東京地検特捜部は07年11月8日、軍需専門商社「山田洋行」元専務の宮崎元伸容疑者(69)=日本ミライズ前社長=らを業務上横領などの疑いで逮捕した。防衛利権をめぐる疑惑にどこまで捜査の手が及ぶかが注目されるが、防衛省と特定の軍事関連企業との疑惑に視野を限定すべきではないだろう。 今こそその底に潜む「政軍産官複合体」という構造的巨悪の存在に「市民の視点」で目を光らせ、メスを入れるときである。日米安保=軍事同盟を支える政軍産官複合体を聖域視する時代は終わりつつある。
▽大手6紙の社説はどう論じたか
大手6紙の社説(11月9日付)はどう論じたか。見出しと主張(要点)を紹介する。 *朝日新聞=元専務逮捕 防衛利権の疑惑に迫れ 兵器や装備品の調達にからむ不正や疑惑は後を絶たない。金額がふくらむうえに、機密の壁に囲まれ、外部から見えにくいのも一因だろう。 戦前では、軍艦などの輸入をめぐり、旧日本海軍の高官らがワイロを受け取ったシーメンス事件が有名だ。戦後も70年代にP3C哨戒機やE2C早期警戒機の売り込みで政府関係者へ金が渡った疑惑が浮かんだが、解明に至らなかった。 国会は(中略)特捜部まかせにせず、防衛利権の疑惑に迫ってほしい。
*毎日新聞=元専務逮捕 防衛利権の闇に切り込め 前次官は(証人)喚問で、元専務との宴席に防衛庁長官経験者ら複数の政治家が同席したことも証言した。山田洋行が政界とどのようなつながりがあり、もたれ合う関係がなかったのかどうかについても、捜査を尽くして解明してもらいたい。 防衛装備品の調達総額は年間2兆円にも達する。その巨額の利権の背後でうごめいているとみられる政官財界の癒着の構図をこの際、徹底してあぶり出すことを、特捜部の捜査に望みたい。
*読売新聞=元山田洋行専務 事件は防衛省まで広がるのか 守屋前次官は2003年、航空自衛隊の次期輸送機(CX)のエンジン選定で、当時の防衛庁の装備審査会議の議長として米ゼネラル・エレクトリック社(GE)製の採用にかかわった。GEは、山田洋行と販売代理店契約を結んでいた。 年2兆円に上る防衛装備品の市場は、製品の特殊性などからメーカーが限られ、随意契約の比率が高い。防衛省側と業者の癒着を生みやすいとされる。 守屋前次官の職務権限に絡む便宜供与はなかったのか。実態の徹底解明を望みたい。
*東京新聞=元専務逮捕 防衛利権の闇を突け ゴルフなどの過剰接待の背後に、誰もが利権の存在を疑った。防衛省首脳と親密だった防衛商社元専務が東京地検に逮捕された。“軍”と「業」との癒着の実態や、利権の闇の徹底解明が望まれる。 「政」への疑惑もある。旧防衛庁長官だった額賀福志郎財務相側と久間章生元防衛相側に、山田洋行から「結婚式の車代」が払われたとされる。ほかの防衛族議員にも、山田洋行から政治資金パーティーに多額の献金がなされている。昨年度までの五年間だけでも同社は百七十四億円もの巨額契約を受注し、しかもその九割が随意契約だった。 そこに政・官が絡んでいたとしたら、防衛利権をめぐる大事件である。「闇」が「薮(やぶ)」となってはならない。「闇」の深奥まで捜査は迫ってほしい。
*日経新聞=防衛利権めぐる疑惑の徹底糾明を 主張(要旨)は略 *産経新聞=元専務逮捕 守屋前次官との癒着暴け 同上
今回の軍需専門商社「山田洋行」(東京都港区)の元専務逮捕事件は一軍事関連企業と防衛省との疑惑にすぎないとみるのか、それともそれは「氷山の一角」であり、その底に潜む構造的巨悪に視点を注ぐのか、そこが問題である。上記の社説の中では東京新聞が「軍・業・政の相互癒着」の闇の実態に迫れ、という趣旨の主張を展開している点を評価したい。
▽兵器生産と「軍産複合体」の成長を懸念する社説
東京新聞社説が言及している「軍・業・政の相互癒着」こそが構造的巨悪というべき存在である。ここで今から20年以上も前のこと、軍拡路線を走りつつあった中曽根政権時代の一つの社説(要旨)を紹介しよう。「兵器生産が成長するとき」と題してつぎのように書いている。
1982年度(昭和57年度)の防衛調達(契約)総額が、ついに一兆円の大台を突破した。一兆円の大台乗せはもちろん戦後初めてである。(中略)今後の年間防衛調達額は一兆円をはるかに超える規模にふくらんでいくことは避けられない。 軍拡の危険性を繰り返し指摘してきたが、防衛費突出とともに兵器生産もひとり歩きを始めたのだろうか。防衛調達額一兆円突破の意味を考えないわけにはいかない。
まず指摘したいことは、兵器生産の増加とともに防衛費そのものが自己肥大していく危険である。戦闘機や護衛艦など高価な兵器はほとんど後年度負担方式と呼ばれるツケ払い方式によって調達される。たとえば最新鋭戦闘機F15は1機115億円で、83年度(昭和58年度)予算では13機、総額約1500億円分を認めたが、実際に予算に計上したのは、そのうちのわずか0.2%分の3億円強にすぎない。残りは全額後年度負担として次年度以降のツケに持ち越された。83年度防衛予算の後年度負担額は全部で2兆円にものぼっている。 このツケは次年度以降の予算に計上される。このツケの支払い分が年々ふえており、いまでは防衛予算のなかで30%近くにまで達している。 財政赤字下で財政再建が叫ばれながら、その裏では、実はこのような防衛費突出を促す事態が進行しているのである。
わが国の兵器生産は三菱重工、川崎重工、三菱電機、石川島播磨重工、東芝、日本電気など少数の巨大企業に集中している。半面、兵器のエレクトロニクス化に象徴されるように高度の技術集約化が進むにつれて、技術力の高い中堅企業の防衛分野への進出もみられ、軍事関連企業数は年々ふえている。こうして防衛産業のすそ野は着実に広がりつつある。 このことは、とりわけ景気低迷期には産業界に軍需への期待を抱かせ、それがまた防衛費を突出させていくという、双方のもちつもたれつの関係が成熟する危険なコースへと踏み込んでいく。
長期的視野に立ったとき、経済の軍事化が日本経済の将来にとってプラスでないことは明らかである。 なによりも、かつてアイゼンハワー元米大統領が警告した「軍」と「産」との相互依存体である軍産複合体が根を張っていくことを恐れる。政治、経済の両面にわたって「軍」の顔が大きくなると、それを押し戻すことはなかなかむずかしいからである。
以上は毎日新聞社説(1983年4月11日付)で、筆者は実は私(安原)である。ここで取り上げられている83年度防衛予算規模(次年度以降に持ち越される後年度負担分を除く実際の支出額)は約3兆円で、その後脹らんで現在の07年度防衛予算規模は約5兆円となっている。 後年度負担方式というカラクリと並んでもう一つ、注目すべきことは、当時すでに「軍産複合体」が肥大化していく懸念を指摘している点である。この「軍産複合体」は今日、どこまで肥大化し、どういう存在になっているのか。
▽守屋事件は氷山の一角! 軍産癒着の温床を解体しよう!
「みどりのテーブル」(環境・脱成長・平和の政党をめざす組織で、去る7月末の参院選東京選挙区で川田龍平氏の当選に尽力した)の情報メール(11月6日付)で流された「日米安保戦略会議にNO!を」と題した記事(要旨)を以下に紹介する。 発信元は 杉原浩司氏(核とミサイル防衛にNO!キャンペーン)で、「守屋事件は氷山の一角!軍産癒着の温床を解体しよう」という主張には同感である。ここに登場している「日米安保戦略会議」はすでに終わったが、昨今の軍産複合体がどういう動きをみせているのかを知る手がかりになる。記事は次のような見出しから始まっている。
戦争屋の談合=「日米安保戦略会議」をぶっ飛ばせ!
軍事利権に関与する国防族・官僚の「ドタキャン」続出! 守屋事件は氷山の一角!軍産癒着の温床を解体しよう!
2007年11月7日から9日まで「第10回 日米安保戦略会議」が東京・港区のニューピアホールで開催される。主催は超党派(自公民)の新旧国防族議員で作る「安全保障議員協議会」とブッシュ政権に極めて近い米「ネオコン」系シンクタンクの「ヘリテージ財団」、さらに日米安保の“フィクサー”を自任する秋山直紀が仕切る外務省所管の社団法人「日米平和・文化交流協会」と「中央政策研究所」である。
今年のメインテーマは「新しいアジアと日米同盟」。パネルディスカッションは「日米軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結後における日本の責務」「新ミサイル防衛構想」「ミサイル防衛と日米防衛技術交流」「米国におけるNBCテロ対策」「中国の拡大する軍事的脅威」「サイバーテロ対策」の各テーマで行われる。また、恒例となっている米巨大軍需産業による兵器プレゼンテーションや兵器見本市(防衛装備展)も開催される。
今回の戦略会議は向かい風にさらされている。守屋前防衛事務次官による軍産癒着事件の発覚を受けて、その最中で開催されることに批判が高まっている。発売中の『週刊ポスト』(11月16日号)は「日米防衛族『4兆8000億円利権』人脈図」という特集を組んだ。その中で「11月7日から都内で開かれる『日米安全保障戦略会議』― つまりは『兵器見本市』に注目せよ」と見出しを打ち、戦略会議への厳しい批判を展開している。
それによると、守屋事件発覚と同時に、“VIPゲスト”たちが雪崩を打って“ドタキャン”を始めたようである。久間章生(入院)、石破茂、長島昭久(民主党「次の内閣」元防衛庁長官)、麻生太郎らの政治家に加えて、防衛省幹部で“守屋派の2K”と呼ばれる金澤博範(防衛政策局長)、河村延樹(防衛政策課長)も欠席に。『ポスト』は「『政官業』の癒着の温床となる条件がこれほどそろった舞台はないからこそ、守屋疑惑のさな か、出席予定の政治家や官僚が二の足を踏んでいるのではないのか」と書いている。
また、『週刊文春』(11月8日号)も「自民・民主『防衛族議員』10泊11日『秘』米国ツアーリスト」という記事で、「過去の戦略会議では、基調講演した西岡喬・三菱重工会長が、武器輸出三原則の緩和や、その前提となる日米間の軍事機密情報保護協定の締結を求めており、日米政府は今年五月、締結に合意した。三菱に代表される日本の軍需産業が代理店契約で得る利益はいうに及ばず、アメリカ製兵器のライセンス生産や米国艦船の国内での修理を請け負うなど、半永久的に莫大な利益を得ることができるようになる」とのジャーナリストのコメントを紹介している。
“戦争の親玉”である日米「軍産学複合体」の増殖にストップをかけるまたとないチャンスである。
▽「ミサイル防衛」という名の構造的利権と「政軍産官複合体」
朝日新聞(11月10日付)によると、船橋洋一・朝日新聞社主筆は9日、東京都内の米国大使公邸で来日中のロバート・ゲーツ米国防長官と会見した。その際、長官は、北朝鮮の核兵器の脅威に対抗する形で、米国が「核の傘」と呼ばれる拡大阻止を今後も日本に提供し続けていく方針を、前日の石破防衛相や高村外相との会談で表明したことを明らかにした。ミサイル防衛(MD)での日米協力はそのためにも有用だと強調。北朝鮮の非核化が実現してもMD網は維持する考えを示した。
特に注目すべき点は、MDに関するつぎの問答である。 ― 仮に北朝鮮が非核化したらミサイル防衛は無用にならないか。 長官「そうは思わない。世界は非常に不確定で、15年後は予想できない。重要なのは、先を見通した軍事情報力と同盟関係の維持だ」
つまり北朝鮮が非核化(=10月3日の日中米韓露と北朝鮮の6者協議で合意した核の無能力化)を実現しても、日米協力によるミサイル防衛(日本政府はミサイルの導入・配置を03年12月の閣議ですでに決定している)は必要だと米国防長官が明言していることである。このミサイル防衛構想は当初は北朝鮮の核の脅威への対抗策として浮上したが、今では「世界は非常に不確定」という正体不明の脅威を理由にあくまでもミサイル防衛プランを続行していく姿勢を明確にした。 飛来するミサイルをミサイルで撃ち落とすというミサイル防衛は、技術的な有効性が疑問視されているだけではない。総額1兆円を超える巨額の兵器ビジネスでもあり、財政赤字が巨額になる中で巨額の血税の浪費が半ば合法的に続いていく仕掛けである。笑いが止まらないのは日米の「政軍産官複合体」という闇に潜む構造的巨悪であろう。
防衛省と兵器メーカー上位10社との契約額(2006年度・億円)はつぎの通り。 �〇杏�重工業2776 �∪邵蟒店�業1306 ��三菱電機1177 �て�本電気831�ィ鼻ィ函ィ鼻ゥ泪螢鵐罐淵ぅ謄奪鼻弊仞酖臟屠畚店�と住友重機械工業の共同出資会社)446 �ι抻猟味苅苅院´�東芝423 �╂仞酖臟屠畚店�業365 ��小松製作所363 ��富士重工業199 これらの企業は年間1000万円から3000万円程度の自民党への献金を行っており、しかも防衛官僚のこれら兵器企業への天下りは、多い企業では100名近くに上っている。こうして「構造的利権の中の政軍産官複合体」と呼ぶにふさわしく、日本の政軍産官を腐食させる構造的要因ともいえる。
1961年アイゼンハワー米大統領がその任期を全うして、ホワイトハウスを去るにあたって全国向けテレビ放送を通じて、警告を発した米国の「軍産複合体」は、今日では古典的な呼称となっており、これではその実態を十分に捉えきれない。 今日の日本版政軍産官複合体はアメリカほど巨大ではないが、その構成メンバーは、首相官邸、国防族議員、防衛省と自衛隊、外務省、エレクトロニクスを含む多様な兵器メーカー、保守的な科学者・研究者、メディア―などである。だからもっと範囲を広げて「政軍産官学情報複合体」と呼ぶのが正確かもしれない。
一口にいえば、日米安保体制=軍事同盟推進派のグループである。しかも日米安保体制=軍事同盟を軸に日米の政軍産官複合体は連合体となっているところに特色がある。この政軍産官複合体は聖域視されてもいるだけにその構造にメスを加えるには地検特捜部の手に余るところがある。市民の批判の目が求められる。
なお「軍産複合体」については06年7月13日付でブログ「安原和雄の仏教経済塾」に掲載した「MDでほくそ笑む軍産複合体―北朝鮮ミサイル〈脅威〉の陰で」も参照して下さい。
*本稿は「安原和雄の仏教経済塾」からの転載です。
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