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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2009年09月05日13時34分掲載
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【テレビ制作者シリーズ】(3) 再生の希望を辺境に見る、瀬川正仁ディレクター 村上良太
テレビで教育現場のルポを長年手がけてきた瀬川正仁さんがこの夏、本を出版しました。「若者たち〜夜間定時制高校から視えるニッポン〜」(バジリコ)です。定時制高校は偏差値の序列では底辺に位置し、生徒も多くが様々な事情を抱えていると言われています。瀬川さんはそんな東京と神奈川の2つの定時制高校に9ヶ月間通い、若者たちの話に耳を傾けました。西日が差す夕方5時、瀬川さんは高校の玄関に立ち、登校してくる生徒たちの様子を見守ります。記録用のテレビカメラはありません。観察が命です。
ルポに登場する生徒は約20人。彼らは10代での出産、リストカット、援助交際、イジメ、恐喝、DV、家庭崩壊、性的虐待など様々な体験を経ています。落ち着いて勉強のできない環境で暮らしてきた生徒が少なくありません。夜間定時制高校はそんな彼らを受け入れていました。新入生が教室や廊下を徘徊していてもいつか学校に居場所ができる、と教師たちはじっとその日を待ちます。瀬川さんはルポを書いた理由をこう話します。
「日本はちょっとしたはずみで一旦枠組みから外れると、復帰するのが難しい社会です。定時制高校の生徒たちもレールから外れてしまった若者が少なくありません。彼らがどうしてそうなったか、そこをまず知りたいと思いました」
一旦、何かの理由で学校教育から脱落すると雪だるまのように負のスパイラルが待っています。文科省は90年代、小中学校の不登校児が全国で13万人を超えたため、学力不足や出席日数不足でも「原級留置」にせず、保護者の強い要望がない限り進級させる方針に変えました。この措置によって九九が満足にできない中学卒業生を多く生み出してしまったのです。
瀬川さんが取材した定時制高校では4年間の数学の到達目標を中学卒業レベルに設定していました。半数以上の生徒が小学4年で習う分数が分かっていないと数学教師は言います。その理由は抽象的な数の概念が身についていないからです。たとえば5−3=2のように指を折って数えるように具体化できるものは理解できても、−5+3=となるとお手上げになってしまうのです。
しかし、こうした学力不足を抱えていてもルポを読むと定時制高校が枠組みから外れてしまった若者を社会につなぎとめる砦になっていることがわかります。年齢も体験も時には人種も異なる人々が集まる定時制高校で初めて居場所を持てた生徒も少なくないのです。
定時制高校のベテラン教師は問題児の将来についてこう答えます。
「女性は結婚相手さえ間違えなければ、だいたいなんとかなります。男も、それなりに、なんとか生きていますよ」
しかし、今、定時制高校は費用対効果が悪いため統廃合の対象になっています。東京都では1997年に103校あった夜間定時制高校を2011年までに55校に減らします。そのうちルポで描かれたような従来型の夜間定時制高校は38校しかありません。この先、行き場を失ってしまう若者が生まれることが予想されます。
《プロフィール》
瀬川さんは1978年、早大仏文科を卒業後、日活に入社しました。ロマンポルノや2時間TVドラマの助監督を経て、ドキュメンタリー番組のディレクターに転じます。瀬川さんは辺境と言われる世界を中心に描いてきました。
2002年に放送されたNHK「地球に好奇心〜巨石を上げて名を遺せ〜」ではミャンマーの山岳民族を取材しました。全財産を投げ打って村人を集め、2トンの巨石を山上の村まで運んだ者が優れた者であると承認される儀式があります。全財産と言っても牛6頭というような世界ですが、儀式の間は近隣の村から一族が集まり歌や踊りの宴会が三日三晩続けられます。この儀式によって村人の間に交流が生まれ、みんなにとって楽しい思い出にもなるのです。しかし、教育水準の上昇で学費の捻出にお金がかかるようになり、全財産を投げ打つことが難しくなりました。そして伝統の石引きの儀式も縮小の一途をたどっています。
2000年にはパレスチナのゲリジム山に住むサマリア人を取材しました(NHK「地球に好奇心〜サマリア3千年の祈り〜」)。最も古いユダヤ教を信じる人々で、取材当時650人しか残っていませんでした。儀式では古代ヘブライ語を使い、日常はアラビア語を話します。サマリア人はユダヤ教徒から異端視されたばかりでなく、キリスト教徒からも迫害を受けてきました。そのため、20世紀初頭には人口が128人にまで減ってしまいます。しかし戒律を緩め、ユダヤ教徒との結婚を認めることにしたため人口が少し増えました。パレスチナの軍事拠点地区でしたたかに生きる少数民族を瀬川さんは描きました。
瀬川さんが辺境に引きつけられる理由は人類の源がまだ残っているからです。定時制高校も辺境と考えることができます。16歳から80歳までの生徒が通う定時制高校には画一的な偏差値重視の教育とは違った世界があります。格差社会化でバラバラになった日本が再生するための希望を瀬川さんは見ているのではないでしょうか。
その他の著書 (ノンフィクション) 「ヌサトゥンガラ島々紀行」「ビルマとミャンマーのあいだ」(ともに凱風社) 「老いて男はアジアをめざす」(バジリコ)
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転載について
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。
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サマリア人の村を取材中の瀬川さん。後ろの戦車はイスラエル軍。軍事拠点にサマリア人の村があった。





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