2017年05月12日15時54分掲載  無料記事
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コラム

タイのテレビ番組  宇崎喜代美 (バンコク在住)

  外国人がよその国を観察するとき、テレビ放送を見るととてもわかりやすい。私のいる国タイでも、テレビからなるほどタイ人はそういうことなのね、と思うことが多い。この国の地上波テレビはチャンネル数が6つで、民営が2局、軍が1局、政府が局、半官半民1局。ほかに日本と同じく沢山のケーブルテレビが視聴できる。外国メディアのテレビ放送も契約さえすれば自由に視聴できる。最近では日本の地上波放送をPCやテレビ画面で見ている在住日本人家庭も多いようだ。 
 
  タイの人々はテレビが大好き、どんな貧しい家庭でもテレビはまずある。人口の70%近くを占める農民にとってはテレビがまだ最大の娯楽となっている。テレビドラマに関しては、貧乏だが美しく性格のいい女性が、お金持ちの子息と恋に落ち、玉の輿に乗るとかいうサクセスストーリーや、昔あった日本の「おしん」のような話が大好きである。また幽霊、ホラーの視聴率が高くなる。歌謡エンタメのコンテスト、クイズ、ドタバタコメディも人気がある。日本で高度成長期にもったようなノリのクイズ番組も人気がある。視聴者参加番組で賞金獲得できるような番組やかつての日本のテレビのような明るく無邪気なバラエテイものが多い。また最近ではドキョメンタリー番組も健闘している。「人生の真実」というタイトルで感動的な人の生き方を紹介したり、全国に援助を求める「ある人のストーリー」を毎週取り上げる番組や、自然と動物もののドキュメンタリーも増えた。そして日本を紹介する番組がやたらに多い。よく観察しているとタイのCMがとても面白い。話題になるCMが時々現れる。企業名や商品名が一切出ない短編ドラマになっている。 
 
 かっこよくしたいがそうならない中年の父親と小1ほどの娘が出てきて、娘が父に手紙を書き、その手紙の言葉に沿って映像が展開するというものだ。 
 手紙の内容は初め、「私はお父さんがだーい好き、だって・・・,父さんは一生懸命働いている、△父さんは優しい、お父さんはハンサム、い父さんは面白い・・・とお父さんをほめていく。しかし最後に 「でも…お父さんは私にうそをついている・・・そのことが私はいやだ・・・わたしにうそをつかないでほしい」という手紙なのである。 
 
  その父親は失業し未だ定職がなく男手ひとつで娘をそだてようとしている。タイでは子供の学校への送迎を親がするのが一般的だ。このドラマでは、その時にはよれよれではあるがスーツを着て父親は子供を送る、そしてボロボロシャツに着替えて肉体労働をやり、作業現場で汗みどろの体をホース水で流し、再びスーツ姿になって慌てて迎えに行く。そんな姿が映像で映し出される。子供はいつしかそっと陰から覗きみて表情を曇らせる。 
 
  「私はこんなにお父さんが好きなのに、お父さんは本当の姿を何故私にかくすの?」という思いを父に訴える手紙なのである。見ている人は二人のほほえましい映像と、その父親の苦労や、子供の傷ついた顔などが出てきて、見ている人はつい涙を浮かべその映像に引き付けられる。 
  その手紙を受け取った父親がニコニコしながら読み下していく姿、そして最後に、表情が凍り付き、うつむいている娘を眺め、涙に潤んだ娘の目と父の目が見つめあい、思わず「お父さんが悪かった」と抱き合う。その後は嘘をつかないお父さんになって、ありのままの姿で堂々と送り迎えをするという映像で終わる。そして画面が替わって「〇〇社提供」となる。 
 
もう一つ。「高校生くらいの生意気で親に反抗的な娘の姿が映し出される。父親は街の小さな工場主のような設定。雨が降って、傘をもって迎えに行ったり娘の前にことあるたびに姿を表す父親。娘は父親のその姿を友達に見られるのがいやで父親をじゃけんに扱う。あるとき学校で勉強していると家からの急報で父親が交通事故にあい病院に担ぎ込まれたと知る。娘は病院に駆けつけ、手術室の前でおろおろする。手術が終わってからも意識が戻らない父親の枕元で、子供の時からどれだけこの父親に守られて育ってきたか、楽しい子供時代の思い出などが走馬灯のように浮かぶ。そして自分がその父にどれほどひどい仕打ちをしていたか気づき打ちひしがれ、神様に「どうかお父さんを助けてください。私はいい子になります」と祈る姿が映される。奇跡的に父親は目を覚まし生還の喜びを娘とともにする。その後の朗らかな娘と父親の映像で終わる。 
 
  こんなのもあった。高校の先生が長年教師を務め定年退職する。その先生はいつも子供たちのことを愛して良いことも悪いことも子供らに寄り添う。熱血先生タイプではないが、静かで落ち着いたお父さんのような先生である。普段の学校生活、子供が事故にあったときの映像や、長年の子供たちとの交流の姿がいっぱい出てきて、いよいよ定年になる。定年になっても先生の心はいつも先生であり子供に寄り添う癖がある。ある日高校生の抗争事件に出くわす。バスに乗っている高校生を抗争相手が銃撃を加えようとする。先生は思わず若者をかばい銃弾の犠牲となってしまう。先生を忍ぶ学生たちが皆泣いて葬式に参加する。これは「教師の日」(1月16日 1946年同日のタイ教育法公布を記念して制定)に放送されたCMである。 
 
  タイ人は基本的によく笑い、楽しいことが大好きである。人間も高度成長時期の日本人のようなどこか朗らかで、純粋なものを多く残している。だからCMにそういうものが多く反映されているとおもう。またCM全体を通して家族の中で父母に対す尊敬や目上の人に対する尊敬がよく現れている。電車の中でもタイ人は年配者や子供連れ、妊婦にはすぐに席を譲る。タイでも年寄りが目の前にいても席を譲らないのは、欧米人や日本人に多い。 
 
  現在はご存知のようにタイはクーデターにより今は軍が支配している、クーデターという強圧的なイメージの中でなんでも制圧されているというのは、この国の実情ではない。あの時期確かにテレビも軍の管理下に入った。しかし放送は通常であった。しかし面白いと思ったのは、一日何十回も軍の政策のプロモーションビデオを全てのチャンネルで流したことである。 
 
  クーデターが起こるまでのタイは国民が赤と黄色に分かれて争い、それがどんどんエスカレートしていた。国民は疲れ果て、経済は沈滞した。そこで起こったクーデターである、多くの国民は、これでやっと社会が落ち着くとおもってほっとした人も少なくないはずだ。そして軍は3か月以内に地元マフィアの横暴や、警察の腐敗、放置された高金利、不当な借金などの問題をかなりの面で解決するという活躍をやってのけると同時に、プロモーションビデオで「どうか私に時間をください、必ず約束を守ります。いつか安心して過ごせる社会にしてお返しします。どうかもう少しだけ待ってください」という国や国民をを愛し真摯な態度である詩を軍のトップのプラユット氏が書き、それに美しいメロディーをつけて、この国のため父母のた目に働く軍所属のすがすがしい容貌の若者が社会のために働き、お休みにお母さんに会いに帰るという設定のお話になったものを、何度もの流していたのである。結構軍を支持する国民が多かったせいでもあるが、このドラマは国民の支持を得ていた。私の会社の部下も「耳に胼胝ができるほど聞いたけど、この歌を聞くと目頭があつくなる。」といったものである。 
 
   どこの社会にも闇の部分はあるとおもう。しかしタイ人というのは私にとってそういうイメージであり、テレビも軍政下といっても、どことなくフアーンとしているのである。 
 
 
宇崎喜代美 (バンコク在住 通訳・コーディネーター ) 
 
 
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