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2010年05月29日10時32分掲載
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普天間問題
日米安保見直し、軍事費削減が課題 新聞投書にうかがえる民意の多数派 安原和雄
沖縄の米軍基地移設をめぐって日米両政府と地元民とが真っ向から対立する形となってきた。28日の「日米共同発表」は、移設先として名護市辺野古崎地区と鹿児島県徳之島を明記、これに対し地元民の拒否姿勢は揺るがない。その今後の行方を大きく左右するのは民意である。新聞投書にうかがえる民意の多数派がめざす方向は何か。 それは「日米安保の見直し」、「軍事費の削減」であり、さらに「軍事力依存は時代錯誤」、「米軍抑止力は疑問」などの声となっている。つまり「在日米軍基地の国外撤去」にほかならない。日米両政府がこれら多数派の民意を無視すれば、「60年安保反対闘争」の21世紀版「米軍基地撤去闘争」が日本列島上に広がる可能性も否定できない。
▽ 沖縄米軍基地の移設に関する日米共同発表
日米両政府(日米安全保障協議委員会)は28日午前、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題に関する「日米共同発表」を公表した。その骨子はつぎの通り。これについて鳩山政府は同日夜の臨時閣議で決定した。 (1)北東アジアの最近の情勢と米軍の抑止力について ・北東アジアにおける安全保障情勢の最近の展開により、日米同盟の意義が再確認された。 ・沖縄を含む日本における米軍の堅固な前方のプレゼンスが、日本を防衛し、地域の安定維持のために必要な抑止力と能力を提供することを確認した。 <安原のコメント> 「北東アジアにおける安全保障情勢の最近の展開」とは、韓国哨戒艦沈没に絡んで再浮上してきた「北朝鮮脅威」説を指しており、それとの関連で「米軍の抑止力」を強調している点が見逃せない。
(2)基地移設先について ・普天間飛行場の代替施設の滑走路は沖縄県名護市のキャンプ・シュワブ辺野古崎地区とこれに隣接する水域に設置する。 ・米海兵隊などの訓練移転の拡充について鹿児島県徳之島を含め、活用を検討する。 <安原のコメント> 基地移設先として浮上していた辺野古と徳之島が明記されている。しかし地元民が強硬に反対していることを重視しなければならないだろう。
以上の日米共同発表と閣議決定の趣旨に異議を唱える形となっているのが、以下の新聞メディアの「読者の投書」に表れている「民意」である。5月の大手紙から転載した。これはブログ<安原和雄の仏教経済塾>に掲載(5月21日付)した「軍事力で平和は守れるだろうか? 朝日新聞投書に映し出される民意」の続編でもある。
▽ 読者の投書(1) ― 軍事力依存の時代ではもはやない
*朝日新聞(5月24日付)=軍事力依存は時代錯誤では (神奈川県海老名市 無職 男性 70歳)=氏名は省略。以下同じ 「軍事力で平和は守れない」(19日)に同感である。 世界最強の軍事力を誇る米国でさえ9・11同時多発テロを防げなかった。イラクやアフガニスタンでは苦戦つづきだ。もはや軍事力で他国を支配しようとするのは時代錯誤ではないか。タイやミャンマーでは軍隊が自国民に銃を向けている。軍隊は国家権力を守る組織であって、必ずしも国民を守るためのものではないことを映像が示している。 我が国では自殺者が12年連続で3万人を超える。イラク戦争における米兵戦死者数(公式発表)をはるかにしのぐ数だ。にもかかわらず他国の侵略を想定して膨大な防衛予算を割くことが果たして理にかなうだろうか。 国民にとっての安全保障には、災害や自殺、犯罪などによる被害の防止・軽減が含まれよう。将来の食料・燃料不足はどうだ。現在の供給国が永続する保証はどこにもない。国民の生命と安全守るには、軍事力依存ではなく、積極的な友好外交の推進とともに自給による国力を高めることがまず必要ではないか。
<安原の感想> 狭い「平和=非戦」観から広い「平和=非暴力」観へ 「軍事力依存は時代錯誤」、「軍事力で平和は守れない」は正論である。しかしあえて問いかけたい。「平和とは何か」と。狭い「平和=非戦」観ではなく、広い「平和=非戦を含む非暴力」観ととらえたい。 そうすれば非戦だけでなく、構造的暴力ともいうべき「自殺」、「犯罪」、「災害」、「食料・燃料不足」などをどう克服するかが「平和=非暴力」実現の重要な課題として浮上してくる。だから軍事力を行使する戦争がないとしても、平和をつくる日常的な努力が欠かせない。
▽ 読者の投書(2)― 米国主導の日米同盟の見直しを
*読売新聞(5月16日付)=米主導見直しも (埼玉県鴻巣市 無職 男性 63歳) 沖縄の普天間問題は、国民に日米同盟について真剣に考えさせる契機になっているようだ。戦後、幸いなことに、日本本土を脅かすような有事は起きていない。そのため、いざという時に、日米同盟がどれほど有効なのか、わかりにくいのが国民の実感だろう。 オバマ米大統領は「核なき世界」を訴えている。日本は、米国の「核の傘」に頼ってきたが、米国主導のこれまでの同盟や日米地位協定を見直してもよいのではないだろうか。 長い間、沖縄に負担を強いてきた自民党も、普天間問題で鳩山政権を批判しているだけではだめだろう。
<安原の感想> 日米安保・同盟への疑問は脇役か 上記の投書は、読売特集「日米同盟を考える」の一つである。その他の見出しを拾うと、「経済成長を支えた」「東アジアに貢献」「通商ルートを守る」「(日米同盟)強化以外にない」などの日米安保是認・強化論が主役になっている。それに「(同盟)意義再考の好機」、「米主導見直しも」(内容を上で紹介)、「納得できる案を」などの疑問、批判論を脇役として配してある。 読売社説は周知のように日米安保・軍事同盟を是認・推進する立場で一貫しており、その読売にしては社論と異なる投書にも配慮しているということか。
▽ 読者の投書(3)― 日米安保が解消されても問題はない
*毎日新聞(5月12日付)=日米安保条約見直しを交渉せよ (千葉市稲毛区 会社嘱託 男性 63歳) また密約が明らかになった。旧政権は国民に知らせることなく、米国に対して重要事件以外は裁判権を放棄するという屈辱的な密約を結んでいたことだ。駐留米軍の犯罪に対し、何も言わないとすることでは独立国ではない。なぜこれまでに卑屈でなければならないのだろう。先の戦争に負けたからか? 米国と交渉するなら、まず日米安保条約の見直しから交渉すべきだ。米軍が日本に駐留しているのは、安保条約が存在するからである。日米安保条約に立ち入らない交渉では、卑屈で隷属的な交渉しかできないのは当然である。 仮に日米安保条約が解消されても、何の問題があるのだろうか? 日本の防衛予算は世界第5位であり、もはや軽装備の国家ではない。軍事的に日本は米国から攻撃される以外に不安はないはず、と思うのは私の妄想だろうか。
<安原の感想> 日米安保の見直しこそが本筋 「(日本は)独立国ではない」という指摘はその通りといえる。そういう想いが国民の間に広がりつつあるのではないか。鳩山首相の迷走がいわば「寝た子」を起こす効果をもたらしつつある。これは首相の「意図せざる貢献」ともいえるのではないか。 しかし本筋はやはり安保の見直し交渉である。これを視野に収めないただの「米軍基地移設先探し」とその「強要」は、沖縄県民の怒りをかき立てるだけではない。「60年安保反対闘争」の21世紀版「米軍基地撤去闘争」を日本列島上に広げる可能性もある。
▽ 読者の投書(4) ― 日本は本当に米軍に守られてきたのか
*朝日新聞(5月9日付)=米軍抑止力論 再考こそ必要 (東京都昭島市 無職 男性 68歳) 鳩山首相が5月4日、米軍普天間飛行場の移設先を「最低でも県外」とする方針の転換を沖縄県側に伝えた。米海兵隊の「抑止力」について考え違いがあったという。抑止力とは何か。 北朝鮮脅威を唱える向きがあるが、休戦ラインで向き合う韓国に米海兵隊はいない。海兵隊が守りの部隊ではなく、急襲先兵隊である事実を直視するべきだ。 戦後65年、安保条約締結半世紀、日本は本当に米軍に守られてきたのか。沖縄を拠点に米軍がイラク戦争やアフガン戦争でどういう役割を果たしたか。米軍は日本を防衛するために駐留しているわけではない。私の地元の横田基地は朝鮮戦争、ベトナム戦争の度に強化された。基地のそばに住んでいれば、米軍基地が日本を防衛するためのものではないことがよくわかる。 キーティング前米太平洋軍司令官でさえ、海兵隊の沖縄駐留を「好ましいが、絶対に必要というわけではない」と語った(4月16日朝刊)。沖縄の軍事拠点たる現況を客観的に見据えて抑止力論及び安保条約を再考しない限り、沖縄はアメリカの「占領下」状態から抜けられない。参院選ではそこもしっかり考えたい。
<安原の感想> 韓国哨戒艦沈没と北朝鮮脅威論と またもや台頭しつつある北朝鮮脅威論が示唆するものは何か。脅威論の火付け役の一人は、去る5月21日来日したクリントン米国務長官である。例の韓国哨戒艦沈没(3月26日発生、外務省ホームページには「沈没事案」と書かれている)について同国務長官と鳩山首相との間で意見交換が行われ、「北東アジアが緊張している現在こそ日米同盟が重要」との認識を共有したと伝えられる。米軍普天間基地移設に関する日米共同発表(5月28日)でも「北東アジアにおける安全保障情勢の最近の展開」という表現で間接的に「沈没」に触れている。 ここで連想されるのは、北ベトナムのトンキン湾事件(注)である。今回の「沈没」の真相はともかく、それ以降鳩山首相は「米海兵隊の抑止力論」の自縄自縛に陥り、公約の「国外、県外移設」から「県内」へと逆走した。しかも日米安保絶対論に執着している事実は消えない。 (注)1964年北ベトナムの哨戒艇が米海軍の駆逐艦に魚雷を発射したとされる事件で、米国がベトナム戦争に本格的に介入し、北爆を開始するきっかけになった。しかし7年後の71年、事件は米国によって仕組まれたことが判明した。
▽ 読者の投書(5)― なぜ、極度の我慢を強いられるのか
*朝日新聞(5月9日付)=基地の騒音・恐怖、厚木でも (相模原市南区 会社員 男性 58歳) 私の住む市は米軍第5空母航空団の厚木飛行場に隣接する。上空は飛行ルートであるらしく、横須賀基地に艦船が寄港しようものなら、数分間隔で離着陸訓練を繰り返す。その爆音たるや。何十年もの間、常に爆音と墜落の恐怖を抱きながら私は普通に納税し暮らしてきたが、この周辺では防音の補助もない、減税などの恩恵もない。 国に問いたい。なぜ、基地周辺に住む住民だけがこのような極度の我慢を強いられるのか。広大な敷地にボウリング場、ゴルフ場まで完備し、戦後65年近く経つのにいまだに思いやり予算と称して米軍に膨大な予算をばらまき続ける国。屈辱的とも思える日米地位協定。一体、この国の政治家は何をやってきたのか。 今こそ冷戦時代に構築された日米安保条約を見直し、米軍駐留なき安全保障へと大きくかじを切り替える時期ではないか。基地周辺に住む住民の一人として、普天間報道を聞く度に感じている。
<安原の感想> 米軍向け「思いやり予算」こそ「事業仕分け」を 米軍基地に苦しむ住民は沖縄だけではない。米軍基地は日本列島上の各地に散在しており、「なぜ、基地周辺に住む住民だけが極度の我慢を強いられるのか」という疑問は、正当である。 しかも基地内にはボウリング場、ゴルフ場、さらに教会(キリスト教)なども付設されている。文字通り「至(いた)れり尽(つ)くせり」の行き届いたサービスで、それに陰に陽に貢献しているのが「思いやり予算」(防衛省予算に計上されている在日米軍駐留経費負担の通称で、累計は3兆円を超える)である。これこそ民主党政権の得意とする「事業仕分け」の対象にすべきではないか。
▽ 読者の投書(6) ― 軍事費削減が急務であることを認識する時
*毎日新聞(5月5日付)=軍事費削減で子供たちに教育を (さいたま市大宮区 高校生 17歳) 学校で世界の教育について学んだ。あまりにも多くの子供たちがしっかりとした教育を受けられていないことに、衝撃を受けた。児童労働や貧困、学校や先生の不足、そして戦争などが理由だった。学校に行って多くを学べることに感謝しなければ、と改めて思った。 世界中の子供たちに教育を提供するには、世界の軍事費の約150分の1で済むという。自分の国を守ることも大切だが、子供たちが整った環境の下で教育を受けられること、どれだけ素晴らしいことだろう。 米ロで新たな核軍縮条約が調印された今、各国が軍事費削減に取り組み、教育に割り当ててほしい。まず私たちにできることは、多くの人がこの現状に目を背けないで知ることだと思う。今も字すら読めない子供が、家族や自分のために働いているのだ。
<安原の感想> 軍事費削減で教育、医療、福祉の充実を 「各国が軍事費削減に取り組み、教育に割り当ててほしい」という高校生の着眼点が素晴らしい。在日米軍基地の国外撤去、日米安保の見直し(解体・破棄も含む)も不可欠の視点だが、同時に核廃絶を含む軍縮そのものをどう進めるかも極めて重要な課題である。それを自らの「世界の教育」学習に基づいて指摘したのがこの高校生の投書である。 世界の軍事費(2009年)は総額1兆4640億ドル(1ドル=90円で換算すると、約132兆円)、うち米国が6070億ドルで、全体の4割強を独占している。軍事費は巨大な浪費であり、経済基盤を弱体化させる。これが米国が先進国の中で貧困大国に転落している背景でもある。米国をはじめ各国は軍事費を大幅に削減して、浮いた財政資金を教育、医療、福祉など平和(=非暴力)な暮らしの質的改善に振り向けることが急務というべきである。
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