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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2020年05月30日10時17分掲載
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欧州
イタリアで、なぜコロナウィルスの感染爆発が起こってしまったのか〜チャオ!イタリア通信
5月18日、イタリアのロックダウンがかなり解除され、現在6月に再開されるとされていたレストランやバールも営業できるようになりました。ソーシャルディスタンスを守るという規定はありますが、それでも大きな前進で、私の住む町も以前とほぼ変わらない様子になってきました。最終的に閉鎖されているのは、子どもたちに関わる学校や公園です。ただ、私の住む町では、今週から町の役所主導で子どもたちを集めての活動が始まりました。いわゆる学童保育のようなものですが、人数制限があるので、我が家の子どもたちは待機児童という形になりました。しかし、9月まで再開の目途がない学校に代わって、子どもたちが集まる場所ができたのはうれしいことです。
イタリアは、コロナウィルス感染者が世界で6番目、死亡者はアメリカ、イギリスに次いで3番目に多い国です。また、死亡者の約80%が70歳以上の高齢者という特徴があります。この感染爆発は、主にミラノがあるロンバルディア州で起こったと言えます。
イタリアで最初のコロナウィルスによる死亡者が出たのがロンバルディア州でした。2月22日時点で、ロンバルディア州の感染者数は60名(イタリア全体では79名)でした。その一か月後、3月22日にはロンバルディア州の感染者数は27,206名、死亡者数は3,564名(イタリア全体の感染者数は59,138名、死亡者数は5,476名)で、感染者数は全体の46%、死亡者数は65%となっています。さらに、一か月後の4月22日には、感染者数は69,092名、死亡者数は12,780名(イタリア全体の感染者数187,327名、死亡者数25,085名)で、感染者数は全体の36%、死亡者数は56%です。5月25日現在、ロンバルディア州の感染者数は148名、死亡者数は34名(イタリア全体の感染者数300名、死亡者数92名)で、感染者数は全体の49%、死亡者数は36%となっています。
結局、現在でも最初のコロナウィルスの死亡者がどういう感染経路で感染したかは謎のままです。ただ、イタリアでは、昨年の12月末ごろから肺炎の症状を持つ患者が例年より多く見られていたという報道がされていました。12月30日にはピアチェンツァ(エミリア・ロマーニャ州)、1月7日にはミラノ(ロンバルディア州)、1月11日にはコモ(ロンバルディア州)の地方紙にはこうした記事が掲載されていたのです。また、11月17日に中国武漢市で初めての感染者が出ましたが、11月半ばから1月30日にかけて中国からローマの空港を経由したのは203,894名(そのうち15,400名が武漢から直接入っている)、また北京、上海、香港からミラノの空港を経由したのは125,000名です。つまり、11月下旬から1月にかけて、コロナウィルスがイタリアに入って来ていたのは確実です。そのため、上記のような地方紙の報道につながっているのです。
イタリア政府は、コロナウィルス対策は世界保健機構(WHO)の指示に従っていたということですが、SARSの次に来るウィルス感染に関して、全くの防御政策を怠っていたというのが今回の感染爆発の一つの原因でもあるかと思われます。というのも、今回のコロナウィルスで亡くなった医者は165名で、看護師は40名となっています(5月13日の統計)。ただ、ここにはホームドクターや救急員などの医療関係者は含まれていませんので、さらに多くの医療関係者が亡くなっていると予想できます。「レポート」という報道番組で、ロンバルディア州で働く看護師へのインタビューを見ました。この看護師はコロナウィルス陽性と判明したのですが、変な咳が出るので検査を受けたいと言っても、なかなか検査を受けることができなかったと発言しています。また、仕事中にマスクをするのも患者を怖がらせるからしないようにと言われたとも。2月22日にロンバルディア州でイタリア初のコロナウィルスの死亡者が出た、その翌日保健省からの通達は、コロナウィルスの疑いがある時だけマスクを使用するという内容でした。つまり、この看護師は検査を受けられなかったので、コロナウィルスに罹っているとは明らかではなく、その場合マスクをする必要はないということになります。結局、この看護師は9日間マスクなしで働いたと言っていました。すべてがこのような調子で、例えば、感染の最前線に立つ救急隊員も適切なマスク、防御服がない、靴を覆うのもスーパーの買い物袋を使用するという所もありました。1月中は世界保健機構の指示がころころと定まらなかったということはありますが、イタリア政府がそれに惑わされて、イタリア国内の事実を独自で把握せず、独自の判断を怠ったという罪はあります。2月には、すでにイタリアで感染が広がっていたのですから。
また、ロンバルディア州の被害が大きかった原因の一つに感染者を老人施設に収容するという策があります。隣の州ヴェネトは老人施設は早くから閉鎖して、感染を防いでいたのとは全く逆の政策です。信じられないのですが、ロンバルディア州では、2月23日付けの通達で、老人施設とデイサービスの施設を開放し、この通達は3月8日まで有効としていることです。老人施設で独自に閉鎖を決めていたところもあるのですが、州から公共サービスを邪魔しているという手紙が届いたと施設責任者が発言しています。そして、3月8日には、州の決議で病院に収容されているコロナウィルス感染患者(軽い症状の患者)とそうでない通常の患者を老人施設に移動させるということになりました。緊急にベッド数を確保するための対策とは言え、コロナ感染患者とそうでない患者を検査もせずに一緒くたに老人施設に収容したと批判を浴びています。さらに、老人施設に勤務する医者たちからの告発の手紙には、3月30日の州からの通達で75歳以上のコロナ感染者は病院ではなく、老人施設に収容することになったと書かれています。この手紙を書いた医者たちは「わら小屋に火のついたマッチを投げ入れるようなもの」と表現していましたが、老人たちは切り捨てられたという状況がよくわかります。その結果、イタリアにおけるコロナウィルスによる死亡者の高齢者率がとても高いことになったのです。
ロンバルディア州の失策はまだ続きます。3月12日には、州が「ミラノサローネ国際家具見本市」で有名な会場に500人収容できる臨時の集中治療施設を作るプロジェクトを発表しました。しかし、この発表がされた際に州の病院関係者は抗議の手紙を州に出します。この会場の近くに改築中の大きな病院があるからです。3棟もあり、一棟につき5階、6階の病院で500人は軽く収容できる病院です。ある報道番組の取材では、そのうちの一棟は3月10日まで改築工事をしていた記録が残されています。しかも、この番組の取材では、一棟の中に入ることができ、病院内は電気や暖房がつけっぱなしになっていました。中はとてもきれいで、あとはベッドや家具を入れるだけの状態です。病院関係者は、コロナ感染患者を老人施設に入れるより、この病院に移すべきだと抗議しましたが、聞き入れてはもらえませんでした。これは、失策というより意図的なものを感じます。州の責任者は報道番組で取材を受けていましたが、この改築中の病院は使用できるようになるには、人手不足だし6ヶ月から1年はかかるの一点張りでした。
3月20日から大会場を集中治療施設にする工事が始まりますが、何百人もの作業員がかりだされ、2100万ユーロもの資金が投入されました。結局、ほとんど使用されずに5月半ばに解体されることになりました。工事のためにお金が動いているのは明らかです。こんな非常事態の時でも、人命より、お金が優先されるのかと本当にがっくりとしました。今回のコロナウィルス問題では、高齢のお年寄りだけでなく、医者などの医療関係者も亡くなっています。定年退職したのに、医者不足で率先して働いて亡くなった方もいます。これが、イタリアのコロナ感染爆発の裏側です。
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左・ロンバルディア州知事、右・州評議員
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