2009年05月11日15時00分掲載  無料記事
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社会

検証:右翼市民運動 組織拡大の背景とその行動、習性、思想  私たちはどう向き合えばいいのだろうか

  本紙既報の通り、「右翼市民運動」とでも言うべき動きが次第に広がり、ある程度の影響力を持ちつつある。「在日特権を許さない市民の会(以下在特会)」や「行動する保守運動」がそれにあたる。排外主義なかでも在日韓国・朝鮮人に対する誹謗・攻撃をメインとする彼らの主張は、既存の「街宣右翼」とほとんど変わらないが、その手法がかなり異なっている。こうした新手の右翼運動に対抗する運動も散発的に出てきてはいるが、市民の側にもまだ戸惑いがある。そこで、彼らの行動、習性、思想を検証し、彼らにどう向き合うかを考えてみたい。(村上力) 
 
●影響力を増す右翼市民運動 
 
  「4・11蕨市デモ」など、カルデロン一家を狙った行動を再三起こしていた勢力が「行動する保守」である。 
 
  「行動する保守」とは何か。「せと弘幸BLOG『日本よ何処へ』」の主宰者瀬戸弘幸氏によれば、それを構成する組織は「主権回復を目指す会(代表:西村修平氏)」、「在日特権を許さない市民の会(桜井誠氏)」、「外国人参政権に反対する会(村田春樹氏)」、「せと弘幸BLOG『日本よ何処へ』(瀬戸弘幸氏)」、「日本を護る市民の会(黒田大輔氏)」、「日本の自存自衛を取り戻す会(金子吉晴氏)」などである(※1)。 
  この他、「NPO法人外国人犯罪追放運動(有門大輔氏)」、「国民社会推進協議会(中村寿徳氏)」なども頻繁に統一行動をとっており、同じ右翼市民運動であるとみてよい。 
 
  彼らの運動の手法は、既存の「街宣右翼」と違うことは、前掲の記事で述べた(※2)。(1)市民の参加を呼び掛けをする、(2)デモや申し入れなどをする、(3)街頭演説も街宣車からではなく、拡声器で演説をする、(4)自前の横断幕やプラカードを作ってくる、といったことがあげられる。 
 
  このような右翼市民運動が、最近勢力を拡大しているようだ。たとえば「在特会」の会員数は、年明けから1000人ほどの増加を見せている。市民の参加を呼びかけるデモ行進の動員数も多い。「在特会」主催で5月2日に行われた外国人参政権に反対する全国(福岡、名古屋、北海道、東京)一斉デモ行進は、東京のデモには300人ほどの参加があり、全国で合わせると参加人数は400人以上になる(※3)。 
 
  政治的影響力もある。在特会の全国大会では、吉田康一郎議員と古賀俊昭議員の2名の都議会議員が激励をしている。「外国人参政権に反対する会」主催の集会にも、多くの国会議員が激励を送っている(※4)。また、5月2日の全国一斉デモは、北海道において「日本会議北海道支部」と協力している。 
 
●化けの皮 
 
  「主権回復を目指す会(代表:西村修平氏)」「在日特権を許さない市民の会(桜井誠氏)」「外国人参政権に反対する会(村田春樹氏)」「せと弘幸BLOG『日本よ何処へ』(瀬戸弘幸氏)」「日本を護る市民の会(黒田大輔氏)」「日本の自存自衛を取り戻す会(金子吉晴氏)」「NPO法人外国人犯罪追放運動(有門大輔氏)」「国民社会推進協議会(中村寿徳氏)」。書くだけで疲れるたくさんの組織が名を連ねている。 
 
  一見、これらの団体は個々に独立し、横のつながりだけのように見える。だが、化けの皮を剥がす必要がある。以下は、上記の「運動家」やその関係者たちの持つ、別の肩書きである。 
 
「維新政党・新風」副代表瀬戸弘幸氏/「維新政党・新風」国民運動推進委員村田春樹氏/「維新政党・新風」東京都本部広報委員長有門大輔氏/「維新政党・新風」神奈川本部青年部長中村寿徳氏。 
 
  これだけではない。「在特会」副会長八木康洋氏は、「維新政党・新風」茨城本部青年部長である。また、西村修平氏は、「維新政党・新風」元千葉県本部長である。 
 
  組織的な取り組みを思わせるほどの「維新政党・新風」関係者が出てきた。ところで、「維新政党・新風」は4月13日に「民族差別を許さない」と題した「声明」を発表した(※5)。そこには「卑小なる民族差別主義者とは一線を画すことを改めて宣言」している。この「声明」に従い、「維新政党・新風」が誠実さを見せてくれることを今後期待したい。 
 
  右翼市民運動が、長い間醸成されてきた保守思想の産物であることも指摘しておきたい。たとえば、彼らは、「産経新聞」に対して抗議行動を行った際、自分たちが永年の「産経新聞」読者であることを明かしている(※6)。 
 
  また右翼市民運動を担う「運動家」たちの多くは、拉致被害者救出運動にコミットしている。村田春樹氏は「救う会埼玉」の会員である。「在特会」元関西支部長増木重夫氏は「救う会大阪」の元事務局長である。西村修平氏は「救う会千葉」の元幹事である。八木康洋氏は「救う会いばらき」で活動をしている。また、拉致問題を扱う集会(家族会幹部も登壇したもの)で、「在特会」主催イベントの参加呼び掛けがされていることもあった。 
  つまり、「産経新聞」など、保守論調を好み、「拉致被害者救出運動」などに関わっていくなかで、思想形成がされている構図を確認しておきたい。実際に、彼らは「真の保守」「最右派」を自認している。 
 
●その「習性」と「思想」 
 
  彼らの主張や行動をよく検証してみることが必要だ。カルデロン一家の件での一連の行動で、彼らは「法治崩壊をもくろむ反日左翼が支援をしている」として、一家への個人攻撃を扇動した。 
  だが彼らは「法治崩壊をもくろむ反日左翼」の具体名も「支援」形態も、証拠となるものは一切出していないまま行動に突っ走った。この件を取材した者として、支援者に彼らが言う「反日左翼」といわれるような組織は関わっていなかったことを強調しておきたい。 
 
  ここに彼らの「習性」を見ることが出来る。彼らは、きわめて曖昧な論理、風説、思い込みを拠り所に行動を「正当化」もしくは扇動している。「4・11蕨市デモ」の際、彼らは現場で「外国人排除デモに反対する会」をカルデロン一家の支援者と規定した上で、「彼らが一家を道具にしてきた」などという妄想を抱き、「ノリコちゃんを道具にするなー!」と気勢をあげた(※7)。 
  実際は「外国人排除デモに反対する会」はカルデロン一家の支援に関わってはいない。また、同日蕨駅前で起こった口論の際、「在特会」側は「外国人排除デモに反対する会」に対して、「朝鮮人は出て行けー!」などと連呼した。つまり「外国人排除デモに反対する会」を「朝鮮人」と勝手に思い込んで、シュプレヒコールをあげていたのである(※8)。 
  つまり、彼らは仲間内で勝手に妄想したうえで、勝手に興奮してしまうのだ。それだけではない。例えば「4・11蕨市デモ」の際は、その「行動」の矛先は女子中学生だった。 
 
●彼らにどう向き合うか 
 
  「4・11蕨市デモ」を主催した「在特会」などに対しては、各方面から批判が出ているようだ。彼らは保守側から受けた批判に対しても、その批判者を「奇麗事保守」と罵ってしまう(※9)。つまり、自分たちだけが正しいと思い込み、違う立場からは勿論、仲間内からの指摘も聞き入れない姿勢を露呈した。彼らは「批判」に対してかなり否定的な認識をしている。おそらく、仲間内で相互に批判する思いやりや勇気もなければ、自分に対する批判を受けとめるキャパシティも不足しているのだろう。 
 
  では、我々は彼らに対して、どのように向き合うべきか。 
 
  「在特会」には多くの市民が参加している。その市民の背後には、「嫌韓流」やその類の出版物が、書店に平積みにされている現実がある。そこに、不合理でありながらも深く根を張った『大衆感情』があるのではないだろうか。たしかに、中心的な役割を担っている「運動家」を叩き潰すことは決して無意味ではないかもしれないが、シンパシーを感じている市民の姿勢をより硬直化させるだろう。 
 
  彼らは、自分に敵対する者に「朝鮮人」というレッテルを張っている。また、「在特会」会長桜井誠氏のブログのコメント欄では、凶悪犯を「チョン顔」であるとして、「朝鮮人」扱いしている書き込みが見受けられる(※10)。つまり彼らにとっては、いやしめ見下ろす対象が実際の「朝鮮人」でなくていいのである。「あれは帰化した在日だ」といえばそれでいい。そこには、自分と違う立場の者、あるいは凶悪犯を「朝鮮人」化し、日本人側を自分の思う通りに美化しておきたい欲求が働いている。自己肯定の装置としての「朝鮮人」を消費しているのだ。「運動家」たちは、その「日本人」という虚妄な優越感を再確認する場を提供し、その不合理な感情を政治利用しているだけなのである。 
 
  だが、結局国家主義や民族差別により感得される優越感など、虚妄でしかない。それにすがり続けることがどんなに恥ずかしいことかに、気づいていただかなければならない。そのためにはまず、小難しい「勉強会」などではなく、同じ「人」であるということを再確認するための、人と人との交流の場をつくることが必要なのではないだろうか。沢山の人々が集まり、多様な文化が交じり合うほうが楽しい。そこで国家主義や民族差別主義は無用となるだろう。 
  そうすれば、国家主義や民族差別主義など、恥ずかしくて捨てるだろう。無意味な自己肯定を止め、真に向き合うべき問題を直視するようになるだろう。諸問題に率直に向き合う対話の糸口を作ることが容易になるだろう。 
 
※1: 
http://blog.livedoor.jp/the_radical_right/archives/52214877.html 
※2: 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200902231138491 
※3: 
http://www.zaitokukai.com/modules/news/article.php?storyid=225 
※4: 
http://www.geocities.jp/sanseiken_hantai/ 
※5: 
http://sokuho.sblo.jp/article/28433079.html 
※6: 
http://peevee.tv/v/54rm8c 
※7: 
http://www.youtube.com/watch?v=vytnS67dQMw&feature=related 
※8: 
http://www.youtube.com/watch?v=wpibxawVfWg&feature=related 
※9: 
http://www.zaitokukai.com/modules/wordpress/index.php?p=93 
※10 
http://ameblo.jp/doronpa01/entry-10223366756.html#cbox 


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