発足。医療関係者や研究者らの協力を得て自主的な血液検査を実施し、翌年には791人分の結果を公表した。その後、活動は地下水調査や各地域での市民団体の結成、地方議会への働きかけ、東京都や国への要請へと広がった。
2024年8月には「多摩地域のPFAS汚染から命と健康を守る連絡会」に改組。多摩各地の市民団体や医療関係者、研究者、地方議員、法律家などとの連携を進めている。
同連絡会共同代表の根木山幸夫氏は、筆者が9月11日に行った取材で、多摩地域の運動は、市民による自主血液検査で体内へのPFAS曝露を可視化する段階から、その結果を公的な検査や健康対策、地下水・土壌調査、汚染源対策へと結びつける段階に入っているとの認識を示した。
現在、連絡会が力を入れる課題の一つが、まさに公費による血液検査の実現だ。2026年4月から東京都に公費検査を求める署名運動を進め、9月10日にはオンラインと紙を合わせて1万5831筆を都に提出した。
根木山氏によると、この要請には東京都保健医療局の担当課長が出席し、PFASと健康について都の担当部局と直接議論する場が設けられた。ただ、公費による検査や予算措置が実現するかは、まだ見通せない。
そこで都への働きかけと並行して、根木山氏が取材で期待を寄せていたのが、国分寺市での取り組みだった。まず国分寺で血液検査への公的な支援を実現し、それを多摩地域のほかの自治体にも広げたいという。
その約3週間後、国分寺市議会は検査費の補助を求める陳情を採択した。
今回の採択は、多摩地域で続いてきた市民運動が求める「自治体による健康支援」が、一つの自治体で議会の意思として具体化したものともいえる。
──全国では公費検査や助成に踏み出す自治体も
PFASをめぐっては、すでに公費による血液検査や検査費の助成に踏み出した自治体もある。
岡山県吉備中央町では、円城浄水場のPFAS汚染を受け、公費による血液検査を実施。2024年11〜12月の初回検査では709人が採血を受け、その後も追加検査が行われた。
千葉県鎌ケ谷市でも、基準を超えるPFASが検出された井戸水を飲んでいた住民を対象に、血液検査費用を助成している。
こうした地域では、特定の浄水場や井戸の利用者など、PFASに曝露した可能性のある住民を比較的特定しやすい。一方、多摩地域では地下水が長年にわたり水道水源として利用され、複数の井戸や配水系統もあるため、住民一人ひとりがいつ、どの水を、どの程度飲んだのかを把握することは難しい。
こうした状況の中、市民自身が血液検査によって体内へのPFAS曝露を調べ、その結果を行政による健康対策につなげようとしてきたことが、多摩地域の運動の特徴となっている。
──医師「10年、20年と待つのではなく」
会見では、共同代表で本町クリニック院長の杉井吉彦氏が、医師の立場からPFAS対策について発言した。
杉井氏は、PFASの健康影響をめぐって海外を中心に研究が積み重ねられている一方、すべての疾患との関係が明らかになっているわけではないと説明した。
その上で、健康への影響が疑われる段階から対策を進める「予防原則」が重要だとし、「研究結果が出そろうまで10年、20年と待つのではなく、今の段階からPFASへの曝露を減らし、必要な検査や健康対策を進めるべきだ」と強調した。
また、長年国分寺で暮らしてきた住民からも、自身や家族の病気をきっかけに「もっと早く検査を受けていたら」と考えるようになったとの発言があった。
個々の病気とPFAS曝露との因果関係が確認されているわけではない。それでも、「自分の体内にどれほどPFASがあるのか知りたい」という住民の不安や思いが、血液検査を求める運動の大きな背景となっている。
──焦点は補助制度の具体化へ
共同代表の布川淑氏は、会見で読み上げた声明で、今回の採択には二つの意味があるとした。
一つは、健康不安を抱える市民に血液検査や健康相談への道を開こうという、市議会の意思が示されたこと。もう一つは、環境汚染が明らかになった地域で、住民に最も身近な自治体が健康を守るためにどのような役割を果たせるのか、その具体例を示したことだという。
ただ、陳情の採択だけで補助制度が始まるわけではない。補助額や対象者、利用回数、検査後の健康相談をどうするのかなど、具体的な制度設計はこれからだ。
同会も、現時点で補助額や対象者について具体案を固めているわけではない。可能であれば来年度予算への反映も視野に、市長や担当部局と協議していく考えだ。
これまで国分寺市議会は、PFAS対策を国や東京都に求めてきた。今回の採択では、市民の血液検査費用について、国分寺市自身にも役割を求める形となった。
今後は、採択された陳情を市がどのように制度化するのかが焦点となる。国分寺で補助制度が実現すれば、多摩地域だけでなく、PFAS汚染への健康支援を模索する全国の自治体にとっても、先行事例の一つとなりそうだ。
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◯ 陳情第8-1号「有機フッ素化合物(PFAS)から健康を守るために、血液検査に市の補助を求める陳情」
https://www.city.kokubunji.tokyo.jp/shigikai/seigan/chinjousho/1037003.html
◯ 「多摩地域のPFAS汚染から命と健康を守る連絡会」(旧:多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会)
https://tamapfas.wixsite.com/info
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