3月15日の安倍首相のTPP参加宣言に関し、農産物への影響が約3兆億円の減少という政府見解が明らかにされた。公表された試算シナリオ「農林水産物への影響試算の計算方法について」は、次のようないくつかの仮定の上の試算している。(有機農業ニュースクリップ)
・卸売価格で計算
・競合する国産品は、原則として、対象国の輸出余力分だけ安価な輸入品に置き換わる。残存する国産品の価格は、関税分のみ減少。 生産減少額=国産品価格×競合する国産品生産量 (1)
・競合しない国産品は、安価な輸入品の流通に伴って価格が低下する。競合する国産品が輸入品に置き換わる部分の価格低下率(内外価格差÷国産品価格)の1/2の割合で、競合しない国産品の価格が低下すると見積もる。 生産減少額=価格低下分×競合しない国産品生産量 (2)
その上で、農産物2兆6600億円、林水産物3000億円が減少すると見積もっている。主な品目の減少は次のように見積もられている。 ---------------------------------------------------------- 米 32% 約1兆100億円 国内生産量の約3割が輸入に 置き換わる。それ以外の国内 生産は価格下落 小麦 99% 約770億円 国内産小麦をセールスポイン トとした小麦粉用小麦を除い て置き換わる 大麦 79% 約230億円 主食用、味噌用は残る 砂糖 100% 約1500億円 すべて置き換わる トマト 100% 約270億円 加工要はすべて置き換わる 牛乳 45% 約2900億円 鮮度が重視される生クリーム 乳製品 等を除いて全て置き換わる。 飲用乳は、大部分が北海道産 に置き換わり、他府県は全滅 牛肉 68% 約3600億円 4等級及び5等級は残り、他 は一部を除いて置き換わる 豚肉 70% 約4600億円 銘柄豚以外は置き換わる 鶏肉 20% 約990億円 業務・加工用の1/2が置き換わる
---------------------------------------------------------- このほか、でん粉原料作物は100%、いんげんや小豆は高級和菓子用を除いて輸入に置き換わる一方、こんにゃくと茶はほとんど減少しないとみている。
・内閣官房, 2013-3-15 「関税撤廃した場合の経済効果についての政府統一試算」 http://www.maff.go.jp/j/kanbo/saisei/pdf/01_cao.pdf 「農林水産物への影響試算の計算方法について」 http://www.maff.go.jp/j/kanbo/saisei/pdf/02_cao.pdf
農水省の米についての試算は、約3割が輸入に入れ換わり、その価格はキロ117円まで下がると見積もっている(この減少分が6500億円)。残った国産米も、銘柄米であったとしても26%の価格低下を生ずると見積もっている。しかし、試算シナリオでも「短粒種の増産が行われることも想定されるが、その拡大ペースや規模は現時点では予測が困難」と述べているように、この見積もり以上の下落をもたらす可能性も否定できない。
さらに問題となるのは、食糧価格が上昇している状況で、日本が輸入することによる、国際的な食糧価格のさらなる上昇の可能性である。食糧貿易の流れが変わることで、食糧を得られない、得にくくなる人々が増えることは願い下げである。作れる“作物”は作ればよい。TPPの対極にあるのは、生産者と消費者が直接的に結びつく協同組合的な関係、というのはあまりに牧歌的だろうか。
|