今世紀に入ってドイツの『ヴァンゼー会議』や『ヒトラー最期の12日間』あるいは米国の『硫黄島からの手紙』など、戦争・戦闘の全貌あるいはある出来事の全貌を多数の視点を絡ませてポリフォニックに描く戦争映画、もしくは歴史映画が複数制作されました。これらはハリウッド的な主人公がある課題を解決するまでの葛藤を描くタイプの1つの視点をたどる映画とは異なる思考で貫かれているように感じます。そして、そのことは歴史叙述のテーマと関係しているように思われます。
複数の視点を交えて1つの出来事を見つめる映画は、イデオロギーを追求した映画というよりも、むしろ「そこでいったい何が起きていたのか?」あるいは「なぜそんな風に事態が進んだのか?」という監督および脚本家の問いかけに基づいているように思われます。歴史学は、単に年号を覚えるのとは根本的に異なり、歴史学の最初には歴史家の問いがあると言われます。問いがあるからこそ、その調査が成り立つのであり、その問いは歴史家の生きている時代時代によって変化します。だからこそ、戦後間もない時に作られた戦争映画(歴史映画)と80年近くたって作られる戦争映画とは、歴史家あるいは映画監督の問いが変化しているからこそ、同じ出来事を描くにも異なる「歴史」が浮上します。そこには歴史修正主義の問題もあり、それに対する批判もまたあります。
歴史学では、英雄と言われる人々を中心に描く歴史観もあれば、名もない人々の生活自体を中心に据える歴史観もあり、その両者を組み合わせた歴史観もあります。いずれにしても単純に「偉大な政治家」とか皇帝や独裁者、英雄の行動をつづった歴史とは異なる歴史観が台頭しており、そのことは今日の政治観が政治とは名もない人々が主人公である、という政治観に転換しつつあることと通底します。私は今世紀に入って、多数の視点が共存しながら事態が進行していく歴史映画が欧米で制作されるようになった背景には、こうした歴史観と政治観の変化が関係しているのではないか、という仮説を持ちました。
先述の特徴をまとめればニューウェーブの歴史映画ないしは戦争映画には�(�数の視点で構成する ��何がそこで起きていたのかを映画製作を通して(台本作りとその台本に沿った演出と演技を通して)探りたい、という探求の2つがあると思われます。もちろん、昭和時代の戦争映画でも多数の登場人物による多数の視点が登場する映画はありました。ではそれらと何が違うのか、と言えば、歴史学が時代とともにより豊かなデテールを持つようになり、過去の集積が反映していることではないかと思います。もっと細かい登場人物一人一人の襞のようなところまで描けるようになったのではないか、ということです。あるいは時間が経過する中で、過去に対する見方が俯瞰的な視点へ変化することもありえるでしょう。そして最初に「答え」ありきで作るのではなく、何が起きていたのかをもう一度、後世の人間たちが問いかけて確かめたい、という思考でしょう。もちろん、出来事を丸ごと再現することなど不可能です。しかし、何が起きていたかを理解しようと俳優たちとともに試みることは可能です。
クリント・イーストウッド監督の『父親たちの星条旗』で、亡くなった元兵士の息子が父親のことを父の戦友たちから聞き取り調査をしているシーンが象徴的です。昭和時代であれば戦争はみんな「知っている」ことでした。少なくとも戦争体験者がたくさん生きていました。したがって、「答え」がまずあったのです。それは多くの場合、反戦的な視点であったのでしょうが、それでもそうした視点による縛りが劇の構成にある種の道徳的なバイアスをもたらしていた、ということも言えるかもしれません。また冷戦終結によって、米ソ対立のイデオロギーの縛りが少なくなったということでもあります。もちろん、今日、ウクライナの戦争で再浮上する気配もあるのですが、そこは今後の経過を見守りたいと思います。
■日仏会館シンポジウム「イマージュと権力 〜あるいはメディアの織物〜」
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■日本メディアの神話 沖縄、南沙諸島、朝鮮戦争をつなぐもの
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201609050947581
■私はなぜ刑務所の民営化と闘ってきたか 元受刑囚で「刑務所法律ニュース」のジャーナリストに聞く Interview : Alex Friedmann , Managing Editor of "Prison Legal News."
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201612081813454
■ジャネット・イエレンFRB議長の政策金利の見通し演説 1月18日 於サンフランシスコ Janet L. Yellen ”The Goals of Monetary Policy and How We Pursue Them”
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701270414355
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