2015年09月20日21時23分掲載  無料記事
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文化

嬬恋村のフランス料理8 深まる秋と美味しいナス 原田理(フランス料理シェフ)

  群馬県・嬬恋村は野菜が豊富です。名物のキャベツをはじめ近隣の直売所ではいろいろな野菜を売っています。週に一回の妻との買出しも野菜を買いに行くことがメインのイベント。一週分の野菜を買いにランチがてら軽井沢まで行き、かごにいっぱい買ってきて、二人で冷蔵庫に収めるというのが休日の定番コースです。群馬県はナスも特産で、ここ嬬恋の直売所にもたくさん並んでいます。特に丸ナスは最高です。 
 
  これから深まる秋に向けて、ナスは食卓に載る頻度の高い野菜のひとつで、和洋中ジャンルを問わず好んで使います。僕の場合はパスタや天麩羅、肉の付け合せや、煮込みなどです。実はフランスでもナスは人気の食材です。街中のマルシェ(市場)にも、もちろん並んでいます。ナスはフランス料理でも欠かせない、必須の食材なのです。 
 
■ナスとフランス料理 
 
  フランスのナスは日本のものよりも大きくて、ずっと堅く、しまっていて、煮崩れしにくいのが特徴。日本の感覚で日本料理に使うとちょっと違った料理になってしまうかもしれません。が、オリーヴオイルとの相性は抜群で地中海料理の必須野菜と言えます。比して日本のナスは小さくて水分が多いですが、そこがまた良いところでもあります。 
 
  フランスにはラタトゥイユと言う野菜のごった煮が伝統料理としてあります。ラタトゥイユにはナスは必需の野菜。玉葱、パプリカ、ズッキーニ、トマトにニンニクそしてたっぷりのナス!材料を適宜切って別々にオリーヴ油で火を通した後、まとめて煮込んで出来上がり。この野菜の煮込みは、南仏フランスのお袋の味ともいえるものです。もちろん我が家でもまとめて作り、ストックしておいて、遅い朝食や軽い昼食などに活用しています。 
 
  ラタトゥイユの楽しみはなんと言っても野菜を切り出すところにあるのではないかと思います。それぞれの野菜を煮あがったときに同じ大きさになるように計算して切るのです。形が残りやすいパプリカなどは普通に切り出しますが、火を通すと小さく縮みやすいナスはおおぶりに切って火を通します。こうすることで仕上がりには同じ大きさになるのです。玉葱やズッキーニも同じで仕上がりの大きさのイメージをして切る事で、出来上がったときに野菜の奏でる音の寄せ集めではなく、一体感のあるハーモニーとなるのです。それを考えながら切る作業はとても楽しいものです。 
 
■ナスとパスタ 
 
  さらに僕が日本のナスを使ってよく作る料理で大好きなのは、やっぱりナス入りのトマトソースのパスタ。日本のナスは火が通りやすく、手軽で作りやすいので夏からこの時期にかけてよく登場します。トマトソースだけは別に作り、そこに揚げたナスを加えると、ひと手間はかかりますが、同じ鍋で作るよりも日本の茄子独特のトロッとした食感が強調されて格別に美味しいものです。角切りでも、6つ割にしても、乱切りでもそれぞれの食感が感じられて美味しく、同じナスでも味わいは違うものです。 
 
  トマト、バジル、ニンニクの組み合わせは定番の組み合わせで、どうあっても旨くなる王道のトリオです。今でこそ愛妻は慣れてしまいましたが、ナスのトマトソースのスパゲティを最初に作ったときはそのナスの食感に感動していたような気がします。最近では「え?またパスタ?」なんていうようになりましたが。 
 
  トマトと組み合わせて美味しいナスですが、ミートソースともよく合います。ナスを入れたミートソースのペンネ(ペン先状のショートパスタ)にチーズを組み合わせたものは、この上ないご馳走になります。もちろん、ミートソースを作る時間が余分に要るので、これは休みの日に作るソースです。 
 
■フランス人を意識した日本料理 ナスの場合 
 
  職場では洋食部門がメインですが、家では和食を作ることも多々あります。家庭の場合は「ここにフランス人がいて、これをたべて旨いといいそうな和食をつくる」これが僕のコンセプトです。たとえ家庭料理であってもフランス料理人として、フランスにからんだテーマが欲しいのです。フランス人にうちの国のナスは美味しいけれど、日本のナスもうまいよね!といってほしいのです。あくまでイメージ上の話ですが。 
 
  そんな時、勢いに任せて作る料理がおなじみの「天丼」です。ナスがないときは海老があっても作らないと思います。海老は天丼に必須とは言っても、それを引き立てるのは野菜。僕の考えではそれはナスです。良く揚がった天麩羅のナスのあの食感といったら!かりっとして、とろっと。熱々の揚げたてのこれはもう、天国へのパスポートみたいなものです。中華を食べようという日も同じコンセプトで作りますが、もっぱら麻婆茄子が多いです。こうしてみると単に揚げた茄子の食感が好きなだけかもしれません。 
 
■ナスと肉との相性では仔羊が一番 
 
  付けあわせでナスを使うとき、肉類の中で一番相性が良いと思う食材は仔羊です。最近はラムチャップと言って、切り分けた仔羊の肉をスーパーでも買うことが出来る様になりました。量からすると、ちょっと高級な価格と言えますが、フランスで仔羊といえば肉の中で最高級とされるもの。牛肉よりももっとプライム感が高い食材なのです。そう考えると日本で売っている南半球産の仔羊肉はお手ごろなのかもしれません。 
 
  最初は「ニオイがきついんじゃないの?」と言っていた妻が、今は仔羊肉が大好きで、自分からすすんで買ってくる食材の一つです。たしか先日も買ってきたような…。ナスはシンプルにグリルにして塩だけで食べてもとても美味しいものですが、仔羊とあわせることによってさらにその美味しさが引き立ちます。 
 
  今日はラムチャップをピンク色に網焼きにして、ニンニクのローストと焼き汁、大好きなナスのグリルを添え、妻の帰りを待つことにします。 
 
寄稿 
原田 理 フランス料理シェフ 
( ホテル軽井沢1130 ) 
 
 
■「嬬恋村のフランス料理」1 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507250515326 
■「嬬恋村のフランス料理」2 思い出のキャベツ料理 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507282121382 
■「嬬恋村のフランス料理」3 ぼくが嬬恋に来た理由 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508021120200 
■「嬬恋村のフランス料理」4 ほのぼのローストチキン 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508131026364 
■「嬬恋村のフランス料理」5 衝撃的なフォワグラ 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508272156474 
■「嬬恋村のフランス料理」6 デザートの喜び 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509051733346 
■嬬恋村のフランス料理7 無限の可能性をもつパスタ 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509112251105 
■嬬恋村のフランス料理8 深まる秋と美味しいナス 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509202123420 
■「嬬恋村のフランス料理」9 煮込み料理で乗り越える嬬恋の長い冬 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201510212109123 
■「嬬恋村のフランス料理」10 冬のおもいで 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201511040056243 
■「嬬恋村のフランス料理」11 我らのサンドイッチ  原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201511271650435 
■「嬬恋村のフランス料理」12 〜真冬のスープ〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201601222232375 
■「嬬恋村のフランス料理」13 〜高級レストランへの夢〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603031409404 
■「嬬恋村のフランス料理」14 〜高級レストランへの夢 その2〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603172259524 
■「嬬恋村のフランス料理」15 〜わが愛しのピエドポール〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201604300026316 
■「嬬恋村のフランス料理」16 〜我ら兄弟、フランス料理人〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201607061239203 
■「嬬恋村のフランス料理」17 〜会食の楽しみ〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201609142355513 
 
 
■「嬬恋村のフランス料理」18 〜 魚料理のもてなし 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611231309133 
 
 
■「嬬恋村のフランス料理」19 〜総料理長への手紙 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201707261748033 
 
 
■「嬬恋村のフランス料理」20 〜五十嵐総料理長のフランス料理、そして帆船 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201707291234426 
 
 
■「嬬恋村のフランス料理」21   コックコートへの思い   原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201709121148442 


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