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2018年09月14日17時05分掲載
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反戦・平和
軍事研究と平和憲法⑤ 科学者はどう立ち向かったか 矢倉久泰
戦争を放棄し、平和国家をめざした日本ですが、これまで見てきたように、朝鮮戦争を契機に軍事産業が復活し、水面下で米軍が科学者に研究資金を提供してきました。最近は、政府が「安全保障技術研究推進制度」を導入して大学等の軍事研究の推進に力を入れています。こうした動きに科学者らはどう立ち向かってきたのか、また、これからどう立ち向かうべきかを考えてみました。
▽日本学術会議の発足 戦前の科学者たちは何らかの形で軍事研究に関わってきました。凄いところでは原爆開発に携わった理化学研究所の物理学者・仁科芳雄、細菌兵器の実戦化を指揮した731部隊長の石井四郎(京大医学部)らがいます。
戦後、日本の民主化、非軍事化を推進したGHQ(連合国軍総司令部)は、学術界にも改革の手を入れ、戦前の学術界を主導した帝国学士院(1906年設立)、学術研究会議(1920年設立)、日本学術振興会(1932年設立)を解体して、新しく日本の学術界を代表する公的機関として日本学術会議を1949年に設置しました。これを法的に位置づける「日本学術会議法」が前年48年7月に国会で成立しています。「科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映させることを目的とする」というものです。
目的は何だか平凡に見えますが、その役割がすごい。政府からの諮問を受けて、科学研究に関する予算のあり方やその配分、科学者による検討が必要な重要施策などについて答申したり、科学技術の振興や研究成果の活用、研究者の養成などについて政府に勧告や提言するというものです。人文科学、自然科学など7つの部を設け、部ごとに全国の研究者が選挙で選ぶ会員(210人)が運営に当たることになっていて、「学者の国会」と言われました。科学者の自主性、主体性、自治性を保障するものでした。
▽「軍事研究はしない」 第1回の総会で採択された「日本学術会議の発足にあたって科学者の決意表明」は、次のようなものでした。 「われわれは、これまでわが国の科学者がとりきたつた(原文のまま)態度について強く反省し、今後は、科学が文化国家ないし平和国家の基礎であるという確信の下に、わが国の平和的復興と人類の福祉増進のために貢献せんことを誓うものである」
杉田敦・法政大教授は「戦時中、戦争を遂行するために科学者が動員され、核兵器につながる研究さえしていたわけです。その反省が日本学術会議の原点です」と「朝日」で語っています。
1950年4月の第6回総会では「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」を採択、明確に軍事研究を行わないことを宣言しました。
しかし、この決意表明は、その後の3度にわたる総会で会員から見直しを求める発言が相次ぎました。1950年6月に始まった朝鮮戦争を意識した学者たちが「絶対従わないことでいいのか」と疑問を呈したのです。
その後、日本物理学会が米軍から研究資金が提供されていることが発覚(1967年「朝日」報道)したのを受けて、学術会議はあらためて「軍事目的の研究は絶対に行わない」との決意表明をしました。
▽原子力研究の3原則を提起 戦後、原子力の研究はGHQにより禁止されてきましたが、1952年4月の日米講和条約の発効で解除され、産業界でも学術界でも原子力の研究に動き始めます。政府も原子力基本法制定をめざします。これに向けて日本学術会議は議論を重ね、1954年4月の総会で、「わが国において原子兵器に関する研究を行わないのは勿論、外国の原資併記と関連ある一切の研究を行ってはならないとの堅い決意」を表明、そしてこの精神を保障するために、研究の自主・民主。公開の3原則を確立するよう政府に求めました。政府はこの3原則を基本的に受け入れて原子力基本法を1956年1月施行します。学術会議が第2次世界大戦後の学術行政に力を発揮したのです。
しかし、その後、政府の科学技術庁(1956)、科学技術会議(1959)、学術審議会(1967)の設置など(2001年より科学技術庁は文部科学省、科学技術会議は内閣府の総合科学技術会議となった)、一連の政策により、政府への勧告などの「学者の国会」の権限は骨抜きにされていきます。政府や産業界に都合のよい科学政策を推進するためです。
▽「デュアルユース」推進で揺れる 軍備増強をめざす安倍第2次内閣は2013年11月、米国に倣って、日本版NSC「国家安全保障会議」を官邸に設置し、今後10年間の外交・安保政策の指針「国家安全保障戦略」を閣議決定します。「産官学の力の結集による安全保障分野での有効活用」をうたい、デュアルユース技術を含む振興を促すことにしました。軍事にも応用可能な民生技術「デュアルユース」を「産官学」一丸となって取り組もうというもので、科学者の抱き込みです。
内閣府は2014年度から、「デュアルユース」を視野に入れた「革新的研究開発推進プログラム」の公募を始めます。防衛省も2015年度から防衛装備品に応用できる最先端研究に資金を配分する「安全保障技術研究推進制度」を開始します。
これに日本学術会議はどう対応したのでしょうか。2016年5月20日の幹事会で、「安全保障と学術に関する検討委員会」の設置を決めました。政府が「デュアルユース」技術の研究を推進する中、「軍事研究を絶対しないという声明は、時代に合わない」との意見が出てきたからです。委員会は15人。検討委の対象は、①1950年と67年の声明以降の条件の変化、②軍事的利用と民生的利用、デュアルユース問題の違い、③安全保障に関る研究が学術の公開性や透明性に及ぼす影響、④安全保障に関する研究資金の導入が及ぼす影響、⑤研究が適切かを判断するのは科学者個人か大学や研究機関かーの5項目。
「安全保障」と言えば、いかにもみんなが「そうだね」と賛同しそうな言葉です。安倍政権が好んで使う言葉です。「安全保養」=「軍備」(軍事力)なのに。
▽「声明を守れ」の訴え この検討委員会設置に対し、「戦争と医の倫理の検証を進める会」は2016年6月8日、記者会見し、戦争の歴史を踏まえて「軍事研究反対の声明」を守るよう訴えました。同会は第2次大戦中に細菌兵器開発や人体実験をした731部隊の検証に取り組んできた団体です。
また、軍事研究に反対して2016年9月に結成された軍学共同反対連絡会も、日本学術会議に検討委員会が設置されたことに対し、1950年と67年の声明を再確認するよう求めました。この連絡会には「大学の軍事研究に反対する会」、日本科学者会議、日本民主法律家協会、武器輸出反対ネットワークなどの団体、研究者、市民が参加しています。結成に当たって「あらゆる戦争は『自衛のため』と称して行われた。学問が、国家の進める軍事戦略や兵器開発に従属させられるような社会を再び許してはならない」とのアピールを出しています。
▽「国の安全を考えるべきだ」 検討委員会ではこんな意見も飛び出しました。「(「軍事研究を絶対行わない」との)声明は歴史の検証に耐えられるか。今、日本は厳しい情勢にある。自衛のための研究について委員会の中で議論しなかった。声明はいびつである。大学への丸投げになっている。民間研究者が対象外というのも解せない。防衛装備庁ファンドでも学術だけ逃れていていいか。 国の安全を考えなくていいのか。平和にコミットすべきだ。大学だけが身綺麗でいるというのは解せない。そうしないと国が破れ、シリア、南スーダンの ようになるかもしれない。平和の維持には統合化の視点が必要だ。政府を敵視するのではなく、問題あれば提言する。社会とともに真摯な議論が必要というが、ほとんど社会との議論がなかった」。(軍学共同反対連絡会News Letter 2017年5月5日号)
▽「軍事研究」拒否の声明を継承 いろいろ議論の末、検討委員会は2017年4月13日の総会で検討結果を報告しました。概要は、①軍事研究は行わないとした過去二つの声明を継承する、②軍事的研究が学問の自由と学術の健全は発展と緊張関係にあることを確認する、③軍事的研究は政府による介入が強まる懸念がある。防衛装備庁の制度は、この点からも問題が多い。④研究成果は、科学者の意図を離れて軍事目的や攻撃的な目的に転用されうるため、慎重な判断が求められる、⑤自由な研究・教育環境を維持する責任がる大学や学会に研究の適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から倫理的に審査する制度やガイドラインなどの制定を求める――というものでした。
私はこの報告を新聞で読んで、ホッとしました。やはり科学者の良心が脈打っているのです。
▽平和を学び、研究する大学 一方、大学はどう対応してきたのでしょうか。戦後の憲法は「学問の自由」を保障しました。これは「何を研究してもよい」「学者の勝手でしょ」というものでは、もちろんありません。戦前、軍事のための研究を強いた軍国主義国家から解放された学問が「二度と国家のために研究しない」という国家からの研究の自由を保障したものです。多くの大学は「大学憲章」や「基本理念」などを策定し、平和と福祉のために学問研究を行うと宣言していますが、ずばり「軍事研究を行わない」と明記したのは名古屋大学です。
名古屋大学はレベラル派の飯島宗一学長の下、1987年2月に「平和憲章」を制定しました。背景に米ソなどの核軍備競争への危機感がり、欧州各地で反核運動が高まっていました。名大教養部の学生自治会もその動きに同調して反核運動の取り組み、教授たちもそうした動きを受けて平和憲章を制定したのでした。その内容は次のようなものです。 ①平和な未来の建設に貢献できるような研究や教育を進める。②いかなる理由であれ、戦争を目的とする学問研究と教育には従わない。そのため、国の内外を問わず、軍関係機関およびこれらの機関に属する者との共同研究をおこなわず、これらの機関からの研究資金を受け入れない。また、軍関係機関に所属する者の教育はおこなわない。③社会との協力のあり方について、学問研究が、「ときの権力や特殊利益の圧力によって曲げられ」ることにならないよう、「研究の自主性を尊重し、学問研究をその内的必然性にもとづいておこなう」。また研究成果が正しく利用されるようにするため「学問研究と教育をそのあらゆる段階で公開する」、さらに、相互に批判し合うことができるよう「民主的な体制を形成する」。
こうした平和憲章を掲げる大学は他に知りませんが、平和学の講座を開いている大学は結構あります。東京学芸大学、国際基督教大学、法政大学、立命館大学、東京大学、広島大学、鹿児島大学など50大学以上あります。立命館大学には国際平和ミュージアムが開設されています。同大学が蓄積してきた平和教育や平和研究を発展させるために設けたもので、戦争の資料などを展示しています。広島大学には平和科学研究センターがあります。
▽軍事研究、大学の6割制限なし 防衛省が2015年度から安全保障のために有用な軍事技術の開発を進める「安全保障技術研究推進制度」を導入して、大学や研究機関などから研究テーマを公募し始めると、大学の軍事研究にマスコミも関心を持ち始めます。
毎日新聞社が2016年4月~5月、医理工系の学部を持つすべての国公立大学と、国から科学研究費の配分額上位の私立大など全国117大学を対象に書面で軍事研究について調査しました。回答があったのは76大学。 その結果、軍事研究を禁じたり一定の制限をしたりすることを明記した「研究指針」や「倫理規定」「行動規範」が「ある」のは29大学にとどまり、47大学(6割)が「ない」と回答しました。防衛省や米軍など国内外の軍事や安全保障に関る機関から共同研究や資金提供の申し出を受けた場合、学内で届け出や審査する仕組みの「ない」大学は31大学。指針も届け出・審査の仕組みもないのは28大学ありました。
また、防衛省が防衛装備品への応用を期待して大学などの最先端研究に資金を配分する「安全保障技術研究推進制度」に対しては、東北大や広島大、九州大など12大学が応募しない方針であることがわかりました。(2016年5月23日「毎日」朝刊)
▽安全保障技術推進制度への対応 また、朝日新聞社は2017年6月~7月、全国の国立大学86校と私立大のうち国の経常費補助金交付額が上位30校(2015年度)の計116校を対象に、軍事研究についてアンケート調査を実施しました。 防衛装備庁が国の防衛分野の研究開発に役立つ基礎研究にお金を出す「安全保障技術研究推進制度」に2017年度、応募希望が「あった」と回答した大学は13校で全体の一割。このうち応募を「認める」が岐阜大、鹿児島大、東海大、東洋大の4校ありました。「応募希望は無かった」は85校で全体の83%。18校が回答しませんでした。応募について「条件付きで認める」大学は6校、「認めない」は37校。すでに参加した九州工業大や東工大などを含めて「その他」が47校もありました。
この制度の公募要領には「将来の防衛分野における研究開発に応用できる可能性のある萌芽的な技術を対象とする」と記されています。これを踏まえて東北大は「軍事を目的とする研究につながると考える」と回答しました。茨城大、群馬大も同様の回答をしました。長崎大は「将来、軍事目的(もしくは軍事関連目的)に使用できる技術の開発を目指していることは明白」として、「当該研究の実施は『危険な慣れ』を生むと危惧する」と回答しました。一方、宮崎大は「軍事的研究を定義づけることは実質不可能」という意見でした。(2017年9月30日「朝日」教育面)
このように見てくると、軍事技術の研究の是非は大学によってまちまちであることがわかります。それが私には不安です。「軍事研究は絶対拒否」であって欲しいからです。
▽科学者のあり方 これからの科学者のあり方について、二人の意見を紹介します。軍学共同反対連絡会の共同代表である池内了・名古屋大学名誉教授(宇宙物理学者)は次のように述べています。「大学は真理と平和を尊重する人間を育てていく環境がきわめて大事」「そもそも学問とは何か。国境を超えた真理を追究すべきです」「時代や政治に左右されない。それが学問の自由、大学の自治の本質」「科学者が何をやっているか、常に市民に伝え、対話することで暴走を止める習慣が必要」「失敗を含めて研究について市民との対話が重要」(朝日2014年9月23日「オピニオン」)
また伊東俊太郎・東大名誉教授は「根本的な「科学の倫理」が求められている」と指摘したうえで「集団的自衛権の問題が議論されているが、むしろ憲法九条の考え方を国連憲章の中に組み込む方向へと、日本は指導的役割を果たすべきだ」と語っています。(毎日2014年5月12日「パラダイムシフト~新しい倫理」①)
民生用でも軍事用でも使える技術「デュアルユース」という「くせ玉」が防衛省や米軍から投げ込まれている時に、科学者たちは今後、どう立ち向かっていくべきでしょうか。「私は生活が便利になるように研究したのであって、それを軍事に使うかどうかは知ったことではない」と言って済まされるでしょうか。否、自分が研究したことに対し、何に利用されるのか、最後まで責任を負う義務があると私は思います。もし、自分の研究が軍事に使われようとしたら、ストップをかけるべきです。そうしたことを制度化できないものでしょうか。(完)
(引用文献:杉山滋郎著『「軍事研究」の戦後史』(ミネルヴァ書房)、「毎日」「朝日」)
*「子どもと法・21通信」憲法リレートークNO2(2018年3月発行)から転載
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