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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2024年12月02日20時57分掲載
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コラム
【山里から⑤】娘帰る 西沢江美子
いつもの散歩道。大きな百姓家がこわされた。小窓が並ぶアパートかとみえるクリーム色の洋風住宅がいつの間にか建った。広い屋敷に立ち続けていたカシの木が倒され、ツバキもモクレンもなくなった。
大きな家が目隠しの幕の中で重機でつぶされ、新建材の今風の建物が建つ。屋敷の背だ交代は、家の主人公の交代だ。そして、地域の景色の交代だ。今日は、「交代」をめぐる小さな話です。
それは突然のことだった。「節分すぎ、うちに戻るけど、いいよね」。還暦を過ぎたばかりの娘の電話。いつもの三日おきにかかってくる朝の電話とどこか違っている。「戻るって」「だからそっちに帰るのよ。父さんの場所も空いているでしょう。そこに私をおいて一緒に暮らそうよ」。
そこまで聞いて、私の頭はやっとはっきりした。「えっ、おまえ帰ってくるの。本当」。
散歩の途中、木株に並んで腰かけたSさんの「娘帰る」の一本の電話話。
何事も合理的で前向きに考え、自分できちんと判断していきいきと一人暮らしを楽しんでいる八三歳。珍しく悩んでいた。
「娘が帰るのは、そりゃうれしい。でもね、これまでに一人暮らしはどうなるの」「何かといいんじゃない。娘だもの。子どものいない私にとってはうらやましい話よ」「簡単にいわないで。一八から離れていた娘よ。ずっと看護師をやっていた子だから、何かあった時は助かるよね。でもね」。
二時間余りも冬の陽を背中に浴びながらわかった「でもね」の意味はこうだ。
娘が秩父を出ていって四二年の時間は、夫と二人のくらし。二人で働き、やっと自分の家をつくり、夫が倒れ、介護しながら働き、これ以上、日に日に自分のことがわからなくなる夫を抱えたら共倒れになると、」夫をだましだまし近くの福祉施設に入れた。毎日バイクで夫に面会。毎日通ってくれる優しい女性と思って夫は死んでいった。夫がなくなって十年。一人ぐらしになれた。でも家の中は夫のくらしてきた物でいっぱい。
それらにものと娘のものを交代しなければならない。娘の四二年間のくらしを入れるには、夫の洋服や寝具、こまごましたものは捨てたけど、「物ではない物」を捨てるのは大変だよ。
Sさんが悩み、解決口を探していることは、自分と夫の生きてきた歴史。そして、二人に連なる様々な歴史、その中で生まれた娘の歴史をどうつなげ、娘に娘に渡すことができるのかということだ。
あまりにも時代が違いすぎる。「タテにものを見られない世の中で生きているからね」。
「語り継ぐ」ことのむずかしさを共有しあって短い冬の陽を後にした。
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