名古屋入管に収容されていたウィシュマ・サンダマリさんの死亡をめぐる国家賠償請求訴訟の第24回口頭弁論が28日、名古屋地裁で開かれた。 原告・遺族側が申請した東葛病院の下正宗医師が証人として出廷し、「適切な対応が取られていれば救命できた可能性はあった」などと証言した。提訴から約4年が経つ裁判の医学的審理は、今回でいったんの区切りを迎えた。
下医師は病理細胞診を専門とし、提出された医療記録や栄養摂取データなどをもとに意見書を作成した。法廷での争点は、ウィシュマさんが亡くなる直前の身体状況と、それに対する医療対応が妥当だったか、そして「救命できた可能性があったのか」に集約されていた。(岩中健介)
──ウィシュマさんは「切迫した危険な状態だった」
被告・国側は、腎不全やケトアシドーシスなどの病態がみられた可能性を示す資料に触れつつも、それらがウィシュマさんの死に直結したかは不明だと主張してきた。 これに対し下医師は、これらの状態が死亡に影響を与えた可能性を否定できないと述べ、複数の臨床所見を総合すれば、速やかな対応が必要な「切迫した危険な状態」だったと証言した。
特に焦点となったのは、ビタミンB1欠乏による栄養障害の問題だ。 下医師は、ウィシュマさんが亡くなる約3週間前の21年2月中旬以降、ほとんど栄養を摂取できていなかった期間が続いたこと、仮に一部を口にしていたとしても嘔吐を繰り返していたことなどを踏まえ、「実質的にビタミンB1の必要量を大きく下回っていた」と説明した。
また、外部の精神科医が「ウィシュマさんに意識障害はみられなかった」と判断していた点についても、下医師は、通訳を介した限定的なやりとりだけで全体像を把握するのは困難だったと指摘。 血圧などの数値だけでは判断できないものの、他の臨床症状と合わせれば、ショック状態やケトアシドーシスの可能性があり、通常であれば速やかに外部病院へ搬送すべき状況だったと述べた。
──「救うことはできた」
弁論後の記者会見で、弁護団は今回の証言について、
「前回の今川医師の尋問では、ビタミンB1欠乏が死に結びついた臨床経過が詳細に分析された。今回はさらに一歩踏み込み、脱水や栄養失調などが体内でどのような変化を引き起こし、死亡に至ったのかが説明された」と整理した。
また、被告・国側が「死に至る要因はあったが、死因と断定はできない」との立場を崩していないことについて、「細部の数字に集中する一方で、全体像としての危険性には有効な反論ができていない」との見方を示した。
妹のポールニマさんは会見で、「姉は救うことができた、と医師の口からはっきり言ってもらえたことが何より大きい」と語り、入管施設における医療体制の不十分さを強く訴えた。
──医師の判断にとどまらない検証が必要
今回の証人尋問をもって、裁判で予定されていた医師の証人尋問は一通り終了した。
一方で弁護団は、当時の名古屋入管局長や処遇担当統括、看護師、看守勤務者など、医療判断が実行されなかった背景に関わる人物の証人尋問が不可欠だと主張している。
指宿昭一弁護士は会見で、「個人的な見解」と断ったうえで、
「当時ウィシュマさんを担当していた名古屋入管の新美医師が『私には点滴を行う権限がなかった』と証言している以上、誰が判断し、あるいは判断しなかったのか、そしてなぜ対応されなかったのかという点に踏み込まなければ、今後も入管内で同じことが繰り返されるだけだ」と強調した。
また、その後の支援者報告会では、参加者や支援団体「入管闘争市民連合」の東海エリア(START)、関西エリア(TRY)で活動する学生メンバーなどで、「私たち市民に何ができるのか」との問いが繰り返し共有された。
ウィシュマ裁判は、入管という制度の中で、ひとりの命がどのように扱われてきたのかを、具体的な事実と証言を通じて明らかにしようとしている。
排外的な言説や政策が強まるなかで、こうした裁判に継続して目を向けることは、社会のあり方を問い直す行為でもある。判決に至るまでの過程に、市民が関心を持ち続けることの意義が改めて問われている。
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