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2006年03月01日11時58分掲載
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ライブドア事件
「市場原理主義」の退廃と歪んだ日米関係 池田龍夫(ジャーナリスト)
政治・社会の構造的欠陥が一気に噴き出し、世相の荒廃は深まるばかりである。狂乱の総選挙(05・9・11)以降に続発したスキャンダルは目を覆うばかり。民主党は「B・L・T・B」なる四点セットを掲げ、小泉政権の失政を弾劾し始めた。当初、「B=BSE(牛海綿状脳症)」「L=ライブドア」「T=耐震強度偽装」の三点だったが、高級官僚逮捕にまで発展した「B=防衛施設庁の官製談合」を加え四点セットになった。これほど多様な政治腐敗がクローズアップされたのは前代未聞。さらに追加して、「J=JRの大事故(福知山線・羽越線)」「Y=靖国問題の深刻化」「F=普天間基地移転(米軍再編)」の計七点セットの問題点を徹底究明してもらいたい。
すべて重大案件に違いないが、最も特異なケースとみられる「ライブドア問題」に絞って考察したい。この背景を探っていくと、日米両国の歪んだ関係に着き当たる。米国の強い要請で「市場経済路線」をひた走って陥穽にはまり、国家の屋台骨を揺るがす大失態を引き起こしたのである。
▽ホリエモンを担いだ自民党政権の罪
ライブドア騒動は一昨年のプロ野球買収劇に端を発し、昨年のニッポン放送・フジテレビ�狆茲端茲蠏爿瓩納匆馘�旋風を巻き起こした。いずれも不発に終わったが、「堀江貴文」という若大将(33歳)が�狄兄�代の旗手�瓩箸靴瞳�伝された。証券市場の時間外取り引きの盲点を衝き、ニッポン放送株を大量取得するなどの計略的M&A戦術。余りにも強引な手法に批判があったものの、世間の�狄裕き瓩魯Ε淵�登り。株分割を繰り返しては一般投資家を煽り、一時は時価総額7千億円を超す「IT企業」に急成長したのである。
2005年8月の郵政解散、総選挙(9・11投票)。「刺客」まで送って議席確保に狂奔した小泉純一郎政権は、広告塔としての�爛曠螢┘皀鷽裕き瓩北椶鬚弔韻拭M浩�改革反対の急先鋒・亀井静香候補追い落としのため、広島6区にホリエモンを立候補させたのである。この間の経緯は衆知のことなので繰り返さないが、自民党総力を挙げての選挙運動はともかく異常だった。さらに落選したあともホリエモンを利用しようとした自民党の「公党」としての手口はひどい。ホリエモンが証券取引法違反で逮捕(1・23)され、犯罪の根深さが暴かれているが、自民党の政治責任もまた重大だ。
その恐るべき実態を物語る�狆攀鬮瓩砲弔�、新聞の扱いが何故か小さく見落とした人が多いと思えるので�猝�談�瓩亮舁弩捗蠅鮑澣�紙からピックアップし一覧に供したい。(05・10・4朝刊) 「衆院選広島6区に無所属(自民推薦)で出馬し、落選した堀江貴文ライブドア社長は一〇月三日、自民党本部で武部勤幹事長と会談した。武部氏は、党の広報戦略・組織活動を強化するため民間会社を設立する構想を披露して『経営者としてのアイデア』を求めた。堀江氏は『資金運用や商品など、僕らの得意分野で貢献したい』と応じた。堀江氏は会談後、記者団に『資金の効率的運用が一層大事になってくる。貢献できないかなと思っている』と語り、今後も自民党との関係を求めていく考えを示した」。
武部氏が堀江氏に懇請した�狠侶鱈瓩箸浪燭世辰燭�。「自民党資金の効率的運用をお願いしたい」との一点だったと推察する。政権党が�猩6盻兒侫曠螢┘皀鶚瓩妹廚襪箸呂箸鵑任發覆ぢ塚遒任呂覆い�。政治資金規正法は、政治資金の運用先を預貯金・国債などに制限して株式投資を禁じてはいるが、抜け目ないホリエモンなら何を企むか、まことに恐るべきことだ。この申し出を、総選挙大勝後にすぐ行なったことは、「自民独裁体制を維持するため、ホリエモンを最大限利用する」との深謀があったとみて間違いなかろう。
年が明けてからの「堀江逮捕」で社会的大混乱は続いているが、小泉首相・竹中大臣・武部幹事長の政治責任は極めて重い。「人物を隅々まで調べるのは難しい。不明と言われれば責任は甘んじて受けなければならない」と、しぶしぶ不明を詫びて済むような問題ではないはずだ。
▽「米国基準」の市場経済至上主義
そもそも、�爛曠螢┘皀鷂従櫚瓩蓮⊂�泉・竹中コンビの「市場経済至上主義」「規制緩和ゴリ押し」路線が生み出した�爛▲晴岫瓩世辰拭J得�府の「年次改革要望書」を鵜呑みにして、グローバルスタンダード(内実は米国基準)の美名のもとに商法改正(03年)会社法改正(05年)などの規制緩和策を加速度的に推進した経済政策の失敗を指摘する声が高まっていたのに、小泉政権は聞く耳を全く持たなかった。この規制緩和に便乗したのがホリエモンで、米国と小泉政権が推進する「市場原理主義」を体現したと言えよう。2000年のマザーズ上場時には50億円程度だった時価総額が、5年後の06年1月初め(逮捕で急落する直前)約7700億円にまで膨張した背景に、違法・脱法承知で時価総額アップに賭けた執念が潜む。「投資事業組合」をライブドアグループの�牘�れ蓑�瓩箸掘�株式交換・株式分割の違法行為を繰り返して�狎礇瀬襯洵畆阿忙�価総額を吊り上げていった。
この投資事業組合は民法上の「任意組合」で、現行法では情報開示義務がないというから、思うままに�猩6盻儉瓩�実行できたと、エコノミスとは分析する。虚を衝かれた政府は「時間外取り引き」の時と同様、大慌てで規制強化を叫び出したが、経済環境の荒廃は深刻だ。ライブドアに投資している一般株主は22万人にも上るといわれ、手持ち資金を食いつぶした人たちから怨嗟の声が聞こえてくる。「ライブドア株暴落、子供投資家も想定外」と題する産経朝刊(2・5)一面トップ記事には驚かされた。子供投資家に窓口を設けているマネックス証券によると、昨年秋から増加傾向で、小中学生の口座開設数は約2300件、ライブドア株で元手を失った子供がいるとは…。米国に倣って、小学生にまで拙速の「投資教育」を強いた教育の責任も極めて重い。
▽「精神なき専門人」「信条なき享楽人」
米国が�狷�本改造�瓩魎襪燹崘�次改革要望書」の危険性を指摘し続けていた関岡英之氏は、ライブドア・ブームに酔い痴れていた昨年3月、朝日3・26朝刊に「構造改革 『米国モデル』に検証必要」なる注目すべき論文を寄稿している。約1年前の論文だが、的確な論旨に感銘した。 「ライブドアのニッポン放送買収騒動で注目された『三角合併』の解禁もまた米国の要求事項である。『三角合併』とは、日本にある外国企業の子会社が、親会社の株を使って日本企業を買収し、完全子会社化する手法だ。新会社法案に(この項目も)盛り込まれ、〇六年四月から実施される予定だった。ところが、敵対的買収への危機感が自民党内で高まり、政府も解禁を一年凍結する方針に転じた。……『米国モデル』では政府の規制は最小限に緩和され、企業の行動は原則として自由放任される。企業は買収・合併により巨大化し、従業員や消費者より株主の利益を最優先にして行動する。『公』より『私』が強調される『米国モデル』は、日本はもちろん、独仏など欧州大陸の価値観とも異質だ」。
�猩6盻兒姚瓩魑�制する法が未整備のまま、「規制緩和・『小さい政府』こそ善」の大合唱の成れの果てが、�爛曠螢┘皀鷦債騰瓩了僂澄q瓩蟾發屬訃�泉政権に、軌道修正を期待することは望み薄かもしれない。国民が目覚めて、「カネこそ全て」のクビキから脱出しないと、日本の将来は危うい。
ライブドア騒動をめぐって、マスメディアの報道責任も問われている。新聞は抑制的だったとはいえ、一昨年から昨年秋までの過剰報道が読者の目を狂わせた責任を反省しなければならない。 本稿の締め括りに当たって、鋭い文明批判と言うべき寺島実郎氏の論文(『世界』06・2=〈脳力のレッスン〉)の一部を引用させていただく。 「一党支配の不条理と非効率によって社会主義が自壊していった事態を、『資本主義は勝った』と誤解したことによって、冷戦後の資本主義は弛緩した。対抗勢力を失い、自らを厳しく律する意識を拡散させ、『グローバル資本主義』の名の下に一気に米国流資本主義を増幅させていった。そして、あからさまな競争主義・市場主義の礼賛、株主資本主義の肯定が主潮流となっていった。資本家の横暴を抑制するために積み上げてきた資本主義の進化の過程を忘却したかのごとき風潮が支配し始めた。マネーゲームが加速され、それに群がる『精神なき専門人、信条なき享楽人』が跋扈し始めた」。
(本稿は、「新聞通信調査会報」3月号に掲載された「プレスウォッチング」の転載です)
*池田龍夫氏のプロフィール 1930年(昭和5年)生まれ。成蹊大学政治経済学科卒業。毎日新聞整理本部長、中部本社編集局長などを歴任、現在はフリージャーナリスト、日本記者クラブ会員。著書に『崖っぷちの新聞』(花伝社)、『新聞の虚報・誤報』(創樹社)など
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