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2020年04月15日08時59分掲載
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教育
日本国憲法と教員養成「改革」(5)コロナ禍は学校教育の意義を再考する機会 石川多加子
コロナ禍のなかで見えにくくなっているが、安倍政権下で行政の教育内容への介入がさらに進もうとしていることを見逃してはならないだろう。コロナ休校で始まった遠隔授業は、非常事態が去ったあとも拡大する気配だ。教育現場には何が起こるのか。また全大学の教育課程に国家による共通の目標基準カリキュラムを導入するうごきも出てきている。コロナ禍は、学校教育とは何か、どうあるべきかを私たち一人ひとりが考え直す機会でもある。以下でこれらの問題を詳しく検討してみたい。
▽遠隔授業と学校統廃合 安倍晋三首相は2020年4月7日、新型コロナ特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律〈2020年3月13日法律第4号〉)32条に基づき、7都府県(東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、福岡)を同法施行令〈2013年4月12日政令第122号〉6条が定める要件を満たした「特定都道府県」として、新型インフルエンザ等緊急事態を宣言した。各都府県知事は感染を防止するため、期間と区域を定めた上、住民に対し生活維持に必要な場合を除き、みたりに外出しないこと、学校や社会福祉施設といった多数の者が利用する施設の管理者又は当該施設を使用して催物を開催する者に対し、施設使用・催物の開催の制限若しくは停止を要請出来ることとなった(同法45条、同法施行令11条)。
文部科学省は同日、都道府県教育長等へ宛て「新型コロナウイルス感染症に対応した臨時休業の実施に関するガイドライン(令和2年4月7日改訂版)」を発出し、7都府県はもとより、独自の緊急事態宣言を行なった愛知県・岐阜県の他、国公私立の学校の多くが再び5月6日迄の休校を決定している。
他方、コロナ禍の中で、群馬大学と宇都宮大学が2020年度より「共同教育学部」を発足させた。富山大学と金沢大学も、2018年から「教員養成系における連携・協力」に関し協議を続けており、2021年度から「共同教育課程」(共同で教育課程を編成し、連名で学位を授与する)を新設する予定にしている。 国立大学の教員養成大学・学部の再編・統合は、国立の教員養成系大学学部の在り方に関する懇談会が2001年に公表した報告書「今後の国立の教員養成系大学学部の在り方について」が既に、「1都道府県1教員養成学部の体制を見直し、学生数や教員数がある程度の規模となる」ことを求めていた。しかしこの時現実化したのは、鳥取大学と島根大学の再編だけであった。群馬大学と宇都宮大学、富山大学と金沢大学の統合(計画)は、直接的には2017年8月に公表された国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議の報告書(「教員需要の減少期における教員養成・研修機能の強化に向けて―国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議報告書―」)が、国立教員養成大学・学部に対して「組織や規模の適切な見直し」を求めたことによる。
加えて、2019年5月には国立大学法人法が改正されて「1法人複数大学制度(アンブレラ方式)」が可能となり、2020年4月に名古屋大学と岐阜大学が「国立大学法人東海国立大学機構」を発足させた。県境を越えた国立大学初の統合事例である。今後、静岡大学と浜松医科大学の「国立大学法人静岡国立大学機構(仮称)」(2021年4月)、小樽商科大学、帯広畜産大学、北見工業大学の「国立大学法人北海道連合大学機構(仮称)」、奈良女子大学と奈良教育大学の「国立大学法人奈良(仮称)」(いずれも2022年4月)の設立も予定されている。2002〜2004年に掛けては、先に触れた群馬大学と埼玉大学との合併計画があったことを思い出した。その傍ら、山梨大学と山梨県立大学は既に2019年末、「一般社団法人大学アライアンスやまなし」を発足させている。
なお、統合・再編の波は私立大学にも押し寄せている。学校法人濱名学院と学校法人神戸山手学院が2020年4月に合併した。翌年4月には、後者が運営する神戸山手大学(単科大学)が、前者が有する関西国際大学へ現代社会学部を譲渡して両大学が統合する予定である。学部譲渡は、2019年5月に文科省が私立学校法施行規則を改正し(私立学校法の一部を改正する省令〈令話元年文部科学省令第1号〉)、それまでは先ず学部を廃止してから譲渡される大学が学部を新設しなければならなかったのを、譲渡先が設置者変更手続をとるのみで可能にしたのである(同令4条の2 2項)。
コロナ禍に起因する休校により、遠隔授業を採り入れる学校が増えると予測出来る。未来投資会議の調査結果によると、初等・中等教育機関で全部若しくは一部の学校で実施している地方公共団体は22%・399、今後実施する意向有りと答えたのは25.5%・463(2019年3月現在)、大学は26.5%(2017年12月〜2018年2月)である。
2020年1月に成立した2019年度補正予算における「GIGA(Global and Innovation Gateway for ALL)スクール構想の実現」で、小・中学校での1人に1台のパソコン配備が決定されて2318億円が計上された。この3箇月後に安倍内閣が策定した「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策─国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ」では、遠隔教育に関して、2023年度迄の1人1台端末の整備スケジュール加速を初め、学校現場へのICT技術者配置の支援、在宅・オンライン学習に必要な通信環境の整備、在宅でのPC等を用いた問題演習による学習・評価か可能なプラットフォームの実現、EdTechの学校への導入や在宅教育を促進するオンライン・コンテンツの開発を挙げている。教科書等を遠隔授業で無償使用し得るようにした改正著作権法の2020年4月末施行も、既に閣議決定されている。
遠隔授業といっても、動画による対面式、教員が作成したり、教育番組等の映像を教材として配信する、課題を示すといった方式があり、学校や担当教員により一様では無い。何れにせよ、遠隔授業が一般化することで、学校統廃合がますます進行するのでは無いかと懸念を抱いている。極端な場合、自宅等で授業を受けることが出来るなら、学校は要らない、各教室で教鞭を執って来た教員も必要無い、オンラインで全国一律に同じ担当者が同じ説明をした方が寧ろ望ましいということになりはしないだろうか。 もちろん、災害等の場合に遠隔授業は必要であろうし、通信制課程が様々な環境にある人達の教育を受ける権利と教育の機会均等を確保しているのは明白である。とは言え、初等・中等・高等教育いずれにおいても学習者が望めば、常時通学を要する形態での教育を原則として保障しなければならないと考えるのである。コロナ禍の中で、学校教育が有する意義を再検討しなければならないのは、誰を置いても教職員自身であろう。
▽大学版学習指導要領:教職課程コアカリキュラム 各地で均一(!)、誰が・どこで行っても同じ授業(!)という悪夢へ向かわせるのが、「教職課程コアカリキュラム」である。同カリキュラムは、「教育職員免許法及び同施行規則に基づき全国すべての大学の教職課程で共通的に修得すべき資質能力を明確化」すると説明される(文部科学省総合教育政策局教育人材政策課 教員免許企画室「教育職員免許法等の改正と新しい教職課程への期待 平成30年12月20日 平成30年度教職課程認定申請に関する事務担当者説明会」)。教職課程を編成するには、教職課程コアカリキュラムの内容や「校長及び教員としての資質の向上に関する指標」を踏まえるだけでなく、大学や担当教員による創意工夫を加え、かつ、体系性を有した教職課程になること等を留意しなければならない。また、教員は、学生が教職課程コアカリキュラムの「全体目標」・「一般目標」・「到達目標」の内容を習得できるようシラバスを作成し、かつ、授業を設計・実施しなければならなくなった。
具体的には、「自己実現」・「規範意識の醸成」・「自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性」等々が全体目標・一般目標・到達目標として示されていて、閉口する。元来、これらをどのように考えるかは教員や学生の自由であり思想・良心に関わるから、国家が共通の目標として定義し強いることは出来ない筈である。教員と学生とが、毎日欠かさず各目標に達し得ているかを点検し省みる“振り返り”を思い浮かべると、大学版「心のノート」、自己評価欄を取り入れた小・中学校用道徳教科書と同質であるように思えるのである。
「教育職員免許法及び同法施行規則に基づき全国すべての大学の教職課程で共通的に修得すべき資質能力を示す」(横須賀薫監修 渋谷治美・坂越正樹編著「概説教職課程コアカリキュラム」(2018年、ジダイ社)ことを目的とする教職課程コアカリキュラムは、大学版学習指導要領であって国家基準そのものである。同カリキュラムは現在、教職専門科目について定められているだけである。しかしながら早晩、教科専門科目分も設けられるであろう。教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会が求めているし、既に外国語(英語)教育カリキュラムが完成しているからである。遂に教育行政が、大手を振るって大学の教育内容に踏み込むようになってしまった。この状況を許した我々大学人の責任はとても大きい。 (つづく)
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