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2008年02月12日20時25分掲載
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検証・メディア
「ナベツネ問題」を考える<上> 政治権力と言論機関の在り方 池田龍夫(ジャーナリスト)
2007年11月の「福田・小沢の大連立劇」は不調に終わったものの、大連立の〝幻影〟は政界に潜み、「時あらば…」と工作を企む群像がうごめいているようだ。 08年1月31日夜のテレビ朝日・報道ステーションは「独占…ポスト福田に向け進む密かな動き ゴルフ密会」と題して、隠しカメラが捕らえた要人の動きを放映した。臨時国会を大幅延長して「新テロ特措法」を強引に成立させた福田康夫政権だが、1月通常国会早々から、厳しい局面に追い込まれて五里霧中の混迷は深まるばかりだ。ガソリン税暫定税率をめぐって、年度末失効を食い止めるための「つなぎ法案(5月まで延長)」提出=議長あっせんで取り下げた=の暴挙が物語るように、焦った自・公政権は危機的状況に立たされている。それだけに、テレ朝のリアルな映像は衝撃的だった。
「麻生太郎・菅義偉・安倍晋三ゴルフ密会」をはじめとして、〝ポスト福田〟合従連衡の動きは新聞紙上をにぎわせており、前記3人に中川昭一を加え「NASA」という呼称まで広言されている。自民党の内部抗争劇も然ることながら、今回の映像で最も気になるのは、またも〝ナベツネ工作〟…渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長(主筆)の動きが露見したことだ。1月末、渡辺主筆の招きを受けた麻生太郎氏が、日本テレビ・氏家斎一郎会長室で密談、そこに出入りする麻生氏の姿がビデオ撮影され、記者の質問まで受けていたのである。
「幻の大連立劇」の仕掛人だった渡辺・元日本新聞協会長が、フィクサーとしての野望をなお持ち続けていることが炙り出されたことに、再度衝撃を受けた。筆者は、渡辺主筆の策謀を「ジャーナリトとして最も忌むべき行為」と指弾してきたが(『日刊ベリタ』など参照を)、メディア側の問題意識と背景解明への努力が不足していることに心を痛めている。
〝新聞界のドン〟の行為を究明することを、メディア側が避けているとするならば、言論機関としての責務を放棄しているに等しく、「権力の監視」を第一義とするジャーナリズムの堕落、頽廃ともいえる現象ではないだろうか。 幻に終わった「大連立劇」の経緯は、毎日新聞検証紙面(07・12・12朝刊)、朝日新聞・小沢インタビュー(07・11・16朝刊)、産経新聞検証紙面(07・11・3~4朝刊)などが詳しく報じているので参照いただきたいが、何といってもフィクサー役の渡辺主筆と読売新聞が工作失敗後に沈黙し、説明責任を果たしていないことを究明していかなければならない。そこで、「大連立」に賭けた読売新聞の論調や問題紙面を改めて検証し直し、報道機関の姿勢を考える素材を提供したいと思う。
07年7月29日・参院選挙の民主党大躍進によって〝衆参ねじれ〟現象が生じたことが、政治混乱の元凶のように喧伝されている。この状況を「民意の表明」と受け止めて政治の在り方を反省、改革する方向へ進むことこそ議会制民主主義の要諦だが、逆に既成勢力が慌てふためいて現行体制存続を画策している現状はひど過ぎる。
「安倍政権は持ちこたえられまい。抜本策を講じないと大変だ」との焦燥感が高まったのは事実で、それが政治混乱を加速させたと言える。参院選から約20日後の昨年8月16日の読売新聞は「大連立――民主党も『政権責任』を分担せよ」と題する社説を掲げた。 渡辺主筆が自ら執筆したもので、「仮に、与党が次の解散・総選挙での多数を維持し続けられるとしても、3年後の参院選でも過半数を回復するのはきわめて難しい。6年後も難しいだろう。となれば、国政は長期にわたり混迷が続くことになりかねない。こうしたいわば国政の危機的状況を回避するには、参院の主導権を握る野党第一党の民主党にも『政権責任』を分担してもらうしかないのではないか。つまり『大連立』政権である」と、混迷打破を強く訴えたのである。 参院選結果は、「二大政党制」に基づく政権交代への期待感も膨らませていたが、守旧派にとって「お家の一大事」であることは容易に推察できる。言論機関としての読売が社説で「大連立」を訴えること自体に異を唱えるわけではないが、その後の渡辺主筆の政界工作と読売の一方的報道姿勢は糾弾しなければならない。
▽政界工作に走った大新聞の責任は重大
安倍晋三首相が思い悩んだ末、政権を突然投げ出したのは07年9月12日。各紙の検証報道で明らかになったように、渡辺主筆は参院選直後から〝ポスト安倍〟の政界工作を隠密裏に進めていた。複数の大物政治家が介在しているが、渡辺主筆―中曽根康弘元首相―森喜朗元首相のトライアングルが司令塔だったことに間違いあるまい。10月25日の最終密談の合意を受けて、30日の福田・小沢第1回党首会談へこぎつけた。続く11月2日の第2回会談のあと開かれた民主党役員会で大連立構想が受け入れられず、ご破算になったことは既報の通りだが、読売新聞11月4日朝刊と5日朝刊の1面記事の異常さには驚愕した。 その内容は、「大連立」工作〝仕掛人〟の裏づけなくして書けない断定的記述が散見されるからだ。「とんでもない書き方」と思える記述を拾い上げて、考えてみたい。
読売11・4朝刊1面トップに、「『大連立』小沢氏が提案/『絶対党内まとめる』」という見出しが躍った。「党首会談舞台裏」とのサブタイトルをつけたトップ記事前文には、「2日の福田首相と小沢民主党代表の会談で、議題になった自民,民主両党による連立政権構想は、実は小沢氏の方が先に持ちかけていたことが3日、複数の関係者の間で明らかになった。『大連立』構築に向け、小沢氏がカギと位置づけたのは、自衛隊の海外派遣をめぐる『原理原則』だった」と明記していた。 「大連立めぐるトップ会談決裂」(3日朝刊)を各紙が大々的に報じた翌日の朝刊でなお〝小沢バッシング〟記事をトップに据えた読売の狙いは何か? 大連立工作〝思惑外れ〟への意趣返しのように思えてくる。
次いで読売5日朝刊1面は、一層強烈な扱い方だった。「小沢代表,辞任表明」は他紙と同じだが、続く2番手記事に驚かされた。「党首会談で、民主党が連立政権に参加した場合、小沢氏が副総理格の無任所相に就任することで合意していたことが4日明らかになった」(『小沢副総理、一度は合意』の見出し)と記し、「閣僚、自10・民6・公1」とのソデ見出しまでつけて報じる執拗さだ。
この〝特ダネ〟をダメ押しするような、赤座弘一政治部長の「自ら真実を語れ」との署名記事も衝撃的内容だ。「今回の大連立劇の真相は読売が握っている」と言わんばかりの傲岸不遜な筆致である。 「小沢代表は4日の記者会見で、辞任表明に続けて報道機関への批判を展開した。『私の方から党首会談を呼びかけたとか、私が自民、民主の両党の連立を持ちかけた』などの報道は『全くの事実無根だ』と言うのだ。……報道内容を否定しなければ、小沢氏の党内での立場が苦しくなるという事情があるのだろうか。 それにしても、『(報道機関は)政府・自民党の情報を垂れ流し、自ら世論操作の一翼を担っている』『明白な誹謗中傷』などという認識は、全くの誤りである。……報道機関が『逸脱』しているというのなら、どこがどう逸脱しているのか、具体的に指摘すべきである。代表辞任を今回の政治的混乱に対する『けじめ』と小沢氏は語ったが、連立政権の意義と合わせて真実を語ることこそが、本当の意味での『けじめ』になるのではないか」と、厳しい小沢批判を展開していた。
幻に終わったものの、今回の「大連立騒動」は、日本政治の根幹にかかわる重大事である。従って、読売グループを除く新聞各紙のほか雑誌・放送メディアがそろって検証作業に当たり、「知る権利」に応える努力をしたのは、責任あるメディアとしては当然のことである。
▽「大連立」決裂後、説明責任を果たしていない読売
当事者の小沢代表が記者会見ですべて語っているとは信じがたいが、その後もマスコミの取材に応じており、「大連立劇」の顛末はほぼ明らかになったと言えるだろう。しかし、一方の〝当事者〟といわれる渡辺主筆と読売グループが、世論の〝情報開示〟要請に積極的に応じないのは、報道機関としての責任回避と勘繰れるのである。小沢代表に「真実を語れ」と居丈高に迫った読売新聞が、説明責任を果たしていないことについて「マスコミは他者の不祥事追及には厳しいが、自らの不始末には頬かぶりとはヒドイ」との批判が高まってきた。 世論の風当たりを気遣ったのか、読売は年末の12月22日朝刊に「渡辺・読売新聞主筆語る」との記事を4面に掲載。しかし、1面にリードも出さず、“お茶を濁した〟ような記事に新味は感じられなかった。
「読売新聞グループ本社の渡辺恒雄会長・主筆は、22日に放送される日本テレビ番組『なかそね荘』の中で、自民、民主両党による大連立構想が浮上した経緯に関する見解を明らかにした」と前置きして、日テレ番組司会のテリー・伊藤氏との一問一答を記事化したものだった。「なかそね荘」と銘打ったこの番組は、中曽根元首相と渡辺主筆がレギュラー出演の政治談議を収録・放映している。 読売新聞朝刊が、放映日の22日朝に合わせて要約記事を掲載したとは不思議な話だ。読売と日テレが系列会社とはいえ、新聞社の責任で記事にすべきテーマをTⅤ番組から流用するとは合点がいかない。まことに姑息な手段と思えるが、渡辺主筆の〝ナマ発言〟には注目せざるを得ない。
日テレで放映された中曽根氏の発言はカットされ、渡辺・テリー問答が90行程度記事化されただけだが、〝ナベツネ流弁明”の一端を紹介しておこう。 「(小沢さんは)『福田さんが持ちかけて、渡辺が仲介した。おれは受け身だった』ということを貫いているが、それは逆だ。なぜ(経緯を)書かないのかと、朝日新聞をはじめ盛んに僕を攻撃しているが、ニュースソース(取材源)に対する信頼を失ったら、将来、そのソースは切れる。まだ政治は動いている。今、全部暴露しろと言っても無理だ。僕は新聞記者の倫理を守るために、言っちゃいけないことは言わない。僕自身の倫理観と道徳観がある」 「(連立の条件は)政策協議機関を作り、テロ対策特別措置法、消費税、社会保障、年金の問題などを片づけていこう。これが国民のために幸せだと、両方とも善意で会ったことは間違いない。いずれは(経緯を)全部書く」
この渡辺弁明について記者団の質問を受けた小沢代表は、「党首会談に入っていない人の話をいろいろ問われても困る。私から論評する必要はない。いずれにしても、そのようなことではない」と、ぶっきら棒に答えただけだった。
以上、「大連立」構想に渡辺主筆と読売新聞が深く関わり、パイプ役を果たしていた事実関係を探ってきたが、「権力と報道」の在り方についてなお慎重に解明しなければならない問題点が多く残った。「両党首のどちらが会談を持ちかけたか」についての論議は平行線で結論が出るとは思えず、今回の大連立騒動の核心は「言論界のトップがフィクサー役を演じた」との疑いをかけられたジャーナリズムの姿勢であって、さらに検証を重ねて「言論の自由と独立」を再構築する必要性を痛感する。この観点に立って、次回に「論稿(下)」を書き継ぎたい。 (つづく)
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