2026年10月24日13時58分掲載
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あるショッキングな映画があります 映画『ナザ』 李憲彦
今日10月24日から渋谷のシアター・イメージフォーラムほかで緊急公開されるドキュメンタリー映画『NAZA ナザ』。この作品が突きつけている現実があまりに重く共有しておきたいと思いました。 タイトルの「NAZA(ナザ)」とは、イスラエル軍の軍事用語で、攻撃の際に事前に予測・許容される「民間人の巻き添え(付随的被害)の数」を意味する言葉です。
アブラハーム監督は2023年秋以降、イスラエル軍のAI標的選定システムに関する調査報道を世界に発表してきました。そこで暴かれたのは、SFの未来予想図などではなく、「AIがすでに何万人もの人間を実際に殺し続けている」という、今そこにある現実です。
・ガザ住民230万人の監視データから「戦闘員らしき人物」をスコア化し、3万7,000人もの暗殺リストを自動生成するAI『ラベンダー』
・その標的が、夜間に家族のいる自宅に帰った瞬間を検知して通知するシステム。子供が『パパはどこ?』と打ったメッセージだけで、標的認定をして、家族ごと殺すのだそうです。
・そして、1人の下級戦闘員を殺すために「最大15〜20人」、幹部なら「最大500人」の民間人の死を事前に枠(クオータ)として許容する『NAZA』という基準。
AIが弾き出した標的に対して、人間の情報将校が確認にかける時間は1件あたり「わずか20秒」だったといいます。AIの決定に人間がただ追認のハンコを押し、攻撃が容易な「家族と眠る自宅」を狙って、高価な精密誘導弾ではなく安価な無誘導爆弾を落とし、家ごと、家族ごと吹き飛ばしていく。
無誘導爆弾を落とし、家ごと、家族ごと吹き飛ばしていく。
なぜ、人間がそんなボタンを押せるのか。
生身の人間を殺すという本来なら耐え難い行為が、「AIが算出したスコア」と「許容される死者数の上限(NAZA)」という2つのデジタルの数字に置き換えられてしまったからです。命や痛みが数値に抽象化された瞬間、人間の判断や良心は麻痺し、大量殺戮はただの「日常の事務作業」として自動的に処理されていきます。
この映画は、そのおぞましいシステムを動かしていた当事者——24人のイスラエル軍兵士や諜報員たちと、3年間にわたり夜のテルアビブの屋上で1対1で向き合い、彼ら自身の口からその加害の事実を語らせています。
報復を防ぐため、証言者の顔や声にはデジタル処理による匿名化が施されていますが、彼らが紙にペンで殺戮システムの図解を描く手つきや、言葉に詰まる「沈黙」からは、このシステムを動かしていたのが決して特別な怪物ではなく、どこにでもいる普通の若者や市民であったという事実が否応なく突きつけられます。
ジョナサン・グレイザーが『関心領域』で描いた、アウシュヴィッツの壁の隣で平穏な日常を営む「悪の陳腐さ」。それが80年後の今、AIとアルゴリズムという機械のシステムに組み込まれ、人間が人間を殺すことの歯止めを完全に破壊している。これは遠い中東の戦争の記録であると同時に、テクノロジーによって人間の倫理と責任がどう崩壊していくのかという、私たち自身の時代の決定的な証言です。
監督は、イスラエル人ジャーナリストのユヴァル・アブラハームと、撮影監督のラヘル・ショール。先月のヴェネツィア国際映画祭では、上映後に25分間のスタンディングオベーションが起き、審査員特別賞を受賞しました。
ヴェネツィアでの受賞直後、イスラエル政府は猛反発し、監督2人の「イスラエル国籍の剥奪」や、映画で証言した兵士たちの捜査・処罰を要求する事態にまで発展しています。命の危険や国家からの報復に晒されながら、イスラエル人自身が自国のシステムの内部にカメラを向け、記録として残したことの意味は計り知れません。
まずはこの予告編だけでも見てみてください。
▼映画『NAZA ナザ』公式サイト(10/24よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開)
https://transformer.co.jp/movie/naza/
▼映画『NAZA ナザ』日本版予告編(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=G1bYUhQ8oro
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