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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2014年05月30日10時27分掲載
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欧州
マルセイユで起きたことから 日本のメディアが見落としているフランスで右翼政党が台頭する理由
今、台頭しつつあるフランスの右翼政党・国民戦線。それは今春行われた地方選と、欧州議会議員選挙でいずれも躍進したことにある。特に5月の欧州議会議員選挙では得票率約25%と政党の首位に躍り出た。しかし、フランスでは昨年秋にすでにメディアでは織り込み済みの事態だった。右翼の台頭をとどめる方策を左翼政党も、国民運動連合(UMP)も持っていなかったのである。
このことは既存の大政党がグローバリズムが国民に与えている影響をきちんと受けとめていないか、あるいは受けとめていたとしても単に無能無策であるのか、そのどちらかなのである。そして、そのことを最も真摯に受け止めていると見られているのが右翼政党、あるいは数年前なら極右政党と言われていた国民戦線である。グローバリズムの影響にはいくつかある。
・平均給与の低下と失業率の高止まり ・空洞化 ・移民の流入 ・多国籍企業が国を訴えることに象徴されるような主権の喪失 ・環境や労働や保健分野などの規制緩和 ・自国農業の崩壊
これらはフランスに限らず、世界の先進国で一斉に起きつつある事態である。だから、このことに真摯に対応する政党が各地で台頭している。昨年、筆者は今春のフランス地方選を取材する計画を立てたのだが、途中まで進展したものの残念ながら最終的に実現できなかった。取材で実現したかったことは国民戦線が躍進しているまさにその理由を描くことだった。それを南仏のマルセイユで見たかったのである。しかしながら、古典的な右翼政党のイメージをメディア自身が抜け出せていないように僕には思えてならない。だからこそそこに切り込んで見たかった。
南仏のマルセイユで国民戦線は今春初めて社会党の地盤を切り崩し、拠点を確保することができた。それはマルセイユ市北部の第七連合区である。今までマルセイユ市の北部は社会党の拠点だった。アルジェリアやモロッコなどいわゆるマグレブ地方からの移民が多く、彼らは社会党に投票する傾向がある。一方、マルセイユ市南部は新自由主義の国民運動連合(UMP)の拠点である。そして、南北を二大政党に確保されているこのフランス第二の都市、マルセイユ市に国民戦線は切り込んできたのだ。昨年夏の政治大学(政党集会)からマリーヌ・ルペンが何とかマルセイユを陥落させるべく、足を運び、国民戦線マルセイユ支部長のステファン・ラビエ候補者の売り込みに励んでいた。そして結果的にマルセイユ市で最大人口を誇る第七連合区が国民戦線に奪われることになり、社会党の勢力は半減することになったのである。
取材現場にマルセイユ市を選んだのはマルセイユ市がまさに移民の町であったからだ。しかし、今問われているのは移民の問題だけではない。むしろ、移民はイシューの1つに過ぎない。もっと大きな視点に立つ必要がある。それはグローバル化の中で国家とは何か、ということである。社会党も国民運動連合もそこに言葉が届かなかった。それが第三の勢力である国民戦線の台頭を招いた理由にほかならない。国民戦線党首のマリーヌ・ルペンは父でもある先代党首ジャン=マリー・ルペン時代に頻繁に話されていたあからさまな「反イスラム」的な言動をできるだけ抑え、むしろ、「フランス文化を尊重せよ」というようなソフトな発言に切り替えている。その底流にあるものが同じであったとしても、この違いが大きいのだ。国民戦線躍進の理由はこのちょっとした言葉遣いの違いに象徴される何かである。
今、欧州連合は自由貿易協定の書類作成をアメリカと進めている。昨年はカナダと結んだばかりだ。そして、カナダとの自由貿易協定によって、たとえばホルモン肥育牛が欧州に入ろうとしている。これは乳がんの発がんリスクを高めるという報告もある。つまり、女性にとっては大きな関心事なのである。自由貿易協定に端を発するグローバル化によって、健康や環境などの自国の政策が骨抜きにされていくことに欧州人、とくにフランス人は大きなリスクを感じているのだ。またフランスで酪農家が次々に自殺するという事態も国民戦線への期待となっているように想像される。フランスではリーマンショックのあった2008年あたりから、農業金融もバブル崩壊に巻き込まれ貸し渋り・貸し剥がしに走り、その結果、不況のしわ寄せを深く受けた酪農家たちがつなぎ融資を受けることもできず、農業を手放すか死かを待ったなしに迫られ、多くの人が自殺していたのだ。自殺者には女性の農業経営者も含まれる。フランスが幸せな農業国というイメージは過去のものになろうとしているのである。自由貿易協定が結ばれたら、フランス農民の苦境はもっと深くなるだろう。安全基準のゆるい米大陸産の農作物は当然ながら低価格で提供することが可能である。その価格差を不況と賃金低下に悩まされているフランス国民がいつまで受容できるか、である。
だから、そのことをパンチを持って訴えてくれる政党は国民戦線である、あるいは真摯なのは国民戦線しかないと考える人が増えているのである。国民戦線は反グローバリズムの一環として農民保護も政策に打ち出している。だからマリーヌ・ルペンが極右から右翼へと、あるいは一歩左に、もしくは中央に身を寄せたことでフランスの多くの国民にとって国民戦線は「選択肢に入れて良い」政党になったのである。農民票をつかむことができればフランス全土で国民戦線の影響力が強まるのは言うまでもない。
驚くことにマリーヌ・ルペンが党首になった2011年ころは1万人いるかいないかだった党員が今では10万人を目前にしている。それだけ党に資金も入っているのだ。この国民戦線の躍進を単に異常事態=「極右の台頭」と見ていては事態をつかみ損ねるのではなかろうか。そして、左翼政党がグローバル化に対応できておらず、これまでの票田を右翼政党に持って行かれているのが実情なのである。このことはグローバル化で空洞化が進む日本においても共通のテーマなのではないだろうか。
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