かつて日本の各地で見られた山羊をもう一度飼おう、と山羊の良さをアピールしている団体がある。「全国山羊ネットワーク」である。1998年に宮崎で全国山羊サミットが開かれたのをきっかけに山羊と人間の暮らしを見つめなおし、その多面的な価値を考えるようと大学人・企業人・農業団体・農家などの有志が集まり、組織が生まれた。
http://www5.synapse.ne.jp/japangoat/ そのウェブサイトには「山羊を生産のための家畜という風に限定せず、役用家畜、伴侶動物、実験動物など汎用家畜として位置づけて山羊の価値をアピールしたいと思っています。 山羊にはまだまだ未知の利用価値があるものと考え、本ネットワークを通じて情報交換し、農業技術、研究、教育など多方面から山羊を捉えて人類と山羊の関わりを深めたいと思っています」と書かれている。
山羊の頭数が少なくなったのは1961年の農業基本法で農業の近代化が求められ、生産効率の高い牛や鶏、豚に資源を集中することがうたわれ、効率が悪い山羊は対象から外されてしまったからだという。全国山羊ネットワークによれば1957年に約67万頭飼育されていた山羊は1997年には28500頭しかいなくなっていた。地域別では山羊文化が色濃く残る九州・沖縄地域が8割を占め、残りは主に関東、東北で飼われている。
確かに肉やミルクの生産効率は牛や豚よりも落ちるかもしれないが、山羊は開発途上国などで貴重な食料源となっており、難民の貴重な食料源でもある。飼育も手間が少なくて済み、特に女性にとっては飼いやすいからだ。アフリカなどの難民キャンプでもしばしば山羊を見かける。
日本をのぞくと世界では山羊の飼育頭数は増えている。また、山羊は牛などよりも小型で移動しやすく、土手の雑草を処理してくれたり、身近な生き物=伴侶動物として小学校の情操教育にも有効だという。そのミルクも健康によく、現在、山羊ミルクを使ったアイスクリームなども開発されている。
「かつて山羊が多く飼われていた戦後の日本では、牛乳が容易に入手出来なかったため、その代用として山羊乳が消費されていました。1940年代生まれの方々の中には、河川敷や家の近くで山羊が飼われていて山羊乳を飲んだことがある、母が栄養不足で母乳が十分得られなかったので山羊乳で育てられたなどの経験を持っている人がいるはずです。実は、山羊乳には単なる牛乳の代用ではなく、母乳に近い成分を有しているという特長があるのです。 牛乳を飲むと消化不良や下痢などの症状(いわゆる牛乳アレルギー)を示す人や幼児でも山羊乳ではこうした症状を示さないことがあります。これは山羊乳が牛乳と比べ乳中の脂肪球が小さく(牛乳のように均質化する必要がない)、胃内で形成される凝乳が軟らかい(乳蛋白質が消化され易く,アミノ酸が吸収され易い)ためです。乳蛋白質の主成分であるカゼインにはαS1−カゼインという蛋白質がありますが、山羊乳にはこれが含まれていません。また、乳清中の主要蛋白質であるβ−ラクトグロブリンも山羊乳と牛乳とでは化学的・物理的性質が異なっています。最近の研究によると、これらの蛋白質が牛乳アレルギーの原因物質(アレルゲン)であると報告されています。」
このように山羊のミルクは牛乳にアレルギーのある人にも有効だとされている。さらにその糞はたい肥になり、毛皮も使える。林地での下草苅りも山羊ができるという。つまり、山羊は生産効率を最重視する近代化農業とは違った循環型農業のシンボルなのである。
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