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2006年04月01日09時32分掲載
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沖縄密約
沖縄返還密約「吉野文六証言」の衝撃と米軍再編 池田龍夫(ジャーナリスト)
外交でも、内政でも重大案件の処理を誤ったため、後世にツケを残したケースは枚挙にいとまがない。いま問題化しているBSE(牛海綿状脳症)ライブドアなど�犹妖瀬札奪鉢瓩虜�乱もその例証だが、今月の論稿では35年もベールに包まれていた「沖縄返還密約」の背景を探り、直面する「米軍基地再編」問題との関連を考察してみたい。
「沖縄密約事件」は、西山太吉・元毎日新聞記者が1971〜72年の取材過程で入手した外交秘密電文を暴露したのが発端。これに対し、時の佐藤栄作政権は「密約はなかった」と強弁し、逆に西山記者と外務省女性事務官(安川壮審議官付き)とのスキャンダルにすり替えて「外交機密漏洩事件」として断罪、真相を隠蔽してしまった。事件から30年経過したため米国外交文書が公開され、日本の研究者とメディアが究明した結果、2000年と2002年に「日本の400万ドル肩代わり密約」を裏づける外交文書が発掘された。ところが、日本の外交文書公開はいぜん不完全で、政府は�猝�約�瓩鯣歡蠅径海韻討い襦�このため西山氏は昨年4月「不当な起訴で記者活動を停止させられた」として、国に3300万円の損害賠償と謝罪を求める訴訟を東京地裁に起こし、現在審理中である。
▽ベール剥ぎ取った北海道新聞のスクープ
店ざらし状態の外交責任を問うための「西山・国賠訴訟」だったが、新聞の関心は何故か薄く、雑報程度の扱いに終始しており(沖縄県紙は相当の扱いだが)、沖縄密約事件が投げかけた�犧F�的意味�瓩�伝えられていないことに不満を感じてきた。このモヤモヤを吹き飛ばしたのが、北海道新聞2月8日朝刊の衝撃的スクープだった。 「沖縄の祖国復帰の見返りに、本来米国が支払うべき土地の復元費用を、日本が肩代わりしたのではないかとされる1971年署名の沖縄返還協定について、当時、外務省アメリカ局長として対米交渉に当たった吉野文六氏は、2月7日までの北海道新聞の取材に『復元費用400万ドル(当時の換算で約10億円)は、日本が肩代わりしたものだ』と政府関係者として初めて日本の負担を認めた」との特ダネ証言に、度肝を抜かれた。35五年前、スナイダー米公使と交わした「密約文書」の存在につき、吉野氏は今まで自筆のサインは認めたものの、「交換公文の内容は一切覚えていない」とシラを切り続けてきたからである。
西山氏は1971年入手した秘密電文をもとに「沖縄にある米国資産などの買い取りのため、日本が米国に支払う3億2000万ドルの中に400万ドルが含まれている」との疑惑を発掘、特ダネとして追及した。この400万ドルは、米軍が接収していた田畑などの復元のため米国が日本に支払うと約束していた費用。吉野氏がこのほど北海道新聞記者の取材に応え、「国際法上、米国が払うのが当然なのに、払わないと言われ驚いた。当時、米国はドル危機で、議会に沖縄返還で金を一切使わないことを約束していた背景があった。交渉は難航し、行き詰まる恐れがあったため、沖縄が返るなら400万ドルも日本側が払いましょう、となった。当時の佐藤栄作首相の判断」と、�猝�約�瓩侶舒泙鮠攜世靴浸�実は極めて重い。
審理中の西山・国賠訴訟で原告側は「国家権力中枢の組織犯罪という巨悪が隠蔽され、公正な刑事裁判を受ける権利を奪われた」として、虚偽公文書作成罪・偽計業務妨害罪・憲法七三条三号(条約の国会承認)違反…等を掲げて弁論を展開。「できれば、吉野氏を弁護側証人に申請したい」との構えをみせている。(社民党は証人喚問を要請)
北海道新聞2月8日朝刊特ダネに即座に反応したのは共同通信。吉野氏に確認取材したうえで、同日夕刊用に配信した。際どい時間帯だったのに、共同電を夕刊一面大トップに仕立てた琉球新報・沖縄タイムスの価値判断を評価したい。他の主要地方紙も夕刊で追っていたのに、全国紙の感度の鈍さに驚いた。共同加盟社の東京(中日)新聞は8日夕刊に掲載したものの第二社会面3段扱い。毎日・朝日が2日遅れの10日朝刊、読売が11日朝刊掲載になったのは、ニュース判断を誤った失態と言わざるを得ない。朝日の二度にわたる関連特集や社説掲載など、主要各紙の�犹飜冥ど��瓩悗療慘呂惑Г瓩襪發里痢∩換饂罎琉靴い�ら受けるインパクトが希薄だったように思う。
87歳の吉野氏は、各新聞社の相次ぐインタビュー(民放ではテレビ朝日)に応じ、「400万ドル肩代わり」以外に、「当時公表されていなかったVOA(米政府短波放送)移転費1600万ドルも、日本が支払った3億2000万ドルに含まれていた」などの新証言を次々明かしている。「大蔵省(当時)のやったことだから細かいことは分からない」と言うが、積算根拠の薄弱な�狡呂澡皚瓩鮖拱Г辰董�沖縄を返還させた構図が透けて見える。
3月8日の参院予算委では福島瑞穂・社民党党首が政府の隠蔽体質を執拗に迫ったが、「密約は無かった」と繰り返すばかりだった。まさに�狃�い物に蓋�瓠沈睫誓嫻い魏未燭気覆だ�府の傲慢さは噴飯ものである。「米側の公文書と吉野証言で(密約は)歴史の事実として確定したものとしか言いようがない。政府がいくら否定しても説得力を持たない」(毎日2・11社説)など、各紙社説は一様に正確な情報開示を政府に求めている。 「問題は『機密漏洩』ではなく『密約』にこそあったはずだが、情報源をめぐるスキャンダルになり、密約追及はかすんでしまった。当時のマスコミ報道も含め、世論が操作される怖さを教訓として記憶しておきたい」(北海道新聞2・14社説)「名誉を回復し国家賠償と謝罪を求めるために起こした裁判の長さを考えれば、政府の責任はより重くなろう。もう一つ付け加えれば、西山氏と取材を続けながら、政府の意図に乗る形で『記者と外務省職員のスキャンダル』に終わらせてしまったメディアの責任も問われなければなるまい」(沖縄タイムス2・9社説)……等々の指摘もまた重要で、過去の報道姿勢を謙虚に反省し、今後の取材・紙面づくりに生かすよう望みたい。
▽巨額な沖縄海兵隊グアム移転費要求
現在、「在日米軍再編」をめぐる日米交渉が大詰めを迎えている。キャンプ座間への米陸軍第一軍団司令部移設など、自衛隊と米軍一体化運用が重点とみられ、沖縄駐留米海兵隊数千人のグアム移転、普天間飛行場のキャンプ・シュワブ沿岸部(名護市)への移設などの行方も注目されている。米側は海兵隊約1万8000人のうち8000人削減が可能と提案しているが、グアムへの移転費用(基地整備費なども含む)の日本側負担を求めてきた。その負担額は、総額100億ドル(約1兆1800億円)の75%…75五億ドル(約8850億円)もの巨額要求である。積算根拠が曖昧なことは、35年前「沖縄返還交渉」時の3億2000万ドル(当時の換算で約980億円)要求とそっくりな手口ではないか。「米側は過去の日米協議で『約80億ドル』と伝えているが、『建設する具体的な施設の数や内容など積算根拠がなく、腰だめの数字に過ぎない』(防衛庁幹部)という」との指摘(読売2・11朝刊)通りのお粗末さだ。
一事が万事、今回の米軍再編協議を通じて、米国の対日交渉のしたたかさ・冷徹さ、日本外交の詰めの甘さを痛感するばかりである。3月末までに、「米軍再編に関する日米最終報告」が出る予定だったが、「中間報告」(昨秋)に盛られた普天間飛行場の名護市移設と米海兵隊のグアム移転費用の日本側負担などをめぐって政府と地元自治体、日米政府間の具体的調整が難航、最終決定は四月に持ち越された。米軍基地に悩まされてきた地元感情を無視して強行を図る「米軍再編」の行方が、極めて憂慮される事態である。
▽「政府の政治責任を厳しく問え」
「沖縄密約問題は協定が結ばれた当時のウソばかりでなく、いまの日本の姿もあぶりだしている。それは、説明責任を放棄したまま根拠なく否定を続ける政府や外務省の体質であり、それを十分に追及しきれていないメディアの姿勢だ。国会で承認された協定に反する密約を交わし、ウソをつき続ける政府が責任を問われないこの国に、民主主義があると言えるのだろうか」――沖縄密約問題をウオッチしている田島泰彦・上智大教授(メディア法)の指摘(朝日3・9朝刊)に共感する。
「沖縄」をめぐる新旧の大テーマを比較検討してみて、35年前の「沖縄密約」のツケが、「日米同盟」の名のもとに悪影響を及ぼし続けている現実を改めて痛感させられた。 「基地の島オキナワ」の厳しい状況はなお継続している。険しい日米関係の現状を踏まえ、「吉野証言」の重みを反芻し、「西山国賠訴訟」を見詰めていくべきだろう。
(本稿は、「新聞通信調査会報」4月号に掲載された「プレスウォッチング」の転載です)
*池田龍夫氏のプロフィール 1930年(昭和5年)生まれ。成蹊大学政治経済学科卒業。毎日新聞整理本部長、中部本社編集局長などを歴任、現在はフリージャーナリスト、日本記者クラブ会員。著書に『崖っぷちの新聞』(花伝社)、『新聞の虚報・誤報』(創樹社)など
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