2016年09月14日23時55分掲載  無料記事
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文化

「嬬恋村のフランス料理」17 〜会食の楽しみ〜 原田理(フランス料理シェフ)

  家族や仲間と食べる夕飯は特別な時間を演出してくれます。今回はそんな日々の話を。 
 
   仕事をするということは同時に悩みを抱えると言うことでもあって、そんなときは美味しい食事や仲間との会話が日々のストレスを解消してくれます。それは都心でも嬬恋村でも同じことだと思います。が、嬬恋村は車がなくてはコンビニエンスストアにも行くことができない土地柄。仕事が終われば社員寮に帰るのみで、休みの日にも車がなければ部屋にこもることを強制されます。 
 
もちろん部屋にいるだけでも、小鳥のさえずりや美しい緑、秋には紅葉。テニスに興じる人々。天気の良い日は高層階から浅間山や他の山脈などが見えますが、やはり人間は贅沢ないきもので、慣れてしまえば「日々事もなし」となってしまうものなのです。世間の様子はどこへやら。ここは群馬県嬬恋村。何もないのが売りのリゾート地なのです。 
 
 
   僕がここに来た頃もそうでしたが、少々の着替えと歯ブラシのみで家具といえるものは何もなく、慣れたころの休みの日は、がらんとした明るい部屋で時間の過ぎるのをただ待っていたこともありました。仲間は仕事。帰ってくるまでは話し相手もいないのですが、あるとき少ない調理道具で仲間が帰ってくるのに合わせて料理を作り、待っていたことがありました。当然意外な用意に仲間たちは喜んだのですが、その時に「あ、作ればいいんだ!」と気づきました。何事もやってみないと実感しないことはたくさんあるもので、料理人なのにこんな簡単なことに気づくのにもずいぶん時間が経過したような気がします。 
 
  それからでしょうか、部屋をちゃんと食事できる環境に整えだしたのは。音楽をかける用意をし、大きなテーブルと椅子、クロスを探し、皿やカトラリーを揃えて、鍋釜と調理台を買って、小ぢんまりとしたダイニングの出来上がりです。腕には多少おぼえがあるので、日々の献立を考えるのが楽しみになりました。 
 
最初に妻に料理を作ったのがそんな頃で、通い妻といえば一般には留守の間に家事を済ませて待っているイメージがありますが、我が家は逆で、帰宅して料理が出来上がる頃に妻が訪れていたのです。そのうち妻が仲間を連れてきてみたりして、僕の部署の仲間と食事をするようになり、日々は充実していきました。嬬恋村に来た当初は外食できないストレスから、休みは誰かの車に同乗して出かけなければ、などという気になったこともありましたが、今では外食はほんのわずか、妻と遠出した時だけになってしまいました。 
 
  会食の楽しみは準備することから始まります。天気や気分に合わせてテーブルクロスや食卓に活ける花を選びます。いつも洋食だけではないので、和食の時は和食セッティングをします。特に夏は外に緑がたくさんあるので、よさそうな物を摘み取ってよく洗って活けます。雑草と言う植物はないもので、道端に生えている普段見逃してしまう様な植物も飾り方によっては食卓に華を添えてくれます。 
 
テーブルが出来たら、冷蔵庫と相談。今ある食材から何を作るかゆっくり考えるのです。妻は連絡係。今日のメニュが決まったら、仲間に連絡して人数を設定。社員寮なので仲間や同僚はドアの先にいますから。分け合える料理のほうが記憶に残りやすいので、人数が多くなるほど鍋ものやロースト料理を作ります。 
 
  仲間が集まったら第二の楽しみ、料理作りです。音楽をかけ、たわいのない話をだらだらとしながら、ゆっくりと料理を作っていきます。大事なのは料理を作る人が料理に集中せずに話しながら出来ること。ホストがひとつのことに集中してしまってはそこに集まる意味がないのです。ホストが楽しんでいれば細かいことを気にせずとも仲間はリラックスして楽しんでくれます。時には悩みを抱えた仲間もいますが、我が家のルールは酒の肴になるような仕事をしない事。楽しんで帰ることです。ピザをつまみながら映画を見るもよし、テレビゲームに興じるもよしです。 
 
  そろそろ秋の気配。繁忙期も落ち着き、仲間と楽しむ時間も増えてきました。今夜はどんな音楽でどんな料理を作るか。終業間際になると楽しみになってきます。これも秋の食欲の仕業なのかもしれません。 
 
 
原田理(おさむ)  フランス料理シェフ 
( ホテル軽井沢1130 ) 
 
 
 
■「嬬恋村のフランス料理」1 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」2 思い出のキャベツ料理 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」3 ぼくが嬬恋に来た理由 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」4 ほのぼのローストチキン 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」5 衝撃的なフォワグラ 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」6 デザートの喜び 原田理(フランス料理シェフ) 
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■嬬恋村のフランス料理7 無限の可能性をもつパスタ 原田理(フランス料理シェフ) 
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■嬬恋村のフランス料理8 深まる秋と美味しいナス 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」9 煮込み料理で乗り越える嬬恋の長い冬 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」10 冬のおもいで 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」11 我らのサンドイッチ  原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」12 〜真冬のスープ〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」13 〜高級レストランへの夢〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603031409404 
 
■「嬬恋村のフランス料理」14 〜高級レストランへの夢 その2〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」15 〜わが愛しのピエドポール〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」16 〜我ら兄弟、フランス料理人〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」17 〜会食の楽しみ〜 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201609142355513 
 
■「嬬恋村のフランス料理」18 〜 魚料理のもてなし 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」19 〜総料理長への手紙 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」20 〜五十嵐総料理長のフランス料理、そして帆船 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」21   コックコートへの思い   原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」22 原木ハモンセラーノで生ハム生活   原田理(フランス料理シェフ) 
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