2017年02月07日03時12分掲載  無料記事
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欧州

ナショナリズムの台頭の真の原因は欧州連合本部にある ロビイ活動を監視するCorporate Europe Observatoryの ケネス・ハー氏 Kenneth Haar

 欧州でナショナリストが勢力を伸ばし、難民排斥の声が叫ばれている昨今、欧州の真の問題はそこにはないと説く人がいます。Corporate Europe ObservatoryというNGOのKenneth Haar(ケネス・ハー)氏です。ハー氏が所属するこの組織の拠点はブリュッセルにあります。Corporate Europe Observatoryというのは聞きなれない名前ですが、市民の利益のために活動しているNGOです。欧州連合本部が企業のロビイ活動に侵食されて、市民の利益よりも大企業の利益のためにルール作りがなされている、というのです。これが欧州連合の真の問題なのだ、というのです。このことを告発し、欧州市民に警鐘を鳴らす活動を行っているのがこの組織です。ではいったい、どのようなことをしているのでしょうか?この組織で金融ロビイストを専門にウォッチしているハー氏にその活動についてお聞きしました。 
 
(以下はハー氏へのインタビュー) 
 
1) You are watching financial lobbyists ,so please tell me about what the financial lobbyists do in the EU commission (and EU parliament) .  What is the real problem ? 
 
Q あなたは金融ロビイストを監視していますが、金融ロビイストは欧州委員会や欧州議会に対してどのようなことをしているのですか? 問題は何なのでしょうか? 
 
(Kenneth Haar ) 
The problem in a nut shell is this: the financial crisis revealed that EU financial regulation is insufficient at best. But it is very difficult to change, given that the financial lobby wields tremendous power in the EU institutions. 
 
  真の問題は、かいつまんで言えば、欧州金融危機は欧州連合の金融規制がまったく不十分だったことを露呈したというに尽きます。しかし、それを改革するのは非常に難しいのです、なぜなら、金融産業のロビイストが欧州連合の機関の中でとてつもない力を行使しているからなんです。 
 
There are about 1.700 people working for the financial lobby in Brussels. That's a lot of man power. They are able to influence decisions on practically all aspects of financial regulation, and their agenda is one of deregulating financial markets. Also, the people responsible for tabling proposals - in the European Commission - are very keen on consulting thoroughly and constantly with representatives of the financial sector before they table a proposal, whereas their interest in groups representing other interests in society, tend to be overlooked. 
 
  欧州連合の本部があるブリュッセルには金融産業のロビイストが1700人ほどいます。それはとても大きなマンパワーです。彼ら金融ロビイストたちは実質的に金融規制の決定に関してあらゆるレベルで影響力を行使することができます。金融ロビイストのねらいは金融市場を規制緩和することにあります。そしてまた、欧州委員会の議題を決める幹部たちは金融ロビイストたちと徹底的にそして頻繁に金融規制の案件に関して事前に相談しようとしたがります。一方、社会の中の金融産業以外の利益を代表する人たちの意見は見過ごされる傾向があるのです。 
 
2) What do you do concretely at Corporate Europe Observatory ? 
 
Q あなたは所属しているCorporate Europe Observatoryで具体的に何をしているのでしょうか? 
 
We see it as our mission to monitor the financial lobby. We keep track on them whenever there is something on the political agenda - follow their moves, and in many cases reveal their strategy. Very often our work is used by other groups that work for responsible and just regulation of financial markets. We like to see ourselves as a group providing intelligence on the political process in the EU institutions - the lobbying aspect of the political process that is not covered by the media. 
 
  私たちの組織の任務の1つはそのような金融ロビーをウォッチすることにあります。金融ロビイストが政治的な行動をとろうとする場合は彼らが何をしているかを追跡するのです。そして多くの場合、金融ロビイストの戦略を暴きます。私たちの活動の成果は非常に頻繁に他の組織によっても活用されています。金融市場に責任と公正さを備えた規制を導入することを目的とした様々な組織に成果を役立ててもらっています。私たちは欧州連合機関の政治的なプロセス =ロビイスト達が行っている政治的な行動に関して、市民にインテリジェンスを提供するグループであると思いたいのです。ロビイスト達が行っているこうした行動はメディアで報じられることはないのです。 
 
We perform that function using many different tools. Normally, you would see us fighting for access to documents from the European Commission or other EU institutions, you would see us listening in on conferences, and you would see us in a constant debate with parliamentarians and civil servants. 
 
  私たちはこの役割を果たすために様々なツールを用いています。通常、皆さんは私共が欧州委員会やその他の欧州連合の機関から文書の開示を求める闘いをしていることをお目にかかることができると思います。また、私たちが欧州連合の様々な会議に出席して傍聴していることもご覧になれるでしょう。そしてまた私たちが国会議員や官僚たちといつも議論している姿を見ることができます。 
 
3) Please tell me about the fact that EU commissioners' parachuting to big corporations. 
 
Q 欧州委員会の委員を務めた人たちが大企業に天下りしているそうですが、どのような実際のケースがあるんですか? 
 
We call that "the revolving door" - the fact that high ranking civil servants and ex-Commissioners migrate to jobs for lobby firms or for big corporations. There are loads of recent examples to this, the most prominent one being when former Commission President Jose Manuel Barroso joined the ranks of giant US investment bank Goldman Sachs. Millions of europeans saw that as a slap in the face. Imagine a man who has held one of the most powerful positions in European politics, take his experiences and networks with him to a financial corporation which has on many occasions performed its business in ways that people consider harmful to society at large. 
 
  私たちはそれを「回転ドア」と呼んでいます。つまり、欧州連合の高官たちや元欧州委員らが任期を終えた後、ロビイスト企業や大企業に就職することです。最近もそのような事例には事欠きませんよ。最も甚だしいケースはかつて欧州委員会の委員長だったジョゼ・マヌエル・バローゾがアメリカの巨大な投資銀行であるゴールドマンサックスで職を得たことです。多くの欧州人たちは横っ面を張られた思いでした。想像してみてください、欧州の政治で最も高い権力の座に位置した男が自分の経験と人脈を持って、金融企業に就職することの持つ意味を。その金融企業は過去にしばしば人々が社会全般に有害であると思うような方法でビジネスをしてきたのです。 
 (編集部注:通貨スワップという手法を使ってギリシア政府に真の債務を隠して欧州連合入りの財務基準を満たさせ加盟させた指南役がゴールドマンサックスだったことは記憶に新しい。このギリシア政府の国債が欧州連合の経済危機を呼んだのだった) 
 
4) Why this structure which gives a lot of merit to big corporations begins ? 
 
Q 大企業を利するこのような構造はなぜ作られたんでしょうか? 
 
The financial lobby and its power in the EU institutions emerge because the European Union has become the place where all main decisions regarding financial markets in the EU are taken. That was not the case some twenty years ago. As the financial sector can mobilise almost infinite resources to back up their effort, it is impossible for other interest groups to match them. Also, to most people, both the EU institutions and the world of finance are two things that are seen as remote and complicated, so the public scrutiny of decision making in this area, is tragically weak. That makes life easy for the big players on the lobby scene. 
 
  欧州の金融市場に関する主要な政策決定は欧州連合で採択される、ということになりました。そのため欧州連合の諸機関に金融ロビイ勢力が参入し、影響力を行使するようになったわけです。20年ほど前まではそうではありませんでした。しかし今では金融セクターが無尽蔵とも言える巨大なリソースを駆使して金融企業寄りの政策に変えるように試みているため、その他のグループがどれだけ抵抗しても太刀打ちできなくなっています。また、多くの人にとって、欧州連合機関も、金融の世界も縁遠くかつ複雑な世界に見えるので、金融政策の決定プロセスを精査することがほとんどできないんです。そのため巨大なプレイヤーである大企業のロビイスト達にとっては活動しやすくなっているわけです。 
 
5) Does this have something to do with Brexit or the rise of nationalists in EU nations? 
 
Q 企業のロビイ活動がBrexit(英国の欧州連合離脱)に関係しているのでしょうか?あるいは欧州連合加盟国内のナショナリズムの高まりにこのようなロビイ活動が影響を与えているのでしょうか? 
 
I would not say that the power of the financial lobby is what made people in the UK vote for Brexit. Brexit was a blow to the financial sector, and they are still terrified with the prospects of the UK leaving the European Union. Here's why: the Single Market of the EU has provided the City of London - Europe's financial centre - with a big space for expansion. Also, with the UK Government in the Council and with the lobbyists on the ground, it has had considerable influence on the rules on financial markets in Europe. With Brexit, the big financial corporations have to rethink their strategy. 
 
  私は金融ロビイの力によって英国の人々がBrexit(英国の欧州連合離脱)に賛成票を投じたとは思いません。むしろBrexitは金融セクターにとっては打撃なのです。彼らは今も英国が欧州連合から離脱することによって生じうる事態に対して恐怖を抱いています。なぜなら、欧州連合が単一市場を作ったことで、欧州の金融の中心であるロンドンのシティが飛躍するチャンスを得たわけですから。また、欧州のカウンシルにおいては英政府が、また実際の場では金融ロビイストたちが欧州の金融市場におけるルール作りに相当大きな影響力を行使してきたのです。しかし、Brexitによって、巨大な金融企業は戦略の見直しを迫られています。 
 
To many people in Europe, this blow to the financial sector, represents an opportunity. Some of the most dangerous projects of the financial sector, are less likely to become a reality. But in the UK, it is less likely to be felt. There, the financial sector has more influence than in any other country in Europe. 
 
  多くの欧州市民にとって、金融セクターへのこの打撃はよい機会を与えるものです。というのも金融セクターにおけるいくつかの致命的な企てが実現する可能性がこれで弱まったからです。しかし、こと英国においてはあまりそうは受け取られていないようです。英国においては金融セクターは欧州の他のどの国よりも強い影響力を持っているのです。 
 
As for the rise of European nationalism as a whole, I believe the way the EU institutions work, including the way that the interests of financial corporations and non-financial corporations, very often take priority, does mean that many people turn their back on the EU completely. Sadly, many fall prey to the rhetoric of nationalist movements that blame foreigners for all ills, and who have no solution to the social problems of millions of Europeans. 
 
  欧州で今、盛んになっているナショナリズムは一概に欧州連合の政治機関のあり方に根本原因があると私は見ています。金融機関の利益であれ金融機関以外の諸産業の利益であれ、市民の利益よりこれらが優先されてきたことが欧州連合の大きな問題なのです。欧州市民の多くが欧州連合を完全に拒否する理由はここにあります。しかしながら、悲しむべきことは多くの人々が<すべての問題は外国人にある>と言うナショナリズム運動のレトリックを鵜呑みにしていることです。しかし、こうしたナショナリストは欧州の何百万もの人々の社会問題を解決する策など持ち合わせていないのです。 
 
 
Kenneth Haar ケネス・ハー 
Corporate Europe Observatory (Researcher) 
(金融担当) 
https://corporateeurope.org/ 
 
 ※(編集部注)Corporate Europe Observatory 
 
  ブリュッセルに本部のあるCorporate Europe Observatoryには現在、15人の専従職員がいて産業ロビイストの監視・分析活動を行っている。金融ロビイストだけでなく、環境分野や食品分野、農業分野など様々な産業分野で欧州委員会や欧州議会などに対する産業ロビイストの活動が近年目立ってきている。遺伝子組み換え種子に対する規制緩和を求める活動もそうである。ロビイストの活動は主に欧州連合の産業規制を緩和することにある。ロビイストは欧州委員に頻繁に接触したり、欧州連合本部で頻繁に説明会を開いたり資料を配布したりして巨額を費やして広報活動を行っている。だが、こうした活動はほとんどメディアで取り上げられることがない(というのも多くのメディア企業の株主や経営者、スポンサーが産業界であるため)。そこでジャーナリズムができない調査・監視活動をCorporate Europe Observatoryが行っている。この組織の活動は寄附で賄われている。個人の寄附と同時に、欧州の様々な民主主義を守る活動をしているNGOなどが寄附をして支えているのだ。 
  日本のメディアでも欧州同様に産業ロビイ活動が表に取り上げられるケースはほとんどない。しかし、現実には産業ロビイストはTPPやTTIPなど自由貿易協定の推進で動いている。メディアの目の届かないところで産業界はロビイストたちを使って陰で巨大な政治力を行使しているのである。欧州における規制を決める欧州委員会の委員たちは選挙で選ばれるわけではないにもかかわらず、欧州議員よりもはるかに大きな政治力を有しているという。そして欧州委員会の委員たちの多くが退官後に大企業に天下っている実態がある。 
 
 
Interview 
Ryota Murakami 
村上良太 
 
 
■英Brexit国民投票の裏に英政府=シティ金融勢力の欧州連合「改革」の野望があった  Corporate Europe Observatory  Kenneth Haar (ケネス・ハー) #2 
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■ブルデューの死から10年 〜欧州を改造した知的傭兵部隊〜 
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