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2018年09月13日11時09分掲載
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反戦・平和
軍事研究と平和憲法④ 「軍事の司令塔」設置 矢倉久泰
経団連は2013年5月、安倍政権が検討を進めていた「防衛計画の大綱」への提言を出しました。「わが国を取り巻く安全保障環境」として、北朝鮮におけるミサイル発射や核実験、中国の海洋進出の活発化、米国のアジア太平洋地域の重視政策を挙げ、防衛上の宇宙開発の推進や、サイバー攻撃への対処を求めました。そして、①高度な技術力による抑止力と自律性の確保、②迅速な調達と装備品の能力向上などの必要性を強調し、「官民のパートナーシップ」の確立を要請しました。
これを受けて安倍第2次内閣は同2013年11月、米国に倣って、日本版NSC「国家安全保障会議」を官邸に設置しました。その役割は「国家の安全に関する重要事項及び重大緊急事態への対応」で、「防衛計画の大綱」もこの会議で策定さることになりました。構成メンバーは首相、官房長官、防衛大臣、外務大臣の4人。必要に応じて関係大臣が招集されます。まさに軍事の司令塔です。
その初仕事が2014年度からの「防衛計画の大綱」策定です。これを12月に閣議決定しました。その「研究開発」の項に、つぎのようなことが書かれています。 「厳しい財政事情の下、自衛隊の運用に係るニーズに合致した研究開発の優先的な実施を担保するため、研究開発に当たっては防衛力整備上の優先順位との整合性を確保する。また、新たな脅威に対応し、戦略的に重要な分野において技術的優位性を確保し得るよう、最新の科学技術動向、戦闘様相の変化、費用対効果、国際共同研究開発の可能性等も踏まえつつ、中長期的な視点に基づく研究開発を推進する」。
北朝鮮をイメージした「新たな脅威」、ミサイル攻撃という「戦闘様相の変化」といった文言に、私は恐怖感を覚えます。
▽デュアルユースの活用 「大綱」に示された「研究開発」は、「安全保障の観点から、技術開発関連情報等、科学技術に関する動向を平素から把握し、産官学の力を結集させて、安全保障分野においても有効に活用し得るよう、先端技術等の流出を防ぐための技術管理機能を強化しつつ、大学や研究機関との連携の充実等により、防衛にも応用可能な民生技術(デュアルユース技術)の積極的な活用に務めるとともに、民生分野への防衛技術の展開を図る」と述べています。
これを受けて、内閣府は2014年度から、「デュアルユース」を視野に入れた「革新的研究開発推進プログラム」の公募を始めます。軍学共同、軍民共同による「デュアルユース」の勧めです。これが曲者です。研究者が民生用に開発した技術を、防衛⇒軍事利用に応用しようというものです。「ロボット技術など軍事利用が可能になりそうな研究も支援している」と「九条科学者の会」の浜田盛久さんは指摘しています。(2015年12月24日「毎日」)
▽防衛省が研究費支給 安倍第2次内閣は2014年5月、これまでの「総合科学技術会議」(2001年1月設置)を拡充して「総合科学技術・イノベーション会議」を内閣府に置きました。議長は安倍首相です。これは日本の科学技術政策の司令塔と位置づけられました。
防衛省は、国の安全保障に役立つ技術の開発を進めるため、「安全保障技術研究推進制度」を設け、2015年度から大学、独立行政法人の研究機関、大学発ベンチャー、企業を対象に研究テーマを公募、採択された研究内容に研究費を支給し始めました。防衛省が研究者に研究費を直接出すのは初めてで、最大で1件3000万円と一般の研究費に比べて高額です。総予算は3億円で、原則3年間支給されます。防衛省は研究テーマとして「わが国の防衛」「災害派遣」「国際平和協力活動」などを示しました。基礎研究に限定し、成果は「将来、防衛装備に向けた研究開発」で活用することにし、原則公開。研究者は論文発表や商品への応用が出来るようにしました。
109件という多数の応募があり、大学4、国の研究機関3、企業2の計9件が採択されました。その研究機関と研究テーマは次の通りです。 ・神奈川工科大学「航空機の軽量化につながる繊維とプラスティックの接着技術」 ・東京電機大学「無人飛行機に乗せて移動体を検出する高性能のレーダー」 ・豊橋技術科学大学「有害化学物質を吸着する極細の高分子繊維でできたシート」 ・東京工業大学「持ち運びできる超小型バイオマスガス化発電システム」 ・理化学研究所「光を完全に吸収し、周囲から見えにくくする特殊な物質」 ・富士通「レーダーなどに応用する高周波トランジスタ」 ・宇宙航空研究開発機構(JAXA)「マッハ5以上の超音速航空機のエンジン」 ・パナソニック「海中でワイヤレスで電力を提供する技術」 ・海洋研究開発機構「水中での高速で安定した光通信技術」
これらはいずれも「デュアルユース」です。成果は民生用に使えますが、いかにも現代戦に必要そうな技術です。例えば東京電機大学の研究は、2機の無人機が放つレーダーで、低速で動く物体を正確に補足する技術です。理化学研究所のそれは、無人戦闘機や偵察、監視などを目的とする武器への適用が可能です。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究は戦闘機のエンジンに活用できます。
豊橋技術科学大学の大西隆学長は、「(採用された私たちの大学の研究は)戦時のガス攻撃に役立ちますが(防毒マスク)、化学工場の災害にも使えるので、民間活用ができます。内閣府世論調査で90%の国民が憲法のもとで個別的自衛権を認めているし、国連憲章にも明記されているので、自衛のための軍事研究を進めていきたい」「自衛とは自ら戦争をしかけないこと。そのための研究は矛盾しない」と述べています。ただし、「自衛の名の戦争があるので、制限することは必要だが、代替手段がないとき、過剰でない範囲で、核兵器や化学兵器を除いて、成果は公開して、研究するべきだ」とも。(この部分は佐々木賢さんの資料を引用)。
大西学長は日本学術会議の会長を務めており、2016年5月、上記のような発想から、日本学術会議に軍事研究のあり方を探る「安全保障と学術に関する検討委員会」を設置し、それまでの平和主義の学術研究の見直しを求めました。(反対が多く、平和主義をあらためて確認しました⇒詳細は次回に記載予定)
▽研究費6億円に拡大 防衛省の「安全保障技術研究推進」のための2016年度の予算は、継続研究も含めて6億円に拡大されました。防衛省は次のような研究テーマを提示しました。 ・新しいサイバー攻撃対処技術 ・レーザーシステム用光源の高性能化 ・サメやペンギンなど生物体表面構造を応用した摩擦抵抗の低減 ・3D造形による高耐熱・高強度部材の製造技術 ・昆虫や小鳥サイズの小型飛行体の実現 ・高出力電池に関する基礎技術
これに対する応募数は、大学など23、公的研究機関11、企業など10の計44件。前年度の109件から激減しました(北大など10件採択)。「防衛省のねらいは、やばい」と、その意図を見抜いたからでしょう。
▽防衛装備庁の発足 安倍政権下の2015年10月、防衛装備庁が発足、一段と現代戦に対応した兵器開発を推進しています。装備庁には航空装備研究所、陸上装備研究所、艦艇装備研究所、電子装備研究所、そして先進技術推進センターがあり、各種ミサイルとそれに関連する機器の開発、火砲、弾薬、戦闘車両の開発、通信・情報システムの研究、艦艇に搭載する機器、武器の開発、ロボットの研究などを行っています。
さらに安倍政権は2016年1月、「第5期科学技術基本計画」を閣議決定します。安全保障について、基本計画では初めて項目を設け、「国家安全保障上の諸課題に対し、必要な技術の研究開発を推進する」と明記しました。「安全保障を巡る環境が一層厳しさを増し、国民の安全を確保するためには、高い技術の活用が重要」と指摘、海洋や宇宙、サイバー空間で起こり得るリスクへの対応や、国際テロ対策などで国の安全保障の確保に役立つ技術の研究開発を行うこととしました。大学などの研究者が防衛にも応用できる技術(デュアルユース技術)などの共同研究をしやすくする狙いもあります。
これを受けて2016年5月、「総合科学技術・イノベーション会議」が提起した「科学技術イノベーション総合戦略2016」を閣議決定します。
▽高額研究枠を新設 防衛省はこの戦略を具体化するため、2017年度予算に「安全保障技術研究推進制度」の費用として110億円を計上しました。武器輸出を進める自民党国防部会の提言に後押しされて、2016年度の6億円から18倍に大幅な増額です。応募総数は104件と2016年度の44件から倍以上に増えました。内訳は大学22件(22大学)で2016年度とほぼ同じ。公的研究機関は27件(前年度11件)、企業・団体は55件(同10件)で、大学以外は増加しました。配分先の内訳は、公的研究機関5件、企業・団体9件で、2016年度は5件あった大学は消えましたが、分担研究先として4件に4大学が入りました。
これまでは、採択した研究1件当たり年間最大3000万円でしたが、17年度からは高額研究枠が新設されました。5年間で総額最大20億円を提供するというものです。大規模な試作などが必要となる大型研究の成果を期待するのが狙いです。その配分先は6件。宇宙航空研究開発機構の「マッハ5以上で飛行するエンジン技術」(これには2大学が分担)、IHI(旧石川島播磨重工業)の 「航空エンジンの耐熱性を高める材料」、富士通の「通信能力を高める高出力・高周波デバイス」、三菱重工業の「炭素繊維複合材の接着強度を上げる技術」などです。
防衛装備庁がめざすのは、水中監視用無人機システム、壊れない電子機器、高温に耐える材料、効率よく高出力を得られる素子といった極限状況で使える技術などの開発研究です。自民党国防部会は「『技術的優越』なくして国民の安全なし」と題する提言で予算規模を拡大するよう求めていたのです。
▽軍事研究費アップの背景 こうした軍事研究のための予算急増の背景には、これまで見てきたように、軍産学連携を重視する政府方針があります。2013年12月に閣議決定された「防衛計画の大綱」や、2016年度からの第5期科学技術基本計画で、「国家安全保障上の諸課題に対し、関係府省・産学官連携の下」で、科学も防衛研究に貢献する方針が示されました。
軍事研究拡大の政府方針の背景には、①自民党の国防強化論、②軍事産業の要請、③研究費欲しさの大学・研究機関があります。
①の背景には、北朝鮮のミサイル開発などの世界危機をあおり、日本の武器技術開発に期待する米国の意向もあると思われます。②については、「お国のためにこんな優れた武器を開発した」と防衛省に売り込み、採用されることを期待する「儲け主義」があります。そのために軍事産業は、政権を握る自民党に多額の政治献金をしています。三菱重工、トヨタ、キャノン、新日鉄など136社の兵器産業連合の政治献金は、民主党時代に2億円でしたが、安倍自民党政権になってからは4億円に倍増しているのです。(この項、佐々木賢さんによる)。
③の背景には、大学の研究費が年々減額されているという実態があります。文科省が2016年8月に公表した研究者約1万人に対するアンケート調査の結果(回答率36%)によりますと、大学など所属先から支給される個人研究費が年間50万円未満の研究者が6割もいました。20代会社員の小遣いとほぼ同額にあたるといいます。国から国立大学法人に配る運営費交付金は毎年1%ずつ減らされ、応募により研究者に支給する科科学研究費も過去5年間は2300億円で頭打ちです。
一方で、政府は2021年度までの5年間で計26兆円を研究開発に投じる目標を掲げています。安倍政権が設置した「経済社会・科学技術イノベーション活性化委員会」は、2020年ごろに国内総生産(GDP)を600兆円に引き上げるという目標のため、研究予算の重点配分について議論するなど、政府は実益に結び付く研究には資金を投入する目論見です。一般研究に出す科学研究費が頭打ちなのに、防衛省が出す研究費は大幅増! 安倍政権の魂胆が見え見えです。
私たち主権者は、あらためてこうした軍事研究の実態を把握し、真の平和のために科学技術研究はどうあるべきかを考える必要があると思います。(つづく)
(参考文献:杉山滋郎「『軍事研究』の戦後史」ミネルヴァ書房、池内了ほか「『軍学共同』と安倍政権」新日本出版、「毎日」「朝日」「東京」)
*「子どもと法・21通信」憲法リレートークNO2(2018年3月発行)から転載
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