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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2010年10月11日11時39分掲載
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アジア
【イサーンの村から】(9) 仏さまの日には牛を番わせる 森本薫子
イサーンの農家では、牛、水牛、豚などの家畜を飼っているところも多い。うちでも水牛や豚を飼っているので、私も何度も出産の場面に立ち合った。牛は妊娠期間が10ヶ月なので、1年に1度出産、豚は4ヶ月間なので1年に2度出産する。もちろん交尾をさせればの話である。オスとメスが同じ小屋内に一緒に飼われていない場合、いわゆる「盛りがついたら」交尾させる。村人たちはメスを見て判断し、オスを連れてくるのだ。例えばそろそろ交尾させたいと思ったら、まずカレンダーを見て、いつがワン・プラかを確認する。ワン・プラ前後に「盛りがつく」=メスの排卵日であることが多いからだ。
◆月の満ち欠けといのち
1ヶ月に計4日あるこの「ワン・プラ」。ワンは「日」、プラは「お坊さん」、「仏像」などという意味だが、そもそもは「ワン・タムマサワナ(説法を聞く日)」の略なので、日本語では「仏の日」と訳されることが多い。これは陰暦の8日、16日、23日、月末日にあたり、新月、満月、上限、下限の日に一致する。 この日、多くの村人は朝からお寺に集まり、食べ物や日用品を寄進する。お坊さんから説法を受け、寄進後の残りの食べ物を朝食として村人たちでいただく。今の時代、若者はほとんど来ないが、年配の人たちは欠かさず行く人も多い。ワン・プラでなくても、少ない人数ではあるが必ず何人かの村人は、毎朝お寺に出向いている。お寺の行事などの連絡事項はこの日に通達されるなど、仏教徒がほとんどのタイ人には重要な日なのである。
さて、メスの排卵日がワン・プラと重なるのは、ワン・プラが満月や新月と重なるからである。動物の生理現象は月の満ち欠けと一致するので排卵も、そして出産も満月や新月の日が多いのだ。もちろん人間もそうで、満月や新月は他の日よりも出産率が高い(自然分娩の場合は)。そもそも人間を含めた動物の月経は月の周期と同じなのだ。女性の月経周期が28〜30日であるのは、月の周期が29.5日だから。現代人は、自然の流れよりも時間の流れで生活しているので、月経も自然の周期からずれていく人も多いけれど、さすがに本能で生きている動物の身体は月の動きに反応している。
◆おいしく貴重な牛の胎盤煮込み
ワン・プラに交尾させ、出産月にはカレンダーを見て「そろそろ出産かな」とワン・プラを探す。家畜の出産は農家にとってはもちろん嬉しいこと。牛は1回に1頭、豚は10〜15匹生まれる。特に牛の出産には更に特典がつく。胎盤が食べられるのだ!! 人間の出産の場合、出産後15分ほどで胎盤が出てくるが、牛の場合は3時間後くらいに出てくる。それを見計らって、バケツをもってお母さん牛の背後に近づくのだ。胎盤が出てきたところをバケツでキャッチ!ほっておくと、犬に食べられてしまうからだ。
この胎盤はイサーン人にとってご馳走である。レモングラスなどの薬草と煮込んでいただく。味は、苦味があってそこまで美味というほどではないが、食感と、何よりも出産の時しか食べられないという貴重さが「ご馳走」としてランク付けさせるのだろう。そして、これほど栄養価の高いものもない。何せ胎盤なのだから! 牛が出産すると、胎盤煮込みを隣の敷地に住む義理祖母と叔父家族の家におすそ分けに持って行く。もちろん向こうも牛の出産があると持って来てくれる。何度か食べていると何だかとても美味しく感じるようになり、今では私も牛の出産を心待ちにするようになった。これだけは、どんなにタイ料理好きの日本人でも食べたことがある人はまずいないだろう。イサーンの農村に住んでこそ得られる特権だ。
◆女の機嫌もワン・プラ次第
農園暮らしをしていると、人間も動物も、自然の一部なんだということを改めて考える。人間と動物と月の関係。そうだ、昔は農業も漁業も、そもそも陰暦(月の満ち欠け)に合わせていたのだ。種まきや収穫も月の周期に合わせていた。イサーン人は、知識として説明できなくても、まるで常識のように自然と動物の関係を生活の中で身につけている。それだけに自然が壊れていくことにも敏感だ。都会に住んでいると、異常気象で夏の気温がどんなに上がっても、一番心配なのは電気代が高くなることなのだから。
出産予定日の計算法の話をしていた時のこと。私が夫に「普通は最後の生理の初日から数えて280日目が出産予定日だよ」と言うと、「ふ〜ん、そうなんだ?(全く知らなかった様子)牛は295日だけどね」。・・・人間の身体ことは知らないのに、牛のことは知ってるんだ・・さすが農民だ…と思ったことがある。
私の機嫌が悪いとき、夫はカレンダーを確認する。そして「あ、ワン・プラだ・・・」とあきらめる。そう、月のせいです。私が悪いんじゃありません!
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生まれたばかりの水牛の子ども
胎盤煮込み
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