2015年09月11日22時51分掲載  無料記事
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文化

嬬恋村のフランス料理7 無限の可能性をもつパスタ 原田理(フランス料理シェフ)

  フランス料理ではありませんが、ピザやパスタ、サンドイッチと言った、いわゆる粉ものの洋食は、日本人の生活に浸透しきった感のある西洋料理です。僕自身このどれもが大好きですが、好きな理由は作るときの手軽さもあるように思います。今回はそんな日常の食事の代表「パスタ」の話を。 
 
■形が変われば名前も変わる 
 
  職場でも家庭でもパスタは人気の料理です。麺の種類が豊富で、ソースや味付けも無限大。何より日本人は麺が大好きです。スパゲティに代表されるような長いものが多いとは思いますが、たまに食べるペンネやニョッキもまた独特の美味しさがあります。パスタと言うのはそもそもイタリア語で「粉を練った生地」の意味で、かたちはどうあれ、小麦粉、厳密にはデュラムセモリナという小麦のあらびきの粉を練ったもののことを言います。この生地を基にしてものすごくたくさんの種類のあるパスタとなるわけです。形が変われば名前も変わり、幾種ものパスタの名前は、ほぼその形から名前がつけられています。スパゲティなら紐の意味。カッペリーニなら髪の毛の意味。ペンネならペン先の意味などです。 
 
■乾麺と手打ち麺 
 
  大きく分けて2種類あるパスタは工場製の乾麺(ひも状のロングタイプと小さいショートタイプ)も美味しいけれど、素朴な手打ち生地のもちもち感も捨てがたいものです。日本人の僕達にはスパゲティが一番馴染み深いかもしれません。子供の頃に母が作ってくれた数少ない、作りやすい洋食のひとつで、僕も初めて料理の世界に入って従業員の食事「賄い」を任されたときに最初に作った覚えがあります。もっとも、経験不足の16歳が作った専門学校で習った風変わりなパスタ「レモンのクリームスパゲティ」はシェフや先輩諸氏からは酷評でしたが…。 
 
■トマトソース 世界で一番の人気 
 
  その後シェフとして厨房に立つようになってから、オーナーの意向を受けパスタを出しているときにフランス料理からは専門外ではありますが、いろいろと失敗をしながらパスタのコツを学んでいきました。最もこだわったのはトマトソースで、パスタ作りにはなくてはならないソースで、いろいろと試行錯誤したものです。今の形に落ち着いたのは、ごく最近で、それこそ家庭で妻に頻繁に作るようになってから我が家のトマトソースとなりました。働いている頃は店のスタイルに合わせて風味や濃さを変えていましたし、フランス料理店の頃には賄いで食べるくらいで、商品としては出していなかったので、嬬恋村に来て、パスタ熱が戻ってきた感じです。今は妻に作っているトマトソースが料理を始めてから一番安定しているのかもしれません。 
 
■シェフが個性を生かしたそれぞれのパスタ 
 
  職場のブッフェでも多くの料理人が工夫を凝らして日替わりのパスタを作ります。ここはある程度担当者の裁量に任せているので、美味しい中にも個性がはっきりと出て面白いものです。魚介や肉、野菜。トマトやクリーム、オイルなど思いつくままの食材を使ってそれぞれの料理人がそれぞれの個性で作るバリエーション豊かなパスタは美味しい記憶として人生の1ページを彩ってくれるようです。和風が得意な料理人、イタリアそのままのタイプ、肉が得意な料理人、魚介のパスタが得意な者など、料理人が思い思いに皿に描くパスタ料理。自分とは違う発想に関心、勉強する日々です。 
 
■我が家でも 
 
  ところ変わって我が家では、もっぱらトマトを使ったパスタを作ります。遅く帰る忙しい日の夜には、パスタが心強い味方です。湯を沸かしてソースを作り、和えるだけのスパゲティは手間をたくさん取らないぶん、夫婦の会話の時間を増やしてくれます。ソースはパスタをゆでる間にできる簡単なものが大半で、トマトソースだけは湯を沸かす前に前もって作ります。一度煮て落ち着かせるためです。 
 
  キッチンドランカーではないですが、妻より先に家に着き、着替えてからビールを開け、愛妻の帰りを待ちながら、ゆっくりと作るパスタは、作る喜びを感じさせてくれる料理のひとつでもあります。一日が無事に終わった喜びと安堵感、減ったお腹からの期待、胃にしみわたるビールの苦味、妻にもうすぐ会えるわくわく感、切ったり、炒めたりする楽しさ。そのどれもが生活の喜びとして一日の終わりのこの時間にやってきます。これが楽しくて嬬恋にいるのではないかと思うほどです。 
 
■冷蔵庫にトマトを 
 
  挽き肉を炒めて作るミートソースにはトマトを、トマトソースにはもちろんトマトを、ペペロンチーノにもトマトを!冷蔵庫に常備しているトマトや、イタリア産の缶のトマトはあらゆるパスタの場面で登場します。ミートソースやトマトソースを煮る時の楽しさは、気合を入れて作る肉や魚の料理と違う楽しみがあります。妻が帰り、着替えたら、麺をぐらぐら煮立った湯に投入して、タイマーを入れ、食器を用意したら準備完了。たまにかき混ぜて、タイマーが鳴ったらざるに開けて、ソースと和えて食卓に載せる。これだけです。ちょっと待てよ、こっちはプロでも何でもねえんだ。そんな簡単にいくかよ!と言うプロでない方には既製品のソースが膨大な種類各メーカーから出ているので、楽しく選んで使えば、そんなに変わらない時間で楽しめると思います。 
 
  くるくるとフォークに巻いて、一日の出来事を話しながら家族と食べるパスタはこの上ない幸せだと思うのですが、盛り上がりすぎでしょうか。妻に始めて作った料理がトマトソースのスパゲティだったので、多少の思い出もあるのかもしれません。妻が初めて僕の料理を美味しいと言ってくれたのもこれです。あのときからずっと4年間、僕は妻に料理を作っていることになります。 
 
■休日の午後はパスタを手打ち 
 
  僕だけが休みで妻は仕事に行っている、休みの日の午後には手打ちパスタを作ることもあります。小麦粉と水をよく捏ねて伸ばし、マシンで生地にするのです。マシンと言っても生地用のローラーみたいなもので結構力を使います。キッチンが粉だらけになるのはちょっと覚悟ですが、労力をたっぷり使うぶん乾麺にはないもちっとした歯ごたえと、体力を使った満足感でとても美味しいものです。 
 
  こういうときはあまり凝ったソースは作らず、シンプルに麺の美味しさを楽しむようにしています。もちろん、ここで使うのが我が家のトマトソースなのです。 
 
寄稿 
原田 理 フランス料理シェフ 
( ホテル軽井沢1130 ) 
 
 
■「嬬恋村のフランス料理」1 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507250515326 
 
■「嬬恋村のフランス料理」2 思い出のキャベツ料理 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507282121382 
 
■「嬬恋村のフランス料理」3 ぼくが嬬恋に来た理由 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508021120200 
 
■「嬬恋村のフランス料理」4 ほのぼのローストチキン 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508131026364 
 
■「嬬恋村のフランス料理」5 衝撃的なフォワグラ 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508272156474 
 
■「嬬恋村のフランス料理」6 デザートの喜び 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509051733346 
■嬬恋村のフランス料理7 無限の可能性をもつパスタ 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509112251105 
 
■嬬恋村のフランス料理8 深まる秋と美味しいナス 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509202123420 
 
■「嬬恋村のフランス料理」9 煮込み料理で乗り越える嬬恋の長い冬 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201510212109123 
 
■「嬬恋村のフランス料理」10 冬のおもいで 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201511040056243 
 
■「嬬恋村のフランス料理」11 我らのサンドイッチ  原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201511271650435 
 
■「嬬恋村のフランス料理」12 〜真冬のスープ〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201601222232375 
 
■「嬬恋村のフランス料理」13 〜高級レストランへの夢〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603031409404 
 
■「嬬恋村のフランス料理」14 〜高級レストランへの夢 その2〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603172259524 
 
■「嬬恋村のフランス料理」15 〜わが愛しのピエドポール〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201604300026316 
 
■「嬬恋村のフランス料理」16 〜我ら兄弟、フランス料理人〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201607061239203 
 
■「嬬恋村のフランス料理」17 〜会食の楽しみ〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201609142355513 
 
■「嬬恋村のフランス料理」18 〜 魚料理のもてなし 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611231309133 
 
■「嬬恋村のフランス料理」19 〜総料理長への手紙 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201707261748033 
 
■「嬬恋村のフランス料理」20 〜五十嵐総料理長のフランス料理、そして帆船 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201707291234426 
 
■「嬬恋村のフランス料理」21   コックコートへの思い   原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201709121148442 
 
■「嬬恋村のフランス料理」22 原木ハモンセラーノで生ハム生活   原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201711271507321 


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