・読者登録
・団体購読のご案内
・「編集委員会会員」を募集
橋本勝21世紀風刺絵日記
記事スタイル
・コラム
・みる・よむ・きく
・インタビュー
・解説
・こぼれ話
特集
・市民活動
・みる・よむ・きく
・国際
・農と食
・核・原子力
・アジア
・反戦・平和
・入管
・欧州
・中国
・イスラエル/パレスチナ
・文化
・市民活動告知板
・人権/反差別/司法
・教育
・沖縄/日米安保
・難民
・医療/健康
・環境
・中東
・スポーツ
提携・契約メディア
・AIニュース
・司法
・マニラ新聞
・TUP速報
・じゃかるた新聞
・Agence Global
・Japan Focus
・Foreign Policy In Focus
・星日報
Time Line
・2024年10月06日
・2024年10月05日
・2024年10月04日
・2024年10月03日
・2024年10月02日
・2024年10月01日
・2024年09月30日
・2024年09月29日
・2024年09月28日
・2024年09月27日
|
|
2012年07月16日16時49分掲載
無料記事
印刷用
経済
金利不正捜査で巨額罰金 ―バークレイズ銀不祥事の背景とは
英国の大手銀行の1つバークレイズ銀行が、先月27日、短期金利の国際的指標となる「ロンドン銀行間取引金利(LIBOR=ライボー)」の不正操作により、英米の捜査当局から総額2億9000万ポンド(約360億円)の罰金の支払いを命じられた。IBORは住宅ローンなどの設定に基準として使われる金利で、私たちの生活に直結する存在だ。大手銀行への信頼感をさらに損なわせる不正行為に、金融当局ばかりか、政治家らも強い怒りを表明している。(ロンドン=小林恭子)
以下は、在英邦人向け雑誌「英国ニュースダイジェスト」最新号に掲載された拙稿の転載である。
***
近年の世界的金融危機で、税金をつぎ込んで大手銀行を救済する羽目になった英国では、国民の大手銀に対する見方は厳しい。多くの人の生活感覚からかけ離れた巨額報酬を受け取る大手銀の経営者たちは、しばしば批判の対象となる。中小企業の経営者からすれば、「貸し渋り」に終始する銀行は決して自分たちの味方とはいえない存在だ。
大手銀行やその経営陣に対する不満がうずまく英国で、先月末、新たな不信の種ができた。300年の歴史を持つバークレイズ銀行が市場金利を不正に操作し、米商品先物取引委員会(CFTC)、米司法省、英金融サービス庁(FSA)によって、合計2億9000万ポンド(約360億円)の罰金の支払いを命じられたのだ。それぞれの監督庁にとっては過去最高の罰金額だ。
―LIBORとは?
問題となったのは、国際的な短期金利指標、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR、ライボー)やそのユーロ版EURIBORだ。LIBORは、銀行間市場で借り入れる際の金利を各行が申告し、これに基づき英銀行協会(BBA)が毎営業日設定する。総額350兆ドル(約2京7877兆円)にも上る金融商品の指標として使われており、金融派生商品(デリバティブ)、住宅ローン、教育ローン、クレジットカードの金利の基準になる。
毎日変わるLIBORの金利のほんの小さな上下で、デリバティブ商品のトレーダーたちが大きな損をしたり、巨額の利を得ることもある。
LIBORの設定には、まず複数の有力銀行が、翌日の銀行間市場で借り入れる金利をBBAに申告する(実際の作業は金融情報会社トムソン・ロイターが行う)。申告数値をもとにトムソン・ロイターがLIBORを計算し、関係者に情報を流す。BBAが計算方法の詳細を発表する形をとる。
バークレイ銀では、2005年から08年にかけて、トレーダーたちが自行や他行の金利担当者に連絡を取って、自分たちが取り扱う商品のパフォーマンス向上に都合が良い数値を申告するように調整していた。また、2007年から09年の金融危機の頃、故意に低い金利を申告し、いかにも財政状態が良好であるかのように見せていたという。
不正操作疑惑は数年前から一部で報道されてきたが、金融業界の監督組織FSAは具体的な行動を取ることができないままでいた。LIBORは具体的な取引ではなく、有力銀行が提示する呼び値をBBAがまとめる形をとってきたため、業界による「私的な活動」という面があったことや、LIBORの設定行為がFSAが刑事捜査を行う対象になっていなかったことが背景にある。
LIBOR市場は「少数の有力銀行に」支配され、銀行の所有者(株主)には、「金融機関の経営者を監督する機会はほとんどなかった」(フィナンシャル・タイムズ紙、6月29日付)のだ。
BBAは今年3月から、LIBOR設定方法の見直し作業を開始している。FSAによると、不正操作はバークレイズばかりではなく、20行ほどのほかの銀行でも行われていた。今後、詳細が明らかになりそうだ。
―誰が何を知っていた?
バークレイズ銀のLIBOR不正操作のみに限っても、経営幹部の中の誰がいつ、どこまで事態を認識していたかの解明が待たれる。
3日、バークレイズ銀は、不正操作にかかわる内部メモ(2008年10月9日付)を公表した。メモは、同日辞任したボブ・ダイヤモンド最高経営責任者(CEO)が、当時のCEOジョン・バーリー氏宛てに書いたものだ。
ダイヤモンド氏は、英中銀のポール・タッカー副総裁との電話での会話後、このメモを作成した。多くの政治家あるいは官僚が、バークレイズの申告金利がほかと比較して高い理由をタッカー氏に問い合わせていること、そして、バークレイズはタッカー氏からの「助言を必要としていない」が、「報告する金利が常に高く見える必要はない」、と同氏が述べたことを記録していた。
4日、ダイヤモンド氏が下院・特別委員会に召喚され、メモに言及。政治家あるいは官僚たちがバークレイズ銀のLIBORの高さに懸念を持っていることをタッカー氏に「警告された」と解釈した、と述べた。
同じく辞任したジェリー・デルミシェ前最高執行責任者(COO)は、低めのLIBOR設定を当局が容認したと解釈したといわれている。
しかし、9日、下院・特別委員会で証言を行ったタッカー副総裁は、バークレイズ銀に対し故意にLIBORを下げるよう示唆したことはない、と述べている。ダイヤモンド氏もタッカー氏も操作を知ったのは「最近」であったという。
10日には、バークレイズのマーカス・エイジアス会長が下院・特別委員会に召喚された。今年4月、FSA長官アデア・ターナー氏からバークレイズ銀行の規則を曲げるような経営方法を批判する書簡をもらっていたことや、ダイヤモンド氏のCEO辞任には、中銀のマービン・キング総裁の強い意向があったことなどを明らかにした。
―たった一人、得をした人は?
キング総裁の任期切れは来年の6月だが、同氏を引き継ぐのは、タッカー副総裁というのがもっぱらの定説であった。しかし、ここにきて、次期総裁就任への道が危うくなってきた。もし不正操作を容認していたとしたら大問題であろうし、容認どころか、事態の把握が「最近」であったとしたら、どこを見ていたのかという話になる。
変わって、意外なところから出てきた有力候補者が、ターナーFSA長官である。英「エコノミスト」誌の記事(7月14日付)によれば、近い将来、銀行の監督業務がFSAから中銀に戻る見込みがあり、ターナー氏にとっては、現在のFSAでのキャリアを生かせる職となる。バークレイズ銀の不祥事発覚で、もしたった一人、得をした人がいるとすれば、総裁就任に最も近い位置に立ったターナー氏かもしれないという。
ここ数年、銀行の不祥事が目立つ。支払保障保険(関連キーワード、参照)の誤った販売で、複数の銀行が巨額の払い戻しを余儀なくされた。LIBOR不正操作問題の発覚直後には、バークレイズを含む大手銀行による金利スワップ取引における誤販売が発覚した。
オズボーン財務相がLIBOR問題で金融街シティの「強欲体質」を指摘したが、業界内を刷新する大きな機会がいよいよ到来したともいえる。果たして、どこまで「改革」が進み、国民の信頼を取り戻せるだろうか。
***
―金利不正操作事件の経緯
2005年6月:株価が上昇し続け、大手の銀行経営陣は巨額賞与を受け取る。米商品先物取引委員会(CFTC)によると、この頃からバークレイズ銀では、金融派生商品のパフォーマンスが自行に有利に働くように、LIBOR(ライボー、ロンドン銀行間取引金利)を極秘で操作していた。
2007年8月9日:BNPパリバ社がヘッジファンド部門から資金を引き上げ、市場に信用危機事態を発生させる。LIBORが上昇する。
8月31日:バークレイズ銀が英中銀の緊急融資枠を2週間で2度利用したことを認める。
9月:サブプライム問題で信用が悪化したノーザン・ロック銀で取り付け騒ぎ。バークレイ銀の経営陣は、同行の財務状況が悪化していないことを示すために、故意に低い金利をLIBORの決定の際に申告していたという。
2008年3月29日:米ウオール・ストリート・ジャーナル紙が、複数の国際的な銀行が不当に低い金利をLIBOR用に申告しているとする記事を掲載する。
同年夏:CFTCが内部告発者からの情報を受けてLIBOR不正操作に関わる調査を開始する。
2009年10月:英金融サービス庁(FSA)が同調査に公式に参加する。カナダ、日本、欧州委員会と協力。タッカー中銀副総裁がバークレイズ銀の投資部門担当者ボブ・ダイヤモンド氏(後、最高経営責任者=CEOに就任)と電話で会話。
2011年4月20日:バークレイズ銀、RBS、ロイズ銀、HSBCなど12の大手投資銀行がLIBORの不正操作を行ったとして、ウィーンを本拠地とする資産運用会社FTCキャピタルなどが訴えを起こす。
2012年6月27日:LIBOR不正操作で、バークレイズ銀がCFTC、米司法省、FSAによって、2億9000万ポンド(約360億円)の罰金の支払いを命じられる。
7月3日:ダイヤモンド氏がCEO職を辞任。前日にはエイジアス会長が引責辞任を表明したが、後任CEOを探す間、会長職にとどまることに。
4日:ダイヤモンド氏が下院・特別委員会で証言し、不正操作について中銀による暗黙の了解があったことを示唆。
6日:重大不正取締局が、LIBOR不正操作問題で捜査を開始したと発表。
9日:タッカー副総裁が下院・特別委員会で証言し、バークレイズ銀に対し、故意にLIBORを下げるよう示唆したことはない、と述べる。
10日:エイジアス会長が下院・特別委員会で証言。ダイヤモンド氏が2000万ポンド(約25億円)相当の退職金を辞退すると発表。
(資料:英新聞各紙)
***
―FSAが命じた、近年の巨額罰金支払いのリスト(金額順)
バークレイズ銀行:5950万ポンド(約74.4億円):2012年6月:銀行間貸出金利の操作未遂と不正報告
JPモルガン証券:330万ポンド:2010年6月:顧客の資金を自社の資金として保管し、顧客保護を怠った
ゴールドマン・サックス証券:1750万ポンド:2010年9月:米証券監督機構によって詐欺罪で取調べを受けていたことの報告を怠った
シティー・グループ・フィナンシャル・マーケッツ:1390万ポンド:2005年5月:ユーロ圏債権を大量に売却したことで価格を暴落させた (以上、資料:BBC,FSA)
―渦中の人物:元CEOボブ・ダイヤモンド氏
元バークレイズ銀行の最高経営責任者。雑誌「ニュ・ーステーツマン」が選んだ2010年の重要人物50人の1人。
米国マサチューセッツ州生まれの60歳。両親は教師だった。現在は、妻と3人の子供がいる。サッカーはチェルシー、野球はボストン・レッド・ソックスのサポーター。
大学講師から転職し、1970年代末、米モーガン・スタンレー証券会社の債権トレーダーとして名を馳せる。1992年に米投資銀行CSファースト・ボストンに転職した。バークレイズ銀行勤務は1996年から。2008年、米リーマン・ブラザース証券会社が破綻した際に、その主要資産の買収で大きな役割を果たす。このおかげでバークレイズの投資銀行としての国際的地位が一段と上昇した。昨年3月、最高経営責任者に就任。英国で最高額の報酬を得る企業トップといわれた。BBCによると、昨年の収入は給与、賞与、株オプションを含めて2000万ポンド(約25億円)に上る。今回のLibor不正操作事件で、ほか幹部らとともに賞与を辞退すると宣言したが、「辞任はしない」と述べたが、7月3日、辞任。
―関連キーワード:Payment protection insurance (PPI):支払保障保険
金融機関からの貸付や負債の支払いが失職、事故、病気、死などの理由でできなくなった場合のためにかける保険。
一定の期間、支払いを肩代わりするなどの利点がある。近年、この保険が適用されない金融商品の購入の際に勧めたり、十分な説明をせずに買わせる例が続出して、金融機関に対する国民の信頼感を下落させる要因の一つとなった。
現在では、金融サービス庁(FSA)の指導の下、不適切に販売されたと思う利用者は補償金を受け取ることができる。補償金の支払い総額は昨年1月時点では3600万ポンド(約45億円)だったが、今年4月では5億7050万ポンドに増え、金融機関にとっては大きな財政負担となっている。(ブログ「英国メディア・ウオッチ」より)
|
転載について
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。
|
|
|