2019年02月11日19時06分掲載  無料記事
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政治

国会パブリックビューイングを見に行く  その2 〜国会を市民に『見せる』(可視化)から、市民が国会を『見る』(監視)に〜

  前回、国会審議の記録映像を公衆の場で上映する「国会パブリックビューイング(国会PV)」についての記事を書いた。実際に国会PVが行われている現場を訪れて、国会審議の映像を見ながらその脇で解説してくださった法政大の上西充子教授や全労連の伊藤圭一氏の話を聞いて速攻で記事にまとめたところ、通常の4〜5倍のアクセスがあった。多くの人がこの運動に関心を寄せているのが感じられた。 
 
※国会パブリックビューイングの録画 
(2月6日 新宿駅西口地下 テーマは「政府統計不正問題」) 
 https://www.youtube.com/watch?v=8lU8GdVDLSU 
 上西教授によると「国会PVは、国会を市民に『見せる』(可視化)から、市民が国会を『見る』(監視)に進化しつつあると思っています」ということだそうだ。前回の記事でも少し監視のことには触れた。しかし、「国会を市民に『見せる』(可視化)から、市民が国会を『見る』(監視)に進化しつつある」とは具体的にはどういうことなのだろう。これは国会PVを続けてきた上西先生の経験から生まれた思いに違いない。上西教授にそのあたりを尋ねると、「国会PVの最初は、2018 年6月15日、新橋SL広場です。国会PVのアカウントも私のアカウントもtwilogがありますので、当時の様子をご覧いただけます。見てもらいたかったのは、高プロをめぐる国会審議です。」との返信が返ってきた。 
 
  実際に6月の時点に今からツイッターを遡ろうとするとかなり大変だった。京都、大阪、東京・・・各地でこんなに地道に国会PVはすでに行われていたのか、という驚きだった。使用機材の購入の経緯や資金集め、あるいはスタッフの募集などなど、時々のことが書かれており、国会PVがコツコツ進化・発展してきたことがわかった。 
 
  上西充子教授と言えば昨年の今時分、裁量労働制導入に向けて厚生労働省が国会に提出したデータが事実と逆で、非常におかしなデータだったことを追及した労働問題の専門家である。裁量労働制の厚労省の不正データの問題と、今回の厚労省の「毎月勤労統計」の算出基準の急な変更は、ともに根が1つであるらしい。とはいえ、国会PVではその他のイシューも取り上げてきたという。たとえば国会PVでは入管法の問題も扱ったのだそうだ。 
 
  そこで最初の質問に立ち返ると、上西教授の言葉〜「国会PVは、国会を市民に『見せる』(可視化)から、市民が国会を『見る』(監視)に進化しつつあると思っています」〜はそうした経験の中から自然に生まれてきたものであり、その発想の流れについてツイッターで先日、集中してつづったということでここにそれらを集めて、まとめてみた。 
 
  上西充子氏のツイッターから。 
 
●「『メディアはメッセージだ』という言葉を、私は横川さん経由で知って、新しいメディアが、新しいものの見方や、新しい考え方や、新しい関係性を開く、ということなのだろうと思っている。国会パブリックビューイングという新しいメディアを共に開拓しながら。」 
 
 (編集部注:横川さんとは国会パブリックビューイングのメンバーである横川圭希さんです) 
 
●「ある言葉が生まれて、初めてその言葉によって表現されるものが認知されていくように(セクハラ、DV、ネグレクト、等)、新しい表現手段は、それまでなかった関係性を生み出す。このツイッターもそう。新しい関係性を生み出すとともに、自分の行動や考え方も変えていく。」 
 
●「昨年6月15日に初めて街頭上映をした時には、とにかくこの国会審議を見てくれ、という思いだけだった。テレビが報じないこの実情を見てくれ、と。『可視化』は考えていたが、街頭上映による『監視』という発想はなかった。」 
 
●「街頭上映による『監視』という考え方は、実際の街頭上映に人が集まり、その様子がツイッターや新聞などで報じられることで、新たに生まれてきた考え方だ。それによって、『可視化』の意味も変わっていく。『国会審議の可視化』に加え、『見ているぞ、という状況の可視化』という意味が加わっていく。」 
 
●「それは、実際に街頭上映に集まってくれる人がいて、初めて生まれてきた新たな『意味』だ。国会パブリックビューイングを大勢で見る、という街中の政治空間も、この媒体があって初めて生まれたものだ。」 
 
●「すでにネットで見た内容だけれど、実際の国会パブリックビューイングを見てみたかったと来てくれる人は、国会審議というコンテンツだけではないものをそこに求めて、足を運んでくれている。」 
 
●「『国会パブリックビューイング』という言葉の含意も、そういう政治空間が生み出されることによって、少しずつ豊かになってきている。みんなに見せる、から、みんなで見る、へと。」 
 
●「そうやって意味が変わってくると、最適な表現形式も、変わってくるように思う。」 
 
●「6月当初に私が映像の横で解説をしたのは、もっぱら現実的な制約からだった。その後は、より抵抗感なく映像を見てもらえるように、解説付きの番組を制作して、人が立たずに映像だけを見せるようにした。従来の街宣との違いを意識した。『引き算』だ。」 
 
●「無人上映のほとんどに私は参加したが、出来るだけ存在感を消して、後ろの方でじっと見ていた。」 
 
●「その後、入管法の問題を取り上げることになり、再び6月15日のように、切り取った映像とともに、スクリーンの横で生解説をするようになった。そのスタイルは、緊急性ゆえの制約による。けれど、タイムリーな話題なので、人が集まった。」 
 
●「そして、国会パブリックビューイングの取り組みを応援してくれる人が送ってくれた柿の種を、『食べながら見る』『種を蒔く』というコンセプトとともに街頭上映のアイテムに位置付けていくと、柿の種を食べながら一緒に見る、という行為にも『意味』が付与されていくようになった。」 
 
●「統計不正の問題も入管法と同様に、パワポの説明資料と映像を組み合わせる形で生解説で実施したら、寒い季節にもかかわらず、入管法の時よりさらに多くの人が集まった。募金箱を二箇所に置き、上映後にDVDの案内をして募金の呼びかけもしたら、DVDを手にとって募金してくれる人が大勢出てきた。」 
 
●「仮に時間がたっぷりとれて、番組として事前収録ができて、それを従来のように無人上映したら、同じだけの人が集まるだろうか。あるいは、今日公開した、昨日の様子の編集画像を無人上映してみたらどうだろう。多分、このタイミングでこの話題だと、生解説の方が良かったのだと思う。」 
 
●「じゃあ、もう番組を作るより生解説の方がいいのかというと、必ずしもそうではないのだと思う。例えば郊外の駅前だったら、生解説よりも昨日の様子を無人上映した方が見てくれそうな気がする。」 
 
●「つまり、国会パブリックビューイングという新しいメディアが、人を集め、その人たちが国会PVに新しい意味を付与し、国会PVの表現形態や意味合いも変えていく。そういう相互作用が、生み出されてきているということ。」 
 
●「街頭上映が『情報提供』の意味合いとともに『国会監視』の意味を持つには、それを見る人が必要。だから、『国会監視』という意味合いは、国会PVというメディアが生み出した関係性によって新たにそのメディアに付与された意味。」 
 
●「そして『国会監視』という意味合いでの国会PVが意味を高めていくと、それは国会審議に影響を与えうるようになる。」 
 
●「昨日、小川淳也議員の国会質疑を街頭上映して、小川議員の質疑に拍手が起き、できれば小川議員のツイッターにフィードバックを送ってほしいと集まった方々にお願いした。多くの方が、国会PVで質疑を見た、と小川議員にフィードバックを送ってくれた。」 
 
●「私にはわかる。そういう肯定的なフィードバックが、どれほどその人の力になるかを。それはきっと、小川議員の、立憲民主党の、あるいは野党の、質疑にプラスの影響を与える。つまり国会PVは、国会監視の役割も、国会質疑の応援の役割も果たしうる。」 
 
●「横川さんは国会PVが今やっていることは何なのか、自分でも腑に落ちないと語っていて、それは国会パブリックビューイングという新しいメディアが、新しい変化を起こし続けている最中だからなのだと思う。」 
 
●「新しい表現形態が生まれて、初めて生み出されるものがある。」 
 
 
 
  上西氏のツイッターの流れを読むと、欧米のテキストを日本に無理やり当てはめる式のこれまでありがちな構図ではなく、国会PVが日本の民衆の自発性で生まれてきた自前の運動であることがわかる。理屈先行ではなく、スタッフも含め、場に集まってくる人々との関係性の中で手探りで発展しているのだと思えた。だからだろうか、「柿の種」のことが触れられているけれど、実際に現場に行ってみて、一見新しい試みのように見えて、どこか古来から行われてきた懐かしい営みのような気がした。 
 
 
※最初の国会PVの試み 2018年6月15日 東京・新橋駅前 
https://www.youtube.com/watch?v=PZdU-6foOds&feature=youtu.be 
 
 
村上良太 
 
 
※上西充子「データ比較問題からみた政策決定プロセスのゆがみ:裁量労働制の拡大は撤回を(公述人意見陳述)」 
https://news.yahoo.co.jp/byline/uenishimitsuko/20180221-00081859/ 
 
※上西充子 「欺瞞に満ちた「働き方改革」。労働時間規制を撤廃する高プロ導入は認められない( #0317アルタ前 )」 
https://news.yahoo.co.jp/byline/uenishimitsuko/20180317-00082829/ 
 
 
■国会パブリックビューイングを見に行く 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201902062355103 
 
■国会パブリックビューイングを見に行く 3  政府統計不正問題 緊急街頭上映(新宿駅西口地下) 2019年2月16日 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201902192219212 


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