今年、フランス大統領選で2度目の決戦に至った国民連合のマリーヌ・ルペン党首について、最初に党首として印象に残ったのは2011年のリビアに対するサルコジ大統領の軍事侵攻に反対の姿勢を示していたということである。2010年末にチュニジアで始まったアラブの春はリビアにも飛び火して、カダフィ政権に対する市民の抵抗運動が盛り上がりを見せていた。その時、国連安保理でこの問題を論じたのだが、フランスは国連で認められた一線を越えて、カダフィ大統領一族とその勢力だけを一方的に空爆する、という手段を取った。これに対して、当時の国民戦線のジャン=マリ・ルペンも娘で党首に1月になって早々のマリーヌ・ルペンもリビアへの軍事介入に反対の姿勢を示し、反戦ポスターすら作っていたことはインパクトがあった。
思えば、マリーヌ・ルペンはこの頃から、大統領の座を目指し、父親の時代とは違ったソフトな極右を目指し、大衆のイメージを作り替えようとしていたのだった。フランスの大統領選ではバロタージュと呼ばれて、1回目で過半数を取れなくては決選投票になる。国民戦線にだけは勝たせるな、という意識が父ルペン時代には国民の間で強く、1回目でたとえトップに立ったとしても、2回目で反国民戦線で諸政党が結束する傾向があったのである。国民戦線はかなり特異な政党だったのだ。そのためには、下品とか、好戦的とか、レイシストというようなレッテルをはがす必要がマリーヌ・ルペンにはあった。でなければ、必ず決選投票で負け続けるからだ。
この2011年のリビアに対する仏軍の爆撃は「主権国家に対する軍事攻撃」と責められているロシア軍のウクライナへの侵攻と一線が引けるのか、という疑問を筆者は持たざるをえない。そして、リビアではカダフィ大統領の位置を調べ、空爆を行ってその軍勢をばらばらにしてから、現地の反カダフィ派の兵士たちがカダフィを取り囲んでボコボコに殴り、銃撃して殺してしまったのである。この軍事作戦はプーチン大統領が目指していると米メディア等で発表されたウクライナのゼレンスキー大統領とその仲間に対する暗殺・捕獲作戦と(もし米情報が正しいと仮定して)よく似ていると筆者には思えてならない。
マリーヌ・ルペン党首は、のちに国民連合に党名を変更するが、いずれにしてもアフリカの独立国への空爆に反対するところから党首としての活動を始めたことは、恐らくフランス人の中に、この政党に対する拒否感を1つ下げさせるのに寄与したのではないかと思えてならない。
※2011年のマリーヌ・ルペン国民戦線(当時の名称)党首のリビア侵攻(当時はサルコジ大統領)に対する反戦演説
https://www.youtube.com/watch?v=jhEQfnyxISA&fbclid=IwAR0ykFAwbte1dhh4MJ7-ZO6ivlLT-kKOsB7Jk5WlzAvIqr6yHD1FlAs-kXw 演説では、あらゆす戦争に反対と言ってはおらず、リビアでの戦争に「フランスの利益はない」と語っている。その理由として、軍事介入でリビアに政権交代が起きたとしても、人道的な問題があると同時に、ジハーディストがフランスに潜入したり、多くの難民を生み出したりすると語っている。実際にフランスにはジハーディストのテロ事件が2015年に連続して起きたことは記憶に新しい。また、この演説でサルコジ大統領の軍事介入(NATOの枠組みである)は、国連安保理の決議に違反していることも訴えている。市民を保護する必要はあるが、(どちらの陣営に対する爆撃であれ)爆撃を容認してはいない、と語っている。
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