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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2013年01月01日13時04分掲載
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核・原子力
【たんぽぽ舎発】被ばく労働を考えるネットワーク編「原発事故と被曝労働」を読んで
3.11以後、原発被ばく労働が注目され、マスコミは多重下請け構造、ピンハネ、暴力団の介在、鉛カバーによる被ばく線量隠し、ずさんな線量管理、未成年者の被ばく労働などについて報道した。しかし、それらは氷山の一角にすぎない。事故があろうとたえず新しい安全神話を作りあげて原発延命を図る推進派にとって、その根底をゆるがす被ばく労働の問題は「ない」ことにしなければ都合が悪い。たとえどんなに安全性を高めても被ばく労働そのものは決してなくならない。だから全力で社会問題化させないしくみを作っている。新たに出現した除染という巨大公共事業も、同じしくみのもとにある。本書は被ばく労働の実態、その構造的問題を暴く。労働者を使い捨てにして利益をあげる大企業の本性を浮き彫りにしている。(中村泰子 たんぽぽ舎会員)
本書は「被ばく労働を考えるネットワーク」が2012年4月に開催した「どう取り組むか被ばく労働問題 交流討論集会」での発言内容を土台に、その後の情勢を含めたものである。被ばく労働に携わる当事者や家族、この問題に取り組む人たちによる執筆であり、切実な思いが伝わってくる。被ばく労働問題の基本がおさえられているので、学習会テキストとしても使える。
被ばくの問題は「ない」ことにするしくみの一つは、放射線管理手帳制度だ。全国労働安全センター連絡会議の西野方庸さんは、「原子力施設の作業員の被ばく線量は『放射線従事者中央登録センター』で一元管理されるが、運営しているのは公益財団法人放射線影響協会(1977年設置)である。これは、電力会社等の事業者が費用負担する管理システムであって、法令上の根拠があるわけではない。それなのに、電離則(電離放射線障害防止規則)等の各法令中では記録の管理を委ねる『引き渡し機関』として指定されている。
こういう不思議な関係が35年続いている。2012年1月施行の除染電離則でも『引き渡し機関』とされている」と指摘する。労災補償や裁判に備えて不都合な記録が残らないようになっているのだろう。だからこれまで原子力施設での被ばくによる労災認定の事例は11例のみ、裁判で原告勝訴はない。
収束作業に従事する下請け労働者がまず言うのは、東電の被ばく線量管理のでたらめさだという。労働者を守るためではなく、事業者を守るための放射線管理手帳制度は根本的に変える必要がある。
大熊町の明日を考える女性の会の木幡ますみさんは、別の手帳を提案している。住民も含めた被ばく者全員のための健康管理手帳を公的な責任で発行し、医療保障、生活保障が受けられるようにするというものだ。被ばく者と被ばくする仕事を作り出してしまったのは国と事業者だ。できる限りの被ばく低減措置、医療保障、生活保障を行うのは当然のことである。
被ばく労働の現場の声がなかなか表面化しないのは、上からの徹底した抑圧があるからだ。多重下請けピンハネ構造は、口封じのしくみでもある。事故収束作業員として働いているフリーター全般労働組合の北島教行さんは、東電社員最優先の身分差別について次のように述べる。
「ことあるごとに『自分の立場や身分』を認識させられ、事故や違法運用の際は『逆らえないような身体や思考』になるよう訓練され続けている。」「Jビレッジ大浴場も通退勤直行バスもJビレッジ診療所も、『誰でも利用してよいことになってはいるが、絶対に使ってはならない』という『ウラのオキテ』に支配されている。」しかし北島さんは、「私は使いまくっている。不当な、『出身会社に基づいた実質的施設利用制限差別』は徹底的に粉砕する。周囲の労働者にも利用制限が不当であることを説明し、積極的に利用するよう毎日話をしている」
東電から奴隷根性を強制する圧力があり、受注競争からふるい落とされないよう必死になっている下請け企業にいて、作業員同士が生き残りをかけて牽制しあう中でのこうした行動は容易なことではないだろう。
被ばく労働現場の前近代的構造は、日本社会を象徴するものだ。資本家階級の思惑どおり、もの言えぬ非正規労働者の割合は増え続けている。全国日雇労働組合協議会の中村光男さんは、「原発・下請け労働者の大半は、雇用の不安、労働の諸権利の剥奪、低賃金という非正規労働者に共通の特徴に加えて、命と健康を確実にむしばまれる苛酷さを背負わされている。被ばく労働はまず非正規雇用の問題であり、産業の下請け制度を変えない限り解決しない。被ばく労働問題は、日本の労働運動と社会運動の真価を問う問題だ」と提起する。
原発は被ばく労働で成り立っている。そこでは下層労働者が使い捨てられている。原発がないと経済が立ち行かないとか、二酸化炭素削減がどうのとか、電気が足りないとか、根拠不明の理由で推進・容認する人に対して、本書は誰が被ばく労働をするのかと問いかける。原発を使えば使うほど、事故の危険、核のゴミ、被ばく労働が増え続ける。この問いに答えられない限り、原発の正当性はない。
何より下請け労働者の使い捨てを許さない闘いが急務である。そして、誰かがやらなければならない膨大な被ばく労働を実際にどうしていくのか、現場労働者とつながって、労働者の立場に立った新しいしくみを作る必要がある。
(「原発事故と被曝労働」:三一書房刊、1000円+税)
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