2023年01月21日13時55分掲載  無料記事
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人類の当面する基本問題

(50)人類は自滅の危機に瀕している (II) 原発使用を諦めきれない 落合栄一郎

 広島・長崎での眼に見える原爆による破壊は、世界中の人々に印象づけられた。爆発時の高放射線による死者は観察されたが、外傷もない、外部からの強烈な放射線による内部組織の破壊であった。原爆爆発時に放出された放射性物質(死の灰)からの放射線による内部被ばくという目に見えない、肌に感じられないし、直ちには現れない影響を受けた人々は、後々まで、深刻な健康への影響に苦しんだが、多くの人には見えなかった。いや、米国が行った原爆後の調査から得たそうした内部被ばくの健康への影響の事実・データは長い間隠蔽されていた(注1)。 
 
(A)原発の発祥・開発:放射線の影響は無視 
 
 米国での原爆の開発に伴い、人類の常として、その技術を一般社会へも用いて利益を得ようとする人々がいた。まずは、核分裂反応を制御下に置き、発生した熱エネルギーを電力に変換する機器を、米海軍の潜水艦に応用した。ここまでは、核の軍事利用。それと殆ど同じ原理で、人間社会に電力を供給する施設=原発を開発した。その開発では、軍事使用の悪が、特に日本人の意識から薄れるように、「核の平和利用」が強調さ れた(注2)。そして、やがては、狭い日本に50数基の原子炉が設立されてしまった。 
 この原発建設の過程では、利益とされる部分、すなわち発電のための原料があまり要らず、安く、安全に電力を供給できるという宣伝のみが強調され、原発稼動によってできる放射性物質の問題点、すなわち健康への影響や、安全保管が困難などの、困った問題点は無視された。そのために、放射線被ばくの影響は、原発開発・増加の過程で大多数の人の意識には入らなかった。もちろん、放射線の影響その他の原発の問題点を意識して、原発設置を拒否した地域もあったが、多くの設置地域は、経済的恩恵などを理由に歓迎した。 
 
(B) 様々な場での放射線被ばくの影響 
 
 放射性物質を扱う場所では、放射線が発生し、それが漏れ出る可能性はどこにでもある。放射線を完全に封じ込むことは、非常に難しい。どのような場所・状況で放射線被ばくが見られているのであろうか。そうした場所には、ウラン鉱山、ウラン鉱石の処理場、ウランの濃縮工場、原爆製造工場、原爆テストサイトとその周辺(特に風下)、原発用の燃料棒製作所、原子炉(原発)の正常運転下、原子炉の事故周辺(かなり広範囲)。こうした場面での様々な被ばく影響の詳細は、小著「放射線被ばくの全体像」(注3)を参照されたい。その幾つかを簡単に見てみる。 
 ウラン鉱山従業者には、肺ガン患者が多かった。原爆製造工場の典型であった米国ワシントン州のハンフォード工場の従業員、そして(風下の)周辺住民へ深刻な健康障害が多数発生。アメリカ・ネバダ州の原爆テストは、10年に渡って100回ほどの空中爆発テストが行われ、それからの死の灰は、東側の風下へ大量に拡散した。実際西海岸を除いてアメリカ全土にも拡散した。その影響は特に隣のユタ州西部の住民の多くに健康障害を起こした。原発その他の核施設の事故は、実はかなり頻繁に起こっているのだが、かなりの規模の事故以外はあまり知られていない。いや、かなり深刻な事故でさえ、十分に調査は行われず、行われても、データは隠蔽されるケースが多い。大きな事故には、アメリカ・スリーマイルアイランド事故(1979年)、チェルノブイリ事故(1986年)、そして日本の福島原発事故 (2011年) が主なものである。 
 実は、筆者はスリーマイル原発の西150kmのところにある大学で、事故2年後から4半世紀を過ごした。またチェルノブイリ事故の3年後には、事故のプリュームが通ったとされるスウェーデン北部の大学に半年ほど滞在した。というわけで、原発事故の問題には関心が向くべきであったのだが、福島事故が起こるまではあまり関心がなかった。福島事故に、放射線被ばく問題の深刻さを突きつけられた。そして、10年ほどの間に、「原爆と原発」(鹿砦社、2012)から始まって、4冊の日本語の著、2冊の英語の著を書くことになった。 
 福島事故の影響に関心のある日本の方は、かなりおられて、原発忖度の政府・司法との戦いや、政府側のニセ科学の暴露などに努力している。しかし、その数は、日本全体の人口のわずかな部分(おそらく数%)に過ぎないであろう。大多数は無関心なのである。 
 
(C) 福島事故による放射線被ばく障害:権力者側による否定 
 
 放射線被ばく障害の事実、特に福島の子供達の間に多発している甲状腺ガンを、原発利用側(企業、それに支配されている官僚、政治家、依存している県政権者、科学者、大学など)は、隠蔽しようと懸命である。その背景には、地球上の原発を擁護する組織であるIAEA (International Atomic Energy Association), ICRP (International Commission on Radiation Protection), それに国連の機関を装うUNSCEAR (United Nation Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation)などがある。それらは、科学を装ったニセ研究データなどを学術雑誌などにまで発表していて、日本政府、福島県側はそれを根拠に、甲状腺ガンは、福島原発事故とは関係ないと否定し続けている。いずれは、こうした非科学的主張は葬られるであろうが、それまでは放射線被ばくの深刻さに無関心な多くの人には、福島原発事故による健康障害はあまり問題ないという政権側の言い分を信じさせてしまうであろう。その上、権力側は、子供たちに「放射線安心論」を植え付けるべく、努力もしている。子供から洗脳しようというわけである。 
 チェルノブイリ事故後の小児甲状腺ガン(と白血病)が事故から放出された放射性物質からの放射線によることは、上に述べた原発擁護組織も公式に承認した。それにも拘らず、今回の福島での小に甲状腺ガン多発は放射線と無関係という日本政府側の主張を後押ししている。なぜか、おそらく、チェルノブイリ事故での健康障害が放射線被ばくによることを認めたことを悔いているのであろう。そして、福島事故に関しては、放射線による健康障害の存在をなんとか、“無きもの”と世間に認めさせようとしている。 
 このような原発推進側の努力は、人々が「放射線の悪」に気がつかないように、洗脳しようとすることである。なぜか? 放射線の悪を、人民多数ばかりか、原因を作り出している側自身が認めると、そうした悪を大量に作り出す原発をどうしていつまで持つことにこだわるのか追求されるであろう。本当はあってはならないものとなり、廃棄せざるをえないからである。 
 実は、福島原発事故からの放射性物質放出の影響は、子供たちの 甲状腺ガンばかりではなく、多くの人たちに様々な影響を及ぼしているのだが、そうした影響を検証しようとする動きもなく、したがって、あの事故以来、こんな変なことが起こるようになったよ、という印象に過ぎないケースが多い。最も人々の関心を集めたのが、事故後に多くの子供達(ばかりではないが)に鼻血が出たという現象で、政府側も論争(鼻血論争と言われる)に加わり、事故との関連(放射線による鼻血の可能性)を懸命に否定した(注4)。また福島ばかりではないが、周辺地方で、大人にもガンにかかる人が増えている。原発事故後、歌舞伎の若手役者が次々に急死するケースもあった。脳への影響と思われる現象として、アルツハイマー病死の2011年からの急増(注5)、電車運転士やタクシー運転士の誤動作によると思われる事故が増えたなどなど、データはあるが、やはり福島事故との関連を検証することは今のところできない。動植物への影響も観察されている。これらの概略は、筆者の著「放射線被ばくの全体像」(注3)の17章を参照されたい。 
 
(D) 正常運転下の原発からの放射性物質排出 
 
 運転中の原子炉内では、大量の放射性物質ができる。どのぐらいかというと、通常規模の原子炉の1年間の運転で1年間にできる放射性物質量は、広島原爆で出来た量のxxx倍である。できる放射性物質には、気体状のものがある。トリチウム (T2/THO)、キセノン (Xe-133)、クリプトン (Kr-85)とかヨード(I2の形で、I-129, I-131など)など。こうした気体は原子炉内の圧力を高め、危険なので、時々炉外に放出(ヴェント)する必要がある。即ち、正常に運転しても、時々放射性物質を(故意に)放出しているのである。ヴェントの際には、放出気体は、水を潜って、水に溶けるようなものは取り除いて出ていくのであるが、水しぶきなども出ていき、それにはセシウム (Cs-134/137)なども含まれていて、少量だが、一緒に出てしまう。原子炉は、水と深く関わり、炉で発生した熱で、水を蒸気にし、発電機を回すが、この過程で、こうした水は放射線を浴びる過程もあり、放射性を帯びる。この水は冷却されて繰り返し使われるが、冷却水は、外部から取り入れられて、冷却に使われて温められて排出される。 
 原発の構造は複雑で、炉を中心に、多数の配管や弁がある。古くなると、そうした部分が腐食し、放射性物質を含む水が漏出する。というわけで、原子炉は事故を起こさずとも、大気中へ、そして地下水などを通じて、環境に放射性物質を常に出している。 
 こうした放射性物質、特にトリチウムが健康障害の原因と考えられる現象に、まずドイツの全原子炉周辺5km以内に住む子供たちが白血病になる率が、それより遠方に住む子供たちの3倍以上であるという研究結果がある(注6)。その後、フランス、イギリスなどでも、同様な現象を示すデータも発表された。これが、通常運転下の原発の放射性物質放出の証拠である。他に証拠はあるが、小著「放射線被ばくの全体像」の第5章を参照されたい。 
 
(E) 核の平和利用たる原発の兵器化 
 
 原発の主要部分(原子炉)では、原爆と同じ核反応(核分裂)が起こっている。ただ、原爆では、その核分裂反応を制御せず、一気に反応を爆発的に起こさせる。一方、原発では、同じ核分裂反応ではあるが、暴走しないように制御(核分裂反応が連鎖反応的に起こり始める条件を臨界条件と言い、臨界を越さないように)しながら、分裂反応から生じるエネルギーを電力に変換している。これは、ウラン-235(またはプルトニウム-239)を含む燃料棒で起こるのだが、暴走しないようにするためには燃料棒の間に連鎖反応の原因である中性子を捕捉する制御棒が入れられる。その位置を加減して、核分裂反応を制御している。そして、炉の中には、分裂反応の結果できる大量の放射性物質が堆積する。 
 このような原子炉の構造から想像できることは、核分裂反応を制御するのはなかなか困難で、運転法を誤ると、爆発を招きかねない。実は、チェルノブイリ原発事故は、運転制御を検査するテストの段階で、操作を誤り、臨界状態になり、爆発し始めた。そこで、大量の水を加えて冷却しようとしたのだが、水蒸気爆発を起こし、冷却材であった黒鉛(グラファイト)に火がつき、大火災になった。そうした状況で、炉内にあった大量の放射性物質が排出、広大な地域に拡散してしまったのである。 
 このことから想像できることは、原子炉をミサイルなどで攻撃し、炉や、使用済み燃料棒(放射性物質満載)などを破壊すれば、かなり広範囲に放射性物質を撒き散らし、多数の人々に危害を加えるであろう。平和利用である原発が、核爆発に等しい被害を及ぼすのである。昨年(2022年)ウクライナ闘争で、ヨーロッパ最大の原発であるザポロジアを早い段階で、ロシアが占拠・保護し、ウクライナ作業員と共に稼働を続けていた。これは、原発が攻撃の対象になる危険をあらかじめ差し押さえるためであった。ところが、2022年9月ごろから、この原発に弾丸が撃ち込まれるようになった。そしてウクライナと背後のNATO/USなどは、ロシアがやっていると非難し続けた。IAEAの代表者数人が、原発を査察し、攻撃されたことは認めたが、攻撃側がウクライナかロシアかに関しては、口を噤んでいた。ウクライナ側は、その後も、原発とその周辺の攻撃を続け、原発が危険と見せかけた。実際、原発が攻撃で崩壊などしたら大変であることは、チェルノブイリ事故の経験から理解しているはずだから、実際は破壊する規模の攻撃はしないであろう。なぜそうするか。この危険を強調して、国連を勧誘して、安全性のためにロシアは、原発から撤退し、周辺を安全地帯にするよう仕向けることであった。国連では、この件に関してロシアを非難し、撤退するよう勧告する決議案は可決された。ロシアは、安全性確保のために撤退はしなかった。しかし、ウクライナ側はその後も原発への攻撃を続け、ついに、ザポロジア原発の6基の原子炉全てが停止せざるをえなくなった(戦争突発時には、6基のうち4基が稼働していた)。 
 日本全国には50基を越す原子炉があり、戦争を起こせば、早速、ミサイル攻撃で、破壊され、日本のような小さい国土では、人が住む所がなくなる可能性がある。 
 
(F) 原子炉の長期運用の危険性 
 
 以上の記述で、原発の危険性の基本は放射線にあることを理解していただけたと思うが、なぜそうなのかという基本問題はまだ説明していない。なぜか?それは地球上のあらゆる物質(人間、森林、自動車などなど)全てが、化合物でできていることと、一方放射線は、核反応から生じるというところに原因がある。 
 何が違うか?少しだけ科学を。物質は原子でできている。原子は、真ん中に(原子)核があり、その周りを電子が回っている。地球上の物質は、原子と原子を繋げてできているが、それは、核にある陽電荷と陰電荷を持つ電子との間の電磁気力によってできている。原子核は、陽電荷を持つ陽子と電荷のない中性子が微小な空間に詰め込まれているもので、これを結び付けている力は、核力と呼ばれて、電磁気力より、べらぼうに強いのである(およそ百万倍)。こうした核が破壊されて(核崩壊)できる放射線は、したがって非常に強い力(エネルギー)を持っている。ので、それが、物質に当たると、原子と原子を結ぶ結合(電磁気力)を破壊、電子を弾き出す。即ち、物質を構成する化合物を破壊。人間の体を作っているタンパク質とかDNAなどの結合は非常にやわなので、放射線で簡単に破壊される。これが、放射線被ばくの根本。化合物である物質には、それを防御する手立てはない。 
 原子炉を作っている金属(鉄が主体)でも、鉄原子と鉄原子を結び付けている力も電磁気力なので、放射線が当たると壊される。原子炉は大量の放射線に晒されていて、金属が徐々に原子間の結合が破壊されて、脆弱になる。この現象は防ぎようがない。また、配管や弁など多数ある所も、放射線および水により腐食する。こういうことも考慮して、原発は通常40年の運転後は、廃炉することになっている。電力会社は、建設時から、そのための費用を作っておく義務がある。 
 ところが、近年になって、多くの原発が40年オールド超え、40年を超えても稼働するようになってきた。いい加減な、制約解除である。電力会社としては、折角あるものは、できるだけ動かして、利益を得ようとするのではあろう。 
 特に、地震国である日本の原発は、原子炉を含む原発の脆弱化ばかりでなく、地震による事故の可能性が増大している。非常に危険である原因の一つには、日本の原発の耐震性が設計時から非常に貧弱である事実がある。恐ろしいことには、現存の原発の耐震性は、通常の住宅のそれより格段に低いのだそうである (注7)。そのうえ、断層の上に立地している原発もある。福島事故では、津波が原因と強調されているが、実際は、地震による初期の電源停止、建物の破壊などが最初の原因であったことは、無視されている、いや隠蔽されている。おそらく、原発擁護側にとっては、これからの可能性の高い地震の影響の方には目を向けさせないようにしたいのであろう。日本の原発はなるべく早く廃炉にして、危険性の少ない状態に持って行かなければならない。老朽化した原発の危険性は、日本だけの問題ではないが、日本は特に注意が必要である。 
 
 
(G) 放射性廃棄物の長期保全の困難 
 
 放射性物質、特に使用済みの燃料棒のように大量の放射性物質を含有する高放射性廃棄物をどこにどう保全するかが大問題である。このような廃棄物は、10万年ぐらい強烈な放射線を出し続けるのである。人類がそんなに長く生存するかどうかもわからないぐらいの長期間の問題なのである(現ホモサピエンスは約20万年前に誕生)。いい加減なやり方では、将来の人類(我々の孫やひ孫、そしてその先々)に大変な迷惑をかけかねない。 
 現在、各国で慎重に検討しているが、アメリカ、ドイツですら十分適当な場所を見つけられていない。各国のこうした動きは、注8のサイトで見られる。現在のところ、唯一の本格的な場所は、フィンランドの南西部沿岸にあるオルキルオト島というところにあり、地下400~450mに設置。そこに5本の処分坑道が設けられ、180本の処分孔(高エネルギー廃棄物を固めたものを入れ込む所)ができる。その5本の坑道の掘削が2022年6月に終わった(注9)。ただ、この島にある原発の大型3号基は現在、故障で、運転できない状態にある。 
 日本には、地層が数百万年ぐらい安定しているような場所はなかなかないであろう。こんな日本に、ますます廃棄物を増やす原発再稼働、新設などをどうしてやるのであろう。 
 
(H) 原発継続の必要性? 軍事目的、気候変動との関連その他 
 
 以上の記述からは、原発はこの地球上にあってはならないものであるという結論になるはずだが、地球上には400基以上の原発が既にあり、新設する努力もいくつかの国(日本でも)で行われている。その一つの言い分は、新しい形式、小型化などで安全性が改善するというものである。ただし、根本問題は解決できない。それは、核分裂により大量の放射性物質を作り出すこと、その排出は不可避であること、廃棄物をどう安全に保存するかという問題は解決されていない。 
 ところで、現在の日本では運転が許可されて操業可能の原子炉が10基(関西電力5基、四国電力1基、九州電力4基)あり、運転しているのは、7〜9基ほどである。原発は日本では絶対に必要なのであろうか。よく知られているように、福島事故後2年間も、原発稼働ゼロであった。しかし、電力不足による停電などは一度もなかった。即ち、日本では、原発は必要不可欠ではない。ところが最近、日本政府は、GX (グリーントランスフォーメイション)なる原発再稼働・新設なる政策を国民・議会との検討(パブコメという装いはあるが)を十分に行わずに実施しようとしている(注10)。非常に危険である。本日(2023.01.19)の東京新聞に「国民的議論なき原発推進は見直しを」という提言を若者の団体がし始めたという記事を目にした。望ましい動きであり、多くの市民が参加すべきであろう。 
 多くの国で原発保有に拘る理由が、原発稼働により出来る核兵器原料(プルトニウム)と核利用に関連する様々な技術の確保でないかと、密かに考えられている。日本政府も、戦後ずっとそうした意図を持ち続けているようである。 
 最近では、原発の必要性が、気候変動対策として有効と主張されるようになってきた。気候変動阻止を主張する側は、気候変動を抑えるためには、人為的2酸化炭素 (CO2) 排出をゼロにする必要がある。そのためには、現在の化石炭素燃料による電力は廃棄し、CO2を排出しない原発が良いと多くの人は思い込まされている。もちろん、太陽光・風力発電などの再生可能エネルギー源による電力が、当然ながら推奨はされてはいる。気候変動運動の基本の考えであるCO2その他の温室効果ガスが気候変動の主な原因であるという議論そのものにも議論の余地があるが、それは別の機会に検討する。 
 原発が、気候変動の原動力とされる温暖化の阻止に本当に有効かどうかを見てみたい。まず、原発はCO2を排出しないというのは、正しくない。確かに原子炉からはCO2は出てこないが、ウラン発掘から原子炉建設、発電操作、原発の後処理その他の全工程を考慮すると、必要エネルギーはかなりの量のCO2発生に相当する。ある資料によれば、電力キロワット時 (kWh) を作るにあたり、必要なエネルギーは約180gのCO2発生に相当し、化石燃料の場合の1000gよりかなり少ないが、太陽光、風力発電発電などの20-90gと比べるとかなり高い。 
 次に、原発は実は環境温暖装置なのである。というのは、原子炉の中での核分裂で出来る熱量の3分の1しか電力エネルギーに変換できないのである。したがって、残りの3分の2は、環境に放出、環境を温める。原子炉は、海水とか河川水を取り入れて、冷やす。その冷却水は温められて、海、川に返される。九州の川内原発の例では、1秒あたり約100トンの海水を吸入し、原子炉を冷却、7−8度温められて、海水に戻される。1日に9百万トン。海水が長年にわたって温められたため、魚の死骸が近辺の海岸に打ち上げられることがよくあり、近海に熱帯魚も増えたそうである(注11)。 
 冷却水の温度が上昇すると原発の発電効率は下がる。ヨーロッパでの酷暑で、フランスやスウェーデンの原発が運転停止に追い込まれたことがある。 
 原発稼働に必要費用として、安全性確保その他(後処理など)の必需費用を加算すると、原発の電力は高価になり、市民にも企業側にも経済的には非常に不利である。現在のやり方は、企業側の損失部分は、国民から取り上げた税を使って、政府側が援助するという、やはり国民からの搾取である。 
 最後によく、「原発はクリーンエネルギー」と言われるが、これまでの記述から、原発は、実は最もダーテイーなエネルギー源であることがわかっていただけでしょうか (注12も参照)。何しろ、生命(人類)は、原発が作り出す放射線とは共存できないのですから。しかし、この作用は微妙で、我々の感覚では知ることができないので、どうしても無視されがちではある。既に、地球上のかなり広範囲にばらまかれている(福島事故ばかりでなく)ので、その微量な放射性物質を取り込む可能性は、誰でもゼロではない。だから、こんな危険なものをこれ以上増やしてはいけないのである。 
 最後にもう一つ。2022年2月に始まったウクライナ闘争で、西側は、ロシアに経済制裁を加えていて、ドイツなどの西欧諸国では、エネルギー不足が深刻になっている。チェルノブイリ事故の深刻さを経験、福島事故を目撃したドイツでは、2022年末までに原発全廃を意図していたが、ウクライナ問題によるエネルギー不足をなんとか補足したいと、石炭電力を復活、原発の廃炉を送らせているようである。フランスも原発縮小を意図していたが、それを遅らせるようであるし、新設も考慮している。非常に困った情勢である。 
 
 
(注1)NHKスペシャル2021.08.09「原発初動調査:隠された真実」   https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/pneAjJR3gn/bp/pGrz5p1yMG/;https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/pneAjJR3gn/bp/pbWlL6vl7n/ 
(注2)1953.12.08 米国大統領アイゼンハウアーの国連での演説 
(注3)落合栄一郎著「放射線被ばくの全体像:人類は核と共存できない」 
    (明石書店、2022) 
(注4)http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201405141002073 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201405171452266 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201405261351081 
(注5)http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201712251202041 
(注6)Kaatsch P, Spix C, Schulze-Rath R, et al, Leukaemia in young children living in the vicinity of German nuclear power plants, Int J Cancer, 1220, 721-726 (2008) 
(注7)http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/290370 
(注8)http://www2.rwmc.or.jp/start 
(注9)https://www2.rwmc.or.jp/nf/?p=30176 
(注10)https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/473051.html  
(注11)http://hunter-investigate.jp/news/2012/03/post-179.html; 
https://www.data-max.co.jp/2010/05/post_9946.html 
(注12)http://vsa9.blogspot.com/2022/07/2022.html 


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