2014年07月01日20時56分掲載  無料記事
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人類の当面する基本問題

(27)体制側による知識層の懐柔と反体制の抑圧 落合栄一郎

  様々な分野で、権力者・企業側に都合の良いような処置がカネと力によって行われている。逆に、権力・企業にとって不都合な動きは、徹底して潰される。これは、1党独裁などでの政治形態で行われているものとは、別のモノとして扱う。根底のところでは、同じ現象ではあるが。 
 
 科学的研究の分野でこの傾向が顕著であるが、その他の分野でも行われつつあり、是非/正邪などの判断に関して、科学者・専門家やいわゆる識者に依存する市民を惑わせている.そうしたいくつかの傾向を紹介する。 
 
(あ)原子力・放射能問題については、先頃の「美味しんぼ」の鼻血論争で、権力側に取り込まれている科学者のありようを検討した(1)が、いわゆる原子力ムラに属する多くの科学者が、原子力産業に取り込まれている.それは、一度原子力関係の科学・工学者になれば、自分達のやっていることが、市民一般や人類一般にどのような影響を及ぼすだろうかという関心はなく、いかにして自分達の地位を保持するかに苦心することになるからである。これはあらゆる科学の分野でも同様であるが、この分野の研究は、原子力産業に完全に依存していて、その不都合な部分を暴いたりすれば、のけ者にされる。それでも、良心的に脱原子力を主張しつづけている科学者もいるにはいるが、冷遇に喘いでいる。なぜ脱原子力かといえば、それに伴う放射能が生命とは共存しえないこと、放射性廃棄物の安全な処理法がみつかっていない(あり得ないかもしれない)ことを心得ているからである。原子力ムラの科学者は、こうしたことを知ろうとしていないか、無視している。そして、こうした不都合を隠蔽する原子力産業に加担、または、目をつぶっている。 
 
 残念なことには、非生物系科学・工学者は、原子力に直接関係しないまでも、放射能の危険性などは無視できると考える人が多いようである。おそらく、原子力という科学の最先端技術を自分達の到達したピラミッドとして仰ぎ見る傾向がそういう意識を作り出しているのであろう。その上、現実に放射性物質などを自分達自身で扱っている場合もあり、その悪影響は受けていないので、その危険性はないと思い込んでいるのであろう。それは当然で、彼らは、充分に安全を確保した条件下で、放射性物質を扱っているのである。しかるに、原発事故で環境に放出された放射能は、そんなコントロールされた条件下にあるわけではなく、その存在すら充分に認識できない状況下で、一般市民は、生活しなければならないのである。学者は残念ながら、そうした想像力をもたないようである。 
 
(い)日本では、原発と地震の関係は密接である。福島原発事故は、いまでは、津波が事故を悪化させたとはいえ、直接の原因は地震であったと考えられている。さて日本の地震研究の最先端にあった北大の島村英紀教授が、「地震予知はウソだらけ」という著書で、日本の地震学会が体制側にあって、充分に科学的な研究を疎かにしている事実を指摘し、201x年夏の大震災を予測していたことなどが、権力側の反撥を買い、北大から、詐欺の容疑で起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けた(2)。実際は、詐欺の事実はなく、教授を失脚させるための冤罪にすぎなかった。ベラルーシの医師バンダジェフスキー(ゴメル医科大学学長)は、放射能による死亡死体を多数、丹念に観察し、内部被曝の解明に多大の貢献をしたが、そのため、大学入学に関して不正を働いたという罪で、8年間投獄された(これも冤罪)。 
 
(う)医療・医薬関係については、すでに様々な例が知られている。数年前に起ったスワインフルー騒動では、医薬業界が、ある種の学者を動かし、世界保健機構にパンデミックを宣言させ、ワクチンを世界各国に売り込んだ(3)。医薬品の効能の誤摩化しが、研究費を供された学者と業界からの横やりによって作り上げられると云う例は、日本でのノバルテイス社の例に限らず、無数にあるといってよい。男子の強精剤バイアグラに味をしめた製薬業界が、女性のそれを開発すべく、学者を焚き付けて、女性の性障害病なるものをでっち上げようとしたという例もある(4)。また、現在、アメリカなどでは、多用されているADHDなる病気(たぶんにでっち上げのものであったと、その創始者が最近懺悔(5))のためのリタリンその他の医薬もある。何しろ、製薬会社が儲ける為には、多くの人を病気に仕立てることが手っ取りばやい。 
 
(え)最近この欄(6)で報道されたGM作物とそのための農薬(ラウンドアップ)の毒性についての研究論文が、掲載誌に企業側の副編集長が送り込まれたことによって、掲載を撤回されるという、あからさまな研究の抹殺がある。これは、丹念な研究によって、ラウンドアップおよびGMトーモロコシを摂取した実験動物(ネズミ)に酷いガンなどができるという研究結果であった。幸いなことには、この研究論文は、別の雑誌に最近再掲載された。最初の雑誌は、オランダのエルセヴィアー社で、世界で1、2位の科学系出版社であり、この掲載撤回に多くの科学者から抗議が寄せられている。そして、この出版社に対抗して実力伯仲のドイツのスプリンガー社が、取り上げなおした。これにはこの2社の思惑もからんでいるかもしれない(なお、筆者は、この2社から、ここ数年で3本の著作を出版している)。 
 
(お)気候変動についても、なんらかの、黒幕(?)からの科学者連支配があるように、見える。IPCCにつらなる科学者達には、一方向しか目を向けない傾向があり、そして、この体制に反する研究は、排除されるようである。これは、科学というものの否定であるが、こうした全地球レベルの大問題では、なんらかの権力に科学が支配される傾向があり、それに乗り遅れまいとする科学者が、その傾向に拍車をかけている。人類の科学の危機といってもよいと思われる。 
 
(か)さて、自然科学以外ではどうであろうか。社会科学、人文科学では。こういう問題はより起り易いし、起っていることは事実だが、あまり問題にされないようである。政府が問題を世に問うという姿勢で行ういわゆる「有識者会議」なるものの出席者は政府指定であり、有識者とはいわゆる御用学者が主である。結局政府の思惑通りの回答でお茶を濁すのが常である。しかし、こうしたことは、なかなか問題視されない。それは、思想や発言の自由に抵触することが多いためであろう。 
 
 一つアメリカの例を上げておく。自然科学系では、公のNSF(National Science Foundation)が、研究費の多くを供給しているが、最近は、DOD(Department of Defense=国防総省)からの研究費も増えているようである。このDODが、社会科学者向けに研究費を出している(7)。これはMinerva Initiativeと称される研究費提供組織で、2008年にDODによって始められた。NSFの研究費申請と同様に、プロポーザルを(社会科学系)大学研究者から出させ、それを審査、研究費支給となる。今年度では、12件が採用され、総計6百万ドル、以後3年間継続で合計1千7百万ドル支給されるのだそうである。このプログラムの目的は、アメリカにとって戦術上重要な地域や組織の社会/文化/人間/政治的行動についての情報をDODに提供、DODのこうした問題への理解を深めることだそうである。特にテロリズムや政治行動がどのような組織化され、拡大されるかに、DODの関心があるようである。こうした面を、大学の学者に研究させ、情報をくみ上げようとするものである。 
 
(1) http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201405141002073http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201405171452266http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201405261351081 
(2)http://blog.livedoor.jp/bbgmgt/archives/1005174340.html 
(3) 2009.12.23http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200912131511030 
 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200912231038193 
(4) http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201001140907254 
(5) http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201309091535571 
(6) http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201406281209366 
(7)http://minerva.dtic.mil/overview.html 


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