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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2019年03月10日23時28分掲載
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教育
高校新学習指導要領の危険な内容 青木茂雄(あおきしげお):元都立高校教員・大学非常勤講師
2018年3月に改定「告示」された高等学校の新学習指導要領は、2022年度から新入生から年次進行で順次本格実施されるのがこれまでの通例であるが、早くも2019年4月からその一部が先行実施される。とくに焦点となるのが、総則に記載された「道徳教育」と、主として地歴科と公民科における領土に関する事項である。 筆者はすでに当サイトに高校新学習指導要領の問題点について何回かにわたって掲載してきたところであるが、年度が改まり、一部が先行実施される時期を迎え、改めてその危険性を指摘したい。 最初に強調しておきたいことは、2018年3月の改定「告示」は、第1次安倍政権による2016年の教育基本法改定(改悪)以後、2度目の学習指導要領改定であり、改定(改悪)のねらいが いよいよもって明らかになってきたことである。
◇ 改悪教育基本法が本格稼働し始めた
今改定の本質は、「愛国心条項」を「教育の目標」に挿入した2006年の改悪教育基本法が本格稼働し始めたということにあるが、表向きの謳い文句となっている「主体的・対話的で深い学び」という美辞に惑わされて、事の本質に目がむけられていない。とくに教育現場及び教育学関係者において著しい。
問題点は大きく次の3点である。 第1に、「道徳教育」が柱に据えられ新科目「公共」が設置されたこと。第2に、「愛国心条項」が具体的に教科目の「目標」と「内容」に入ったこと。とくに旧社会科「地歴科」と「公民科」が今回の焦点で、先にあげた「公共」に加え「歴史総合」が新設された。第3に、学習指導要領はこれまでは教育の「内容」の大綱を示すものであったが、さらに一歩踏み込んで、教育の「方法」つまり授業や評価に関してまで示すものとなったこと。これが表看板の「主体的・対話的で深い学び」の意味であるが、これは、学習指導要領自体の性格を根本的に変えることであり、学習指導要領が始まって以来の大きな変更であって、かつ改悪である。この点を見間違えてはならない。
◇ 高校で「道徳教育」が行われる?
高校には「道徳」の時間はない。しかし、「総則」では道徳は各教科目の特質に応じて行えとしている。これだけなら現行と同じだが、改定後は小中学校に次いで、高校でも校長や「道徳推進教師」を中心として「全体計画」を作成することとしている。「公共」「倫理」「特別活動」がその「中核」となる。教科の専門領域にまで「道徳」が侵入し、その内容が歪められる危険が大である。
◇「基本的人権」と「日本国憲法」が消える「公共」は戦前の「公民科」の再現だ
「現代社会」に代わって新設される「公共」は「目標」から「人間尊重と科学的な探求の精神」が削除された。そして「内容」からは「基本的人権」や「日本国憲法」の文字が消え去り、憲法についての説明をする項目すら設けられていない。 憲法学習の大幅な後退が懸念される。そして《遵法》と《参画》が強調される。これはもう学びの場ではなく、ただひたすらに「公共的なもの」への「参加」を求める精神修養の場となりかねない(いくら討議をしても結論は同じこと)。知識内容の「理解」だけが問題ではなく、「参加」への心構えと「態度」が問題とされる。「心構え」や「態度」、さらに「情意」までもが評価と直結する。「公共心」や「愛国心」が評価と直結する事態も十分に想定される。「公共」は、大正末期から昭和の初年にかけて新設された「公民科」の焼き直しであり(内容的にかなり重なっている部分がある)、新たな国民総動員体制への準備科目であるとも言えるだろう。新学習指導要領を多少の想像力をもって少しでも丹念に読んで見れば明らかである。
「愛国心」はここでは“日本国民としての自覚”にまで高められるという仕組みになっている。「討論」や「参加」をいくら謳っても、大枠は定められている。最近の学校現場の状況を見れば、自由討論など絵空事である。教科目の「目標」と「内容」に侵入した「愛国心条項」は、さしあたってまず、教科書検定と採択で猛威を振るうだろう。
◇ 歴史修正どころか歴史抹殺の「歴史総合」
地歴科の新科目「歴史総合」は、「公共」と同様、知識内容よりも「資質・能力」の育成に力点が置かれている。「目標」に「日本国民としての自覚」に加えて「我が国の歴史に対する愛情」が入り、これが教科の内容を規定するという構造になっている。「内容」は「近代化」と「グローバル化」が大きな柱になっているが、「近代化」は日本の近代化に力点が置かれ、これを肯定的に評価している。近代化の途上における東アジア侵略についてはまったくふれられず、アジア太平洋戦争についても独立した項目がない。「多面的・多角的」ということを口実にして日本が過去におこなってきた戦争に対する反省どころか歴史の事実の直視もできないようになっている。これでは歴史修正どころか歴史の抹殺である。あの「つくる会」教科書をはるかにしのぐとんでもない教科書ができかねない。大変に憂慮される。
◇ 「主体的・対話的で深い学び」を口実に授業点検が行われる
中教審答申の段階での「アクティブラーニング」が、抵抗のあることを配慮してこのような表現に落ち着いた。それが功を奏したのか、改定に批判的な人もこの部分についてだけは肯定的に見ている。しかし、私はこの部分が最悪であると筆者は考える。学習指導要領の根幹部分を変更したからである。学習指導要領はこれまでは学校が編成する教育課程の「内容」の基準であって「方法」については対象外であった。ところが今回の「総則」改定で、これまで現場の裁量の余地が辛うじて残されていた教育の「方法」、つまり授業の方法までが点検の対象となりかねない。また、今回初めて「評価」にまで踏み込んでいる。これまで「評価」は制度的にはあくまで教育の内的事項であって「制度」の及ぶ範囲の外にあった。教育行政が学習指導要領を強制力のある「法規」とする解釈をしている以上、私は近い将来に国または地教委によって教員の教育活動のすべてに権力的な点検活動が行われるのではないかと危惧している。
◇ では、今後どうしたら良いのか
新学習指導要領は、2019年度から先行実施され、2022年年度入学者から年次進行で本格実施される。情勢次第で本格実施が早まることもある。残された時間は余りないが、まずは、各方面でこの学習指導要領の問題点、不当性を声を大にして訴え、大きな世論にしていくことが必須である。とくに「公共」と「歴史総合」では、方法はどうあれ、1976年の旭川学力テスト事件最高裁判決が「不当な支配」として禁じている「一定の理論ないし観念を生徒に教え込むことを強制すること」が行われかねない。各教科書会社はすでに新教科書の編集体制に入っている。執筆陣の人選を含めて、改定の悪影響を少しでも除去できるしっかりしたものにするためには、教科書の編集陣に頑張ってもらわなければならない。具体的には「公共」では「基本的人権」と「日本国憲法」をどれだけ書かせるか、「歴史総合」では戦争の反省と過去の植民地支配をどれだけ書かせるか、である。 新学習指導要領の執行停止を求める訴訟が起こっても当然の、そのくらい重大なことである。
(2019.3.6.)
青木茂雄(あおきしげお):元都立高校教員・大学非常勤講師
ちきゅう座から転載
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