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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2019年10月02日03時51分掲載
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コラム
ドキュメンタリーとマイクロペニス
長い間、人生における謎だったことが50代になって解明される、そんなことがあるものだ。僕の場合は、恥ずかしい話だが、自身の肉体である。僕のペニスの長さは2センチ5ミリくらいしかない。勃起した時でもせいぜい5〜6センチなのだ。10代の学生時代から、このことが恥ずかしくて、人前で裸になりたくなかったから、修学旅行とか、合宿みたいな場が嫌でならなかった。せめて人並みの肉体だったら、どれだけよかっただろうか、そんな風に思ってきたし、いっそ死んでしまいたいと思ったことも一度や二度ではない。
視覚障害とか肢体不自由などの障害のある場合は、大変なハンディだと思うけれど、障害自体の有無は明快だと思う。しかし、僕のケースでは「短小」という言葉のような、サイズが小さいだけ、と思われて笑いの対象になってしまうことが多かったように思う。なぜこのようなサイズなのか、理由とか原因がわからないし、奇形と言えるのかどうかもわからない。恥ずかしいから親にも兄弟にも医師にも学校の先生にも相談もしにくい。要するに、外から見えにくい苦しみである。僕は異性愛者だが、女性とうまく肉体的につながることができない。つながるための器官が発育不全なのである。かなり前に、アメリカかカナダのドキュメンタリーで、環境ホルモンにさらされて極小のペニスになったワニが紹介され、種の存続の危機だと科学者によって紹介されていたが、僕にとってあの光景は他人事ではなかった。
30代の時、フォークナーの「8月の光」という小説を読んだ。この小説の主人公は黒人と白人の混血であり、自分がどこに帰属するのかわからない悩みを抱えている。僕の場合とはもちろん問題は異なるが、しかし、共通するものもある。つまり、自分が何者なのかわかり難い苦しみだ、ということだ。もしかしたら、異星人でたった1匹だけ地上に間違って存在してしまったのではないか・・・40年近く僕はそんな妄想を抱えて生きてきた。
そこに大きな変化が生まれたのは、2年ほど前に英国のドキュメンタリー作品を見たことだ。そのドキュメンタリーでは性の様々な問題に真摯に取り組んでいて、ペニスが7センチ以下の「マイクロペニス」の問題も描いていた。そのドキュメンタリーでは当事者とその父親、そして医師も出てきて、ペニスのサイズを計測するシーンまであった。日本ではちょっとありえないシーンだろう。そして医師がペニスのサイズの偏差値グラフを示しながら、平均値よりもかなり離れた極小サイズのペニスを持つ男性が一定数存在することを説明する。インターネットで調べてみると、1000人中6人、つまり0.6%の発生確率で「マイクロペニス」という一種の発育不全の男性が存在するのだと言う。僕は医師に診てもらったわけではないが、おそらくはこれだろう。
このドキュメンタリーを見た時、僕は不思議なことだが、過去の人生で感じたことがなかった安堵を感じたのだ。男が1000人いたとしたら、僕以外に5人の人間が同じ状況に置かれている、ということである。地上に1匹だけ存在するミゼラブルな種、と思ってきた自分の人生だったのだが、その時、僕も人類の一員なんだ、という気持ちを持てたのだった。一種の奇形であると医学的に認知されたことで、逆説的にだが、自分も人類の一員であると認められた気がしたのだ。それにしても他の5人の男たちはどのようにその人生を生きてきたのだろうか。
女性を好きになっても、最後まで完結することができない・・・そんな苦しみを10代からずっと抱えてきた。だが、今となってはむしろ、そんな自分を受け入れることができる。それにもう手遅れでもある。救いは自分が何であるかが少なくとも今ようやくわかり、そのこと自体のうちに救いがある、ということなのだ。哲学の原点は己自身を知れ、ということである。そして、どうしても言っておきたいことがある。それは日本の性の教育が肝心なことは何一つ教えていなかった、ということだ。そのことに憤りすら感じる。
村上良太
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