2023年10月12日01時13分掲載  無料記事
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検証・メディア

テレビにおける啓蒙と野蛮 〜テレビ改造論その2〜 地上波に地方自治の枠を作る 

 テレビ改造論1で、現行のチャンネルを抜本的に改め、多数の社会運動を行うグループやNPOなどに時間ごとに託すことを提案しました。その中に、どうしても必要なものが地方自治を専門に伝える番組でしょう。つまりは、自分の暮らす街の問題を伝えると同時に、その解説を考えるためのものです。 
 
  地方自治は民主主義の基本だと習ったことがありますが、そのような実感を私自身は持ったことがなかったばかりか、地方議会すら足を運んだことがありませんでした。これは私の怠慢ゆえですが、しかし、同時に地方自治についてあまりにも知る機会がないことも原因をなしていると思います。と言っても、地方議会にカメラを据えるだけではなく、地域における問題や課題を常日頃から地上波でも取材して放送しておこうというものです。老朽化するインフラとか、学校の問題(いじめや教師の日常など)、商店街の活性化や野生動物との関係などなど、課題は地域によってさまざまでしょう。社会学的に言えば、都市は産業の変遷とともに変化していくものです。そして、その結果、様々なテーマも生まれます。地方の限界村落の問題もあれば、空き家の問題もあり、首都圏のような過密の問題もあります。外国人労働者との共生の問題もありますし、再生可能エネルギーの開発の問題などもあります。そして、地方議員選挙や首長の選挙の際だけでなく、通常から地方議員や候補者、様々な人を交えた討論会を繰り返して、関心を高め、政治参加を促していくことです。 
 
  何度も書いていますが、テレビが疎外を引き起こしている理由がテレビ画面の中の世界が上、画面のこちら側で見ている自分たちが下、みたいな中の人〜視聴者の序列関係に陥ることです。しかし、地方自治は自分の街の問題であり、それを扱うことで視聴する人々がテレビ=マスメディアの主体(作り手や登場者など)となる回路が生まれます。遠い町で制作される全国一律な番組はもっと少なくてよいのです。国全体のテーマであっても、その多くが地方に問題を落とし込んだり、地方で論じたりすることが可能です。討論会も都心で特権的な常連が出てくる『朝まで生テレビ』のような娯楽番組ではなく、地味でも自分がそこに登場できるような、誰でも参加できるような民主的で開かれた形が必要でしょう。これを地域で繰り返すことで、政治を身近なものにしていけるのではないでしょうか。国政選挙もその延長線上にあります。政治とはどこか自分と切り離された遠い場所でセレブ達が勝手にやっている、という疎外された感覚を変える必要があります。『朝まで生テレビ』は、一見、民主主義を形成する番組のように思えるでしょうが、私にはむしろ民主主義にとって大きな害を生んでいる元凶だと私は思います。 
 
  選挙というとアメリカでもフランスでも1年くらいかけて、討論会を繰り返して、報道も繰り返します。その過程で立候補している政治家が信頼できるか精査され、さらに住民が何を求めているかが候補者に突きつけられ、公約も変化していく。こういうのが当たり前です。ところが、日本では住民の声を反映するためのプロセスはほぼまったくありませんでした。一方的に壇上から政党の方針を伝え、名前を連呼し、握手したり、手を降ったりするだけです。しかも国政選挙の場合、与党の都合で国会解散され、1か月程度で投票しなくてはなりません。これは国民を政治から排除するシステムです。こうした実態を放置して、投票率をあげましょうとスローガンだけ唱えているのは、偽善に外なりません。要するに、民主国家ではなく、民主国家のふりをする政治不在の国家に過ぎなかったのです。日本が中国やキューバ、ロシアのように政権交代がほとんどないのもそれが理由です。それを変えていくためには地方議会から国政まで、住民討論を繰り返して何が争点かを有権者自らが決めていくことが大切です。その核になるものこそテレビでしょう。タレントたちの昔話よりも、むしろ、本来はそれが仕事であるはずです。 
 
  そういう意味で、地域の教員や知識を持つ人々が討論会や番組の視界をしたり、解説をしたりすることも良いのではないでしょうか。地方には知を提供する国立大学や県立大学、私立大学、専門学校など様々な設備があるはずです。小中高の教員たちも大切です。こうした施設の人々を大切にしていくことがこれからの時代はとても重要です*。また、地域では様々なグループが活動しています。その周辺に情報があるはずです。自分が暮らしている街にどんな人がいるのか。困った時はどこに行けばよいのか。そういうことも扱っていくことで、自分にとってかけがえのない暮らしの場に光を当てることができるのではないかと私は思います。いま、新自由主義のグローバリゼーションで疲弊した都市や農村の立て直しは急務になってます。そのためにもテレビ・システムの再編成が求められているのです。 
 
 
村上良太 
 
 
●提案 
  参政権を行使するためには国内と国外の情報が不可欠であり、その意味で国民は情報を得る権利がある。その情報は企業の営利で 
取捨選択されるべきものではなく、国民が政治について判断を下すうえで必要かどうかという選択の基準で行われるべきである。その意味で、情報へのアクセス権は水や空気へのアクセス権と同じである。 
 
 
*将来にそなえる―これからの自治会・町会/東京都立大学 玉野和志教授 
https://www.youtube.com/watch?v=uPqeKEJ43kc 
 
 
 
■パリで難民支援運動「紅茶と珈琲を難民に」を立ち上げた女性に聞く アリーヌ・パイエ氏、放送ジャーナリスト・元欧州議員 Interview : Aline Pailler 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701161355511 
 
■パリで難民支援運動「紅茶と珈琲を難民に」を立ち上げた女性に聞く アリーヌ・パイエ氏、放送ジャーナリスト・元欧州議員 〜私はなぜ今年は投票しないか〜 Interview : Aline Pailler #2 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701161956361 
 
■パリの難民支援の輪  「紅茶と珈琲を難民に」(The et Cafe pour les refugies ) その2  衛生用品、パン、生きるための諸情報 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701131702075 
 
■パリで難民に食糧を支援する市民の運動 「紅茶と珈琲を難民に」 The et Cafe pour les refugie 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701130839015 
 
■基本食品と私 アリーヌ・パイエ  Aline Pailler 〜自宅引きこもり命令の中で〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202003300706441 


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