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2018年10月14日01時02分掲載
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移民大国ニッポン
日系四世の更なる受入れ制度の問題点 〜新たな労働力供給源の導入と懸念される人権侵害〜
2018年3月30日、「日系四世の更なる受入れ制度のための特定活動告示の一部改正等」が公布され(=『在留資格認定証明書』交付申請受付開始)、同年7月1日に施行されることとなった(=同『証明書』交付開始)。 本稿では、他の受入れ制度と比較しつつ、当該制度の問題点を指摘したい。
<日系三世とは異なる「還流型」受入れ>
1989年改定入管法(翌1990年6月施行)のもとでの日系三世受入れは、政策上、“労働者”としてではなく、“日本人との家族的つながり”を根拠としたものである。 それゆえ、日系三世(とその配偶者、及び未婚未成年の子)に対しては、活動に基づく在留資格ではなく、就労に制限のない在留資格「定住者」が付与され、日本語能力や学歴などの“業績”が問われることなく、家族の帯同が認められている。 在留期間の更新も比較的容易であり、「永住者」や日本国籍を取得する道も開かれている(=定住型受入れ)。
1989年改定入管法施行当時と同様に、深刻な労働力不足に直面している現在、日系四世の更なる受入れ制度が導入されることになったが、それは、日系三世とは根本的に異なる方式である。 すなわち、「日本と現地日系社会との結付きを強める懸け橋になる人材を育成する」という目的(タテマエ)のもと、18歳以上30歳以下の日系四世を、単身で最長5年間、在留資格「特定活動」で受け入れるというのである(=還流型受入れ)。 在留資格「特定活動」による、最長滞在期間を設定した単身者の受入れという点では、“外国人材の活用”を掲げる安倍政権下で導入されている、建設・造船就労者、家事労働者や農業就業者と同じ扱いである。
<「ワーキングホリデー」の枠組みを活用>
日系四世については、2017年5月にまとめられた自民党一億総活躍推進本部『一億総活躍社会の構築に向けた提言』で、「新しいワーキングホリデー」による受入れが提案されており、同年7月には、法務省が日系四世受入れの新制度を導入する方針であることが報道されている。 法務省が公式に発表した文書に「ワーキングホリデー」という記述はないが、活動内容は既存のワーキングホリデー(特定活動告示第5号及び第5号の2)と同様であり、受入れの枠組みにおいても類似点がみられる。
一方で、 �� 想定される相手国(ブラジルやペルー、フィリピン等)と協力覚書(※1)を結んでいない �� ワーキングホリデーが1年間1度きりであるのに対して、通算5年間(期間内であればリピーター可)という長期の滞在が認められている �� サポーター(国内の特定の個人・団体)の存在を前提としている �� 日本語能力を要件としている ――など相違点もある。
なお、日系四世の受入れには“年間受入れ枠(制度開始当初は、年間4千人を想定)”が設定されているが、ワーキングホリデーでは、国・地域によって査証の年間発給枠を設定しているところと、いないところがある。 18歳以上30歳以下の単身者の受入れは、ワーキングホリデーとほぼ同じであるが(※2)、家族を形成する年代であることを考慮すると、5年間という長期間を単身で過ごさせるというのは、むしろ技能実習制度と類似しているといえよう。
<「日系四世受入れサポーター」を媒介とした受入れ>
日系四世の新たな受入れで、もっとも目を引くのが「日系四世受入れサポーター」の存在である。 日系四世は、サポーターが『在留資格認定証明書』交付を申請しなければ、入国することができない。そして入国後は、サポーターが日系四世に対して、日本文化・日本語教育情報、生活情報、医療情報、雇用情報等の提供や入管手続きの援助を行い、日本での生活全般を支援する。 だが、地域に居住する外国人住民の生活支援については、総務省の指導のもと、各自治体における多文化共生施策が推進されているはずではないだろうか。加えて、サポーターを媒介することなく、毎年1万人強受け入れているワーキングホリデーでは、特段問題が生じていないことを考えれば、なぜ日系四世の受入れにサポーターが必要とされるのか、理由は明示されていない。
サポーターは、日系四世の就労状況や日本文化習得状況などを少なくとも月1回確認し、在留期間更新申請時には(年1〜2回)、入管に彼/彼女らの生活状況を報告する役割を担う。このような負担と責任が大きいサポーターを、だれが無償で引き受けるのであろうか。雇用主など日系四世と個人的つながりをもたない者がサポーターになることも可能であり(※3)、両者とのマッチングに仲介者が介在することも認められている。 日本での就労を望む日系四世と、労働力を必要としている事業主という、送出し国と日本の状況を勘案すれば、両者のマッチングに「利益」を見出し、抜け穴的なビジネスモデルを考案して、「無償」であるはずの仲介者やサポーターに参入する業者が誕生することは容易に推測できるであろう。 制度のチャートを見ると、サポーターの役割は、技能実習制度における監理団体に類似しており、新たな人権侵害や強制労働が生み出される可能性も否定できない。しかも、日系四世の受入れには、外国人技能実習機構のような適正な実施を担保する第三者機関がない。とりわけ雇用主がサポーターの場合、自由な転職が困難となるなど、不当な支配力が及ぶ恐れも懸念される。
<日本語能力というハードル>
日系四世の受入れには、日本語能力というハードルが設定されており、入国時に日本語能力試験“N4”程度、通算2年を超えて在留する場合には、在留期間更新時に“N3”程度が要件となっている。 技能等の移転を目的としている技能実習制度においてすら、介護――職種の特性上、介護従事者に一定の日本語能力が求められることはある程度理解できるが――以外の職種では、入国時や在留資格変更にあたって日本語能力は求められていないことと比較すると(※4)、「懸け橋となる人材を育成する」という目的(タテマエ)とは異なる意図(本音)が見え隠れする。
そもそも“育成する”のであれば、本人やサポーターに任せるのではなく、受入れ国である日本が、無償の日本語学習機会を提供すべきであろう。 日系四世受入れの入国要件に日本語能力が設定されることが報道されると、早くも現地では日本語学校設立の動きがあるとも聞く。技能実習生や留学生と同様に、現地の日本語学校が送出し機関として機能し、授業料や渡航費、場合によってはサポーターとのマッチング費用までもが借金となり、日系四世の日本での就労や生活を拘束すると考えるのは、単なる杞憂であろうか。
<むすびにかえて>
日系四世のなかには、幼い頃に扶養家族(日系三世の未婚未成年の子)として来日あるいは日本で出生したものの、出国して海外滞在中に成人したり婚姻するなどして、再来日が叶わない者もいる。 新制度の導入によって、日系四世の再来日の機会が保障される点は一定程度評価できる。制度導入にあたっては、デカセギを希望する日系四世からの要望もあったという。 けれども、その受入れ制度は、“日本人と家族的つながり”をもつ彼/彼女らが期待するものとは、かけ離れたものである。 この背景には、これまでの日系人受入れの経験に対する、政府の間違った総括があるのではないだろうか。 すなわち、1989年改定入管法を契機に、特定地域に日系南米人が急増し、日本語能力の不足や生活習慣等の違いによる近隣トラブル、就学年齢相当の子どもの不就学、不十分な日本語ゆえの学校教育からのドロップアウトなどの「外国人問題」が顕在化した原因を、日系人のみに帰しているのである。 新たな制度設計には、失敗(※5)の責任が、国や自治体の受入れ体制の不備(あるいは、不在)にあったという反省はみられない。 「移民政策ではない」と主張し続け、「懸け橋となる人材の育成」といった美辞麗句(タテマエ)を用いて、受入れ社会の責任を回避しようとする政府の姿勢を、私たちは厳しく問うていく必要があるだろう。(国士舘大学教授 鈴木江理子)
〔注〕 (※1)2018年2月現在、日本は20か国・地域とワーキングホリデー受入れの協力覚書を結んでおり、2017年には、15,521人に対してワーキングホリデー(在留資格「特定活動」)の査証が発給されている。
(※2)韓国やオーストラリア、カナダは原則18歳以上25歳以下である。
(※3)サポーターが外国人の場合には永住者か特別永住者に限定されている。また、団体の場合には、国際交流や地域社会への奉仕を目的として活動する非営利法人が要件である。
(※4)経済財政諮問会議「経済財政運営と改革の基本方針2018」(2018年6月15日閣議決定)で示された新たな外国人労働者の受入れでは、日本語能力が要件として提示されている。
(※5)2006年5月30日、河野太郎法務副大臣(当時)は、会見で「日系人の受入れは失敗だった」と語っている。
*『Mネット』199号(移住者と連帯する全国ネットワーク、2018年)収録
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<執筆者プロフィール> 鈴木 江理子(すずき えりこ) 〔略歴〕 一橋大学大学院 社会科学研究科 社会学 博士課程修了 博士(社会学)(専門分野:社会学) 立教大学 兼任講師(2006年4月〜) 武蔵大学 兼任講師(2012年4月〜) 国士舘大学 文学部 教育学科 教授(2015年4月〜) 〔所属学会〕 移民政策学会 事務局長(2017年5月〜) 〔受賞学術賞〕 平成21年度冲永賞(2010年3月) 〔著書・論文〕 著書『日本で働く非正規滞在者−彼らは「好ましくない外国人労働者」なのか?』(単著)2009年4月 著書『東日本大震災が問う多文化社会・日本』(単著)2012年2月 論文『日本の外国人政策−線引きをめぐるタテマエと本音をめぐって』(単著)2015年3月 論文『人口政策としての外国人政策−将来推計人口から考える』(単著)2014年7月 著書『外国人選別政策の展開−進行する選別的排除』(単著)2017年3月
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